紫の霧と聖なる光
カシューは、一人、全速力で灰色の大地を駆け抜ける。大きく振り動かす黄色い手袋と黄色い長靴が、暗い空に残像を残す。
カシューは、あっという間にシャトルの影に潜り込み、開きっぱなしの階段を登り中に侵入する。人が居ないか確認しつつ、急いで操縦室へ向かった。
扉を開けると、座席に座っている二人の顔がこちらを向く。
「――なんだお前は!?」
彼らは驚きの声を上げるが、カシューにはヘルメットで表情が見えなかった。カシューは、素早く手に持っていたフォークで突き刺す。
そうして、一人目を瞬く間に処理した。
二人目は、抵抗しようと動かす手を、カシューに押さえつけられ、ざくりとフォークを刺されて動かなくなった。
「カシュー!大丈夫か!?」
カナタが駆けつけた時には、全てが終わっていた。
カシューは、荒い息遣いで二人に言う。
「二人を、コックピットからどかして貰える?私は、確認する事がまだあるの。」
そう言うと、カシューは操縦室から出て行った。
呆気に取られたカナタは、ウェイブに呼びかける。
「ああ……。おっちゃん、手伝ってくれ。」
「やっ、殺ったのか?」
遅れてシャトルに乗り込んだウェイブの声だけが聞こえてきた。
カシューは、開きっぱなしのシャトルの階段を閉じる。そして、後部の貨物室へ向かって歩いて行った。
「うげぇ……。フォーク一本で、二人も軍人を殺せるもんなのか?しかも、こんなあっさりと…。」
ウェイブが兵士の足を持ち、嫌そうに言った。頭側を抱えるカナタがウェイブに答える。
「そんな事、俺に聞かれてもな…。こいつ、どこにおこう?」
カナタは、船内を見渡す。
「座席に座らせて、シートベルトをしておこう。飛行中に中を飛び回られると厄介だからな。」
「了解。」
二人で協力して、ぐったりとした兵士を運ぶ。
「嬢ちゃんは、一体何者なんだ?」
ウェイブは、カナタに聞いたつもりだったが、通信を聞いていたカシュー本人が答えた。
「私は、プリズムのエージェント。カシュー・アップルよ。そして、彼らは、紫の霧の星の軍人さんみたいね。」
パープルミスト・ミリタリーレーション。そう書かれた宇宙食を、二人の前に投げた。
「パープルミストだと!?お隣さんじゃないか!何でデスペアに!」
全力で驚くウェイブにカシューは、冷静に答える。
「さあ?何処からか、こっちの作戦が漏れたみたいね。」
重大な事を軽く言うカシューに、カナタが聞く。
「そのカシューが腰に付けてる筒が関係してるのか?」
「知りたいの?」
カシューは、筒に手を添えて悪そうな笑みを浮かべた。
「どうせ死ぬかもしれないんだ。聞いたって損はないだろ?」
「いや、ワタシは……知らなくていいと思うぞ。知ると命を狙われそうだ…。」
警戒するウェイブを他所に、カシューが話を続けた。筒を手に取り、二人に見せびらかす。
「私も中を見たいと思っていたのよね。ここでは、アレだから裏へ来なさい。」
そう言うと、カシューは、貨物室に戻って行った。
カナタとウェイブは、顔を見合わせさっぱり分からないと、両手を掲げて肩を上げた。とりあえず、ついて行くしかなさそうだ。
「早くここを出ないといけないんじゃないのか?」
カナタは、貨物室に入り扉を閉めた。
カシューは、網で固定された大きな荷物の前で、二人が位置に着くのを待っている。大事なはずの筒を、手持ち無沙汰にくるくると回す。
「焦っても仕方ないわ。どうせ飛び立つ時に、バレるんだから。」
「確かにそうか…。」
カシューは、二人が目の前に待機したのを確認してから聞く。静かにしているウェイブだけは、とても嫌そうな顔をしていた。
「それじゃあ、開けるわよ?」
カシューが筒の先端を捻って引き抜く。銀色の筒の中から、筒型のガラスの容器が現れる。中は、白く光っている。
カナタとウェイブの踵が、自然と床を離れる。知りたくないと言っていたウェイブまで、中を良く見ようと覗き込む。
カシューが中身を引き上げると、どんどん光が強くなり、直視出来ないほどの眩しい光が放たれる。容器の中では、指の爪ぐらい小さな球体が光り輝いていた。
「眩しい!」
「何なんだ!目がイカれるぞ!」
二人が叫んだ所でカシューは、容器をサッと閉じた。
周囲は、通常通りの色を取り戻すが、まだ目がシバシバとする。
「通称ホーリーライト。別名、ホワイトホールよ。」
カシューが説明すると、聞き覚えのあったウェイブがカシューに聞く。
「それは、ホープの博物館の目玉じゃないのか?」
「そうなのか?」
「これは、使い方を間違えると、銀河の半分が消滅すると言われている物らしいわ。」
「そんな危険な物を博物館に!?」
カナタは、驚いてカシューから距離を取った。
「それを人知れず回収するのが今回の任務なの。」
自慢げに言うカシューに、ウェイブは頭を悩ませる。
「偉く口の軽い捜査官だな…。」
「もう外部に漏れてるみたいだし、問題ないでしょ?それに私に何かあった時、これの存在を知らないと、あなたたちが困るわよね?」
カシューが筒を振りながら言うと、突然、女性の大声が返ってきた。
「問題大有りよ!カシュー!あまり民間人を巻き込むなって、いつも言われてるでしょ?」
声に驚いたウェイブが聞き返す。
「誰だ!?」




