表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

侵入者と潜入者

 カシューは、ヘルメットを脱いで、真っ赤な髪を露わにしていた。棚のヘルメットに、真剣な自分の顔が三つ、反射して映り込む。

 カシューは、自身の顔と睨めっこしながら、左腕の端末を操作する。上の状況が気になる。タイミング的に、アーティファクトが関係しているのが明らかだ。まずは、敵の正体を知る必要がある。アーモンドの伝言が脳裏にチラつき、カシューは内心焦っていた。

 腰の銀色の筒を気にしながら、カシューは、仮想キーボードを三つのヘルメットの前に設置する。そして、黄色い手袋をした指先で音もなくキーボードを叩き始めた。

 カシューの左腕の画面と三つのヘルメットに、難しい文字列が並ぶ。カシューがキーボードを打ち込む度に、文字や記号が飛び交う。

 まだ筒の中身も確認出来ていない。早過ぎる予定が予期せね予定を呼んで、タスクが渋滞してきた。待ってはくれないその予定が、カシューの頭を呑み込み通過して行く。まだ、デスペアからどう脱出するかも決めていないのだ。

 カシューの頭の中は混乱し、顔に笑みが溢れてきた。簡単な任務ほど、詰まらない物はない。――面白くなって来たじゃない。


 カシューの指が、仮想キーボードを貫通して、勢い良く棚を叩いた。

 その瞬間。ヘルメットのガラスの文字列が消え、映像が映り込んだ。


 一つは、施設の外の映像。電波塔から滑走路と施設の出入り口を見下ろしている。見知らぬ二機のシャトルは、階段が降ろされた状態で、エンジンを切って止まっている。

 真っ暗な星空と酸素のない土の大地。静かなクレーター内には、これといって他に情報は無かった。


 もう一つは、一階のセキュリティーホールだ。検査機が立ち並ぶその場所では、多くの機材から煙が上がっていた。

 真っ黒な軍用のスーツを着た人達が、銃を構えて物陰に潜んでいるのが見える。映っている者だけで、四、五人だろうか。隙を突いては、銃弾を正面に撃ち込んでいる。

 シャトル二機ということもあり、荒く見積もっても最低十人以上。謎の武装集団が、十五人は居ると思って間違いないだろう。


 そして、最後の一つは、エレベーターへ向かう通路だ。頑丈な隔壁が閉じられ、赤いランプが点灯している。警備ロボットや施設の従業員が無線で連絡を取り合い、駆け抜ける姿が見えた。

 まだ襲撃犯が、内部に侵入していないことが分かる。


 扉が開き、カナタが戻ってきた。早速ヘルメットを取り外し、新鮮な空気を美味しく吸い込む。こもった空気を発散し、涼しげな部屋の空気で顔を洗った。

「ふう。ルミナスに聞いたが、上層に客だって?」

 カナタは、汗ばんだ金髪を跳ね上げ、気持ち良さで笑みが溢れていた。

「ええ。監視カメラの映像を見てるけど。ついさっき、武装した奴等が突入して来たわ。」

 カシューは、まだキーボードを操作して何かを調べている。

「まじかよ!でも、俺たちゃ安全だよな?ここには、何もないはずだし。あるのは、ゴミと債務者(ゴミ)だけだ。」

 大手を広げて、自分の事を自信満々に()()だと言うカナタに、カシューは呆れた。

「そうね。カナタは、ここに隠れてなさい。」

「え?カシュー、()()は?って言うか、さっきから何してるんだ?」

 棚の上のヘルメットに映る、三つの映像。カシューの端末の画面には、難しい文字列。そして、カシューは、その画面から目を離すことなく、キーボードを操作し続けている。

 カナタは、この状況を理解出来ずに目を丸くした。

「ルミナスの権限を、上位に書き換えてるの。あと、私の命令には絶対に従うわよ。」

 カシューがニヤっと悪い顔をしたのを、カナタは見逃さなかった。

「なんでそんな事を…?」

 引きつった笑顔で困惑している察しの悪いカナタに、カシューは指を動かしながら冷静に言う。

「脱出する為に決まってるでしょ。あとは……ここを、こうして、よし!」

 カシューは、指で棚を勢い良く跳ね上げた。プログラムの書き換えが完了した。

 清掃作業の補助が主な仕事だったため、それ以上の権限がルミナスには無かった。カシューがルミナスの権限を上げた事で、ルミナスがこれまで出来なかった事が可能となった。

 例えば、上層の扉の鍵を閉めたり、警備ロボットに命令を出したりだ。迅速に脱出する為には、ルミナスの手が必要だ。


 それからカシューは、天に向かって声を掛ける。

「ルミナス。侵入者の位置は?」

《現在。セキュリティーホールを突破され、真っ直ぐにエレベーターホールへ向かっています。》

 カシューは、ルミナスの返答を聞きながら、棚のヘルメットを一つ取り上げる。

「エレベーターの電源を落として!一階の隔壁とドアも全てロック。」

 そう叫びながら、ヘルメットを装着した。

《了解しました。》

 カシューは、ヘルメットの画面を元に戻して、出口へと向かう。そんなカシューを追いかける様に、カナタが聞いてくる。

「カシュー!どういう事だよ?お前が狙われてるのか?」

「私は、潜入捜査官なのよ。カナタ、短い間だったけど楽しかったわ。またね。」

 外へ出ようとすると、カナタに腕を掴まれた。カナタの黄色い手袋が、カシューの二の腕を引き寄せる。

「待てよ!俺も行くよ!」

 カナタは、真剣な顔をしてカシューを見つめた。

「は?足手纏いは、いらないわ。急いでるの。分かる?」

 カシューは、ヘルメットのガラス越しにカナタをじっと見た。その目は、早く手を離せと訴えていた。

「それでも一人じゃ大変だろ?使えなくても、弾除けぐらいにはなるさ。」

 カシューには、カナタがどうして着いてくると言うのか理解出来なかった。カナタに全く利がないからだ。

 真面目なアホ面をするカナタは、断っても着いてくる恐れがある。それに、目を離した隙に、予期せぬ行動をされても厄介だ。

「はぁ…。この犬は、止めてもついて来そうね。」

 カシューは、あらゆる想定をした後、カナタを連れて行く事に決めたようだ。

「じゃあ。ヘルメットを被って。これまで通りE―15に繋いで。」

「ああ、OK!」

 カナタは、カシューに言われて、急いでヘルメットを被った。笑みを浮かべない様に気を付けているが、カナタの表情は、少し嬉しそうだった。

「それじゃ、行くわよ。」

 カシューは、扉を抜けて通路に出る。

「どこを目指すんだ?」

 二人は、大きな数字と扉の間を早足で抜けて行く。他の人達は、その扉の奥でまだ作業をしているはずだ。

「一旦、食堂から上に行く。」

「分かった!」

 カシューは、大きな通路を突き進み、突き当たりの扉を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ