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宇宙食と天ぷら定食

 ――数日後。

 カナタに業務を習い、カシューも仕事に慣れてきた。初日と二日目は、エラーの多さで大変だったが、それを乗り越えると通常作業は楽な物だった。

 カシューは、今日も優に仕事を終わらせ、早めの食事に有り付いていた。


 ニュース。

〔今、惑星ホープの水族館へ、捜査官たちが突入しました。〕

 アナウンサーが、大きな氷山の様な建物の前で実況している。

〔調べによりますと、この水族館の利益に目を付けた、通称バイグレと呼ばれる犯罪者組織が、水族館を乗っ取り資金流用していたものと思われます。〕

 カシューは、デスペアの食堂のテーブルで、ニュースの画面を映し出していた。左腕を軽く持ち上げると、腕に沿って画面が動く。

〔主犯格の男が、この水族館の館長○○氏の名を偽り運営していた、とのことです。残念ながら、○○氏の死亡は、確認されており、その他にも、バイグレは、他組織から違法廃棄物の処理を請負――。〕

 ――この前のヤツ、ちゃんと捜査されてたんだ。

 カシューは、スプーンでトレーから宇宙食を掬い上げ口へ運ぶ。こんな場所で、自分が他の事件に関わるなんて、カシューは思ってもいなかった。精々同じフロアの人に、絡まれるくらいだと思っていた。――まあ、絡まれているのは、富豪様の方だったけど。

「おいおい。富豪落ち。働いてないのに、飯食って大丈夫なのか?」

「五月蝿いぞ!貴様ら!向こうへ行け!」

 そう叫ぶぽっちゃりとした男性は、食事中にも関わらず数人の男達に囲まれていた。

「お前の事を心配して言ってやってんだぞ?普通の神経してるなら、利子代ぐらいは働かないと、飯なんて食ってられないだろう。あっこれは、失礼。富豪様は、普通じゃないんでしたっけ?」

「ぐぬぬぬ……。」

 イカロスの男性は、顔を真っ赤にして拳を握り締めていた。

 すると、別のテーブルから男達を止める声が掛かった。

「おい、やめてやれよ。おれは、助かってるんだ。二人分働けるからな。予定より早く、ここから出られそうだ。」

 イカロスの男性の相方だろう。彼は、そう言うと疲れた顔で食事の続きを始めた。肘を突き、気怠そうに皿の中をフォークで突ついている。

「イカロス……相棒が良い奴で良かったな。」

 男達は、捨て台詞を吐き終わると食堂から立ち去って行った。


「カシュー!また、そんなモン食ってんのか!?」

 トレーを持ってやって来たカナタが、カシューのトレーの中身を見て文句を言った。

 カナタは、白いご飯と山盛りの野菜の揚げ物が乗ったトレーをテーブルに置き、カシューの隣に座る。

「別に良いでしょ。腹に入れれば、何でも同じよ。」

「そんな訳ないだろ。ほら、これ分けてやるから、食えって。顎も鍛えられるし、食感が感受性を豊かにするんだ。いつも無感情な、お前に必要な物はそれだぞ。」

 要らない押し売り。カナタは、何かとお節介を妬きたがる。

「いらないわよ。何よこれ。」

 カシューは、自分の皿の淵に載せられた狐色の物体を、嫌そうに睨んだ。

「天ぷらさ。サクサクして美味いぞ。いただきます。」

「ふ〜ん。」

 手を合わせるカナタを横目に、カシューは、載せられた天ぷらを指で摘み上げて眺める。おそらくカボチャの天ぷらだ。緑色とオレンジ色の野菜が見事に衣に包まれている。

 カシューは、天ぷらを口に運び一口だけ齧ってみた。カナタの言う通り、サクッと音が鳴る。カシューは、顎を動かし良く味わった。口の中でカボチャの甘みがトロける。

「悪くないわね。」

「だろ?で、何観てたんだ?面白い映画とかだったら、教えてくれよな。」

 カナタは、カシューの感想を嬉しそうにして、米を頬張った。

「ただのニュースよ。この前の水族館に、捜査が入ったそうよ。」

「ホープも最近物騒だよな。俺だって、希望を持ってホープに来たはずなのに……。」

 カナタは、箸を舐めてぼーっとする。

「またその話?カナタ。言わせて貰うけど、そろそろ気付いた方がいいわよ。」

 カシューは、もう何度も聞かされたとでも言わんばかりに呆れていた。

「え?何にだよ?」

 不思議そうにするカナタに、カシューは真実を教える。

「あんたは、ホープに来た時点で、選別者(セレクター)に選ばれてたのよ。」

「は?」

 カナタは、意味が分からず首を傾げた。

「相変わらずのアホ面ね。いくらギャンブルのある星だからと言って、多額の借金を背負う人間がこんなに居ると思う?ホープは、富豪の星よ?」

 カシューは、食堂に居る人達を見渡しながら言った。ここに居る人達だけで、五十人以上がこの食堂に居る。

「いや、現に居るじゃないか?」

「じゃあ、犯罪者や極悪人がいっぱい居てもおかしくないわよね?ここに居る人達は、真面目に働く人だけなのよ。イカロスは、例外だけど。」

 カシューの言う事は、最もだった。刑務所に居る様な極悪人が、ここには一人もいない。みんなが借金を返す為に、真面目に働いている。言われてみれば、不思議な話だ。

「俺が高級車を破壊したのも、ホテルで豪遊したのも、仕組まれてたって訳か?」

「このフロアの従業員を賄うには、仕方ない事なのよ。理由が無いと、誰もやりたがらないでしょ?こう言う仕組みは、どこの世界にもあるものよ。セレクターを恨まない事ね。恨むなら、無知な自分を恨みなさい。」

 カシューは、言い終わると立ち上がり、空になったトレーを持ってカナタの後ろを通り過ぎる。

「おいおい。待てよ。崖に突き落として、そのまま行っちゃうのか!?カシュー!」

 カシューは、慌てるカナタを他所に、背中を向けたまま行ってしまった。


 カシューは、トレーを返却口に置き、点けっぱなしのニュースの画面を操作する。次のニュースは、木星と土星の大接近(ジャンクション)を報道していた。画面端のアイコンに、赤い丸が点いている。メッセージが届いているようだ。


 From:ドングリ [明日は、荷物の配送があって忙しい。顧客へ、林檎に緑茶を添えて出そうと思っているのだが、合うと思うか?]


 予定より早過ぎる。まだ、脱出の算段が立っていない。水族館の事件でホープが今騒がしい。それが関係しているのだろうか。

 しかし、緑茶を添えられるなら、何とかなるだろう。


 To:ドングリ [最高の付け合わせだね!こっちは、ここへ来て早々、トイレが詰まって大変な思いをしているよ。でも、大丈夫、楽しんでやってるよ。心配しないでね。]


 カシューは、メッセージを返信して部屋に向かった。

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