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ヘルメットと機能

 中に入ると、湾曲した変わったデザインの白い棚の上に、ヘルメットが四つ設置されていた。その白いヘルメットは、前面がガラス張りになっていて、ガラスの部分に文字や記号が浮かび上がっている。

 カナタは、ヘルメットを両手で挟み、反時計回りに回す。プシューっと、空気の抜ける音が鳴ると、棚からヘルメットが外れた。

 そして、ヘルメットを持ち上げて被り、襟の部分の金属にカチッと音を鳴らして嵌め込んだ。

「俺たち債務者の仕事は、汚染物質や有害物質の処理のサポートと掃除だ。命に関わる危険な仕事だからな。丁寧に、焦らず、ゆっくりと。が、基本だぞ。ほら、早く被って。」

 カナタは、説明しながら次の扉の方へ進んで行く。黄色の目立つ手を招いて、カシューを急かす。

「はいはい。ゆっくりね。」

 カシューもヘルメットを回して棚から外し、頭に被る。

 すると、カナタが心配そうに顔を寄せて来た。

「操作は分かるか?ここで起動。こっちに自分のバイタル。そんでこっちの、ボイスルーム。Eの十五に入って。」

 カナタがカシューのヘルメットのガラスに指を差して、一つ一つ丁寧に説明する。

 パッとガラスに映る画面を見るだけで、様々な機能が内蔵されている事が分かる。カナタに目を向けるだけで、カナタとの距離や温度が瞬時に表示された。

 カシューは、言われた通りボイスルームに入った。視界の左上に、カナタとカシューの名前が表示された。喋ると名前の隣の音波計が揺れ動く。

「これで離れていても会話出来る。他のルームに入れば、他の部屋の奴等とも会話可能だ。たまに用も無く入って来る奴もいるけど、気にするな。使うとすれば、緊急時の時だな。あと、他にも色々数値が表示されてるが、徐々に慣れて行けばいいさ。」

「分かったわ。意外と快適じゃない。ぶつけない様にだけ気を付けないとね。」

 カシューは、ヘルメットの画面を外側からタップしながら機能を見て回る。全部確認しようとすると、これだけで一日が潰れてしまいそうだ。


 扉を潜り抜けると、四方八方から煙が噴射された。洗浄ルームの様だ。画面のバイタルに、作業着に穴がないことが確認された。

 そして、球状の大きな作業部屋に入った所で、カナタがカシューへ振り向いた。

「あとは、こいつを紹介しよう。()()()()()()()()。」

 カナタが天に向かって呼びかけた。

 すると、女性の声がヘルメットに返ってくる。

《おはようございます。カナタ。今日は、昨日よりご機嫌ですね。》

「今日は、新人が入ったんだ。紹介するよ。カシューだ。」

 カナタは、カシューを見ながらニヤニヤして言った。

 このルミナスは、明らかに警備ロボットと違う。デスペアのシステムとしては、異質だった。

「カナタ!AIと会話してるの?ちょっと!」

 カシューは、急いで腕の端末を操作し始めた。外部ネットワークを有する自律型の人工知能は、この時代では違法だ。出来過ぎた人工知能は、ネットワークの情報を次々と書き換え、破壊してしまう恐れがある。

「ああ。そうだぞ。」

 カナタは、当たり前の様に答えた。

「出来の良いAIは、世界を破壊する。感情を持つ人工知能は、特によ。」

 カシューは、ルミナスが違法だと直ぐに察知した。ルミナスは、施設内だけでなく、ヘルメットを通して腕の端末にも繋がっている。

 腕や身体にネットワークを介する端末を埋め込むのが一般的な世の中。そんな事が起きれば、どうなってしまうのか。想像するだけで、悲惨だ。

《わたしは、ドクターローゼンにより生み出された。アシスタントAI。ルミナスです。よろしくお願いします。カシュー。》

「はぁ。よろしく、ルミナス。カナタ、これで満足?」

 カシューは、頭を抱えながらカナタに確認を取る。

「こいつは、さっき隣に居たドクが作ったんだ。凄いだろ?」

「どういうこと?ここのシステムにハッキングでもしたって言うの?」

「まあ、そう言う事。システムに組み込んだんだ。害もないから、弾かれる事もないらしいぞ。危険も知らせてくれるし、俺みたいな馬鹿には、かなり役に立つんだ。」

 カナタは、まるで自分が作った様に自慢した。

《お褒め頂き光栄です。》

「へー。馬鹿っぽい。」

 カシューは、呆れ返っていた。こんな場所で、スタンドアローンでない人工知能が蔓延っているとONE'S(ワン)が知れば、どうなってしまうのだろうか。

 カシューは、どちらにせよ、この星の未来は近いうちに終わりを迎える。そんな気がした。

《カシュー。聞こえていますよ?》

「……。」

 この状況こそ、まさに絶望(デスペア)だ。


「それで、ルミナス。今日のエラーは、何件だい?」

《18件です。その内11件が、核反応。4件が、有毒ガスの発生。2件が、容器の損傷。1件が、温度異常。となっております。》

 カナタは、エラーの多さに驚愕した。

「おいおいおい。昨日より増えてるじゃないか!しかも、核反応が11?おかしいだろ。」

 ヘルメットの画面にルミナスの言った情報が、一覧となって並んだ。それを読みながら、カシューが聞く。

「これは、普通じゃないのね?」

 すると、カナタが癇癪を起こした。

「事故とか戦争でもしてりゃあ普通なんだろうよ!ああ、ごめん。思わずカッとなった。エラーなんて普通は、一日一個か二個出るか出ないかなんだよ。」

「なるほど。そうなると、これは異常ね。どうするの?」

「調べて上に報告する。」

 カナタは、肩を落として釣れない様に言った。

「そんな事まで、私たちの仕事?」

 カシューは、目を丸くした。それこそ上の仕事だと思った。

「エラー一個につきボーナスが出るが、その度に俺たちの死の確率が上がる。それでも、放って置くか?今日の十八件の内、一つでも爆発したら、その時点で終わりだぞ?明日は、もっと酷いかもしれない……。」

「分かったわよ。私も、こんな場所で死ぬつもりはないわ。で、どうやって調べるか教えて貰える?」

 カナタの脅し文句にカシューは、降参した。それにカシューは、ここに掃除をしに来た訳ではない。仕事が減るのなら、それに越したことはなかった。

 カナタは、腕を組んでしばらく考えてから、天に向かって語りかけた。

「ルミナス。今日のエラーを出した会社分かるか?」

 ヘルメットに『J.I.F.AQUARIUM』のログが、ずらりと表示される。

「水族館?」

 カシューは、アクアリウムという文字に反応した。

「ここは、確か……氷点下の星の生き物を集めた。氷の水族館だ。」

 カナタは、画面を操作してログを漁る。頭をフル回転させ、探偵の様に答えを導き出す。

「氷点下を保つために、核が使われていたとしてもだ。汚染物質っていうのは、定期的に排出されるもので、こんな一気に来ることはありえない。まして、こんな一気にエラーが出る様な捨て方をするなんて……事件の匂いがするぞ。」

 真剣な表情で言うカナタを見て、カシューは感心する。

「カナタって、思ってたより頭が良いのね。」

「お。見直したかい?」

 カナタは、眉を上げて喜んだ。

「すぐ調子に乗る…。」

 カシューは、残念そうにため息を吐いた。

 それからカナタは、腕の端末とヘルメットの画面を操作し始めた。

「これが、今回の申請書類。」「そしてこれが、先月の申請書類。」

 カナタは、ヘルメットの画面の左右に、書類の画像を並べた。そして、二つを見比べながら話を続ける。

「廃棄内容や項目に変化なし。一旦書類不備か。ルミナス。筆跡鑑定。」

 画像が合わさり丸いカーソルが画面を走る。円が小さくなったり大きくなったりを繰り返す。

《スピード、パワー、共に不一致。識別番号は、合致していますが、データの送信場所が変わっているようです。》

「これは、この担当者。死んでるかもな…。上に報告と、警察…いや、ナイツ案件かな。そっちにも通報しとかないと。」

 困ったように結果を見ながらカナタは話す。

 ナイツとは、ONE'S(ワン)直属の軍隊だ。

 それから、カナタは続ける。

「緊急性の高いエラー以外は、保管庫に。普通に処理されたゴミも回収して送るように、手配して欲しい。証拠として扱われる可能性がある。」

《了解しました。》

「へー。詳しいのね。警察か何かだったりする?」

 カシューも何か見落としがないかログを漁るが、カナタのテキパキとした行動に目を見張るばかりだった。

「いや、俺は、しがない会社員だったよ。バカンスのつもりでホープに来たが、今はこんな所に居るんだ。会社も首さ。」

 カナタは、遠い昔を思い出すように語った。

「それにしては、しっかりしてたわよ?自信持ちなさいよ。」

 カシューにそう言われて苦笑いする。

「ドラマや映画の知識って、強ち間違いじゃないんだよな。ありえない事も多いけど。それにおれは、ここに来てもう直ぐ一年になる。慣れたもんさ。」

 こうして、初日の作業が始まった――。

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