目と口と歯車と
エレベーターホールに着いたカシューは、丸い床に乗り込んだ。
「ルミナス。エレベーターを下ろして。」
《かしこまりました。最下層でよろしいですか?》
「ええ。」
カシューが返事をすると、エレベーターホールの穴に明かりが灯った。床のランプが青色の光の柱を照らし始めると、床が降下を始めた。
床と壁の間に空いた大きな隙間から下を覗くと、下の階のエレベーターホールが迫って来るのが見える。エレベーターホールを通り過ぎる度に、大きな風を切る様な音がする。底は、遠すぎて見えなかった。
最下層では、多くの兵士が待ち構えていた。
エレベーターの起動を確認した為、最下層に居るほぼ全ての兵士が警戒に当たった。
そして、兵士たちは、下りて来るエレベーターの床を捉えた瞬間、一斉に銃を撃ち始めた。奥の壁に穴が空くほどのレーザーが撃ち込まれる。しかし、そこには誰も居なかった。
撃ち方を止め、エレベーターホールがしんと静まり返る。一人の勇敢な兵士がエレベーターの中を確認しようと、近づいて上を覗き込む。
すると、中から丸い物が通路に向かって落下した。覗き込もうとした兵士は、自身の隣を横切る落下物を目で追った。
『カーン!コンッ。コン。コロコロー。』
高い金属の音を鳴らしながら、待機していた兵士たちの下に転がって行く。
「グレネード!」
一人の兵士が叫ぶと、兵士たちが一斉に飛び退いた。
物凄い爆撃と共に、床と壁が砕けて煙が舞い上がる。
爆発音を合図に、カシューがエレベーターの中から颯爽と現れる。廊下に着地すると、即座に側の兵士をハンドガンで撃ち抜いた。
爆発から飛び退いた彼らは、床に伏せ、衝撃で動けていない。カシューは、何とか一命を取り留めた兵士たちに、容赦なくレーザーでトドメを射す。通路を進みながら、痛みに苦しむ兵士たちを、一人、一人、楽にして行く。
開かれた頑丈そうな扉の中から、銃を持った兵士が一人だけ出て来た。爆発音と銃声に釣られて、気になった様子だ。
カシューが銃口を向けようとすると、兵士は、パッと銃を捨てて手を上げた。
「待ってくれ!降参だ!投降する!」
そう叫ぶと、両手を挙げたまま、床に跪いた。
カシューは、警戒しながら声を掛ける。
「あなたの相棒は?」
「中で作業中だ。彼は、武器を持っていない。技術者だ。勿論、抵抗もしない!」
兵士は、中に居る相方に聞こえる様に伝えた。
どこの軍にも専門的な兵は、いるものだ。武器を持たないのは、稀だが――。
「いいわ。その代わり、あなたたちにも手伝って貰うけど、良い?」
「出来る範囲の事は、しよう。」
「中の技術者さん?あなたは、そのままメインコンソールへの扉を開いて!」
カシューが大きな声で中に向けて言うと、遠くから返事が返って来た。
「分かった!」
それからカシューは、屈んで兵士が捨てた銃を拾い上げる。
「あなたは、銃を持って、ここを守るのよ。」
カシューが兵士の胸に、拾った銃を押し付ける。
すると、兵士が動揺した。
「俺に味方を撃てと言うのか!?」
「違うわよ。申し訳ないけど。あなたの味方は、シャトルに引き篭もってる一名を除いて、全滅よ。じゃ、任せたわよ。」
カシューは、兵士の肩を叩いて制御室の中に入って行った。
「え…。じゃあ、一体何から守れと言うんだ…。」
兵士は、横たわった仲間たちを眺めて呟いた。
《カシュー。何をしているのですか?制圧は、完了しました。私は、安全です。彼を止めて下さい。》
大人しかったルミナスが、自ら口を開いた。
「何言ってるの。システムに異常があるかもしれないでしょ?ちゃんと調べないと。」
カシューは、制御室内の機械を調べて回る。
「どう?開きそう?」
カシューは、仮想キーボードで文字を打ち込んでいる兵士に声を掛けた。兵士は、壁の基盤の側に座って、ひたすら何かを入力している。
「はい。人工知能の妨害が厄介ですが、あと少しで突破出来そうです。」
人工知能相手に、扉を開こうとしているこの技術者は、相当な腕の持ち主だ。それは、カシューでも中々骨が折れる作業だ。
カシューは、ここは彼に任せて問題ないと、判断した。
「ルミナス。今直ぐ妨害を止めて、扉を開きなさい。」
《承諾出来ません。》
ルミナスがカシューの命令を拒否するという事は、ルミナスの命に関わる問題だという事だ。これ以上踏み込むと、防衛本能でカシューを攻撃してくる可能性がある。
カシューは、腕の端末の電源を落とした。カシューの身を包むボディースーツの明かりが消える。緑色に光っていたラインは、黒くなって落ち着いた。
「なるほど……。」
カシューは、ハンドガンを上に向けて引き金を引いた。青いレーザーが壁に着弾してカメラが弾けた。
それから、壁をハンドガンで叩いて、穴を空ける場所を確認する。
「あとは、ここね。」
少し後ろに下がり壁から離れると、アサルトライフルを構えて壁に発射した。壁に簡単に穴が空き、何かが焼き切れて火花が散った。
「どう?」
カシューが技術者に顔を傾ける。
兵士は、畳み掛ける様な凄まじい指捌きで、キーを打ち続けた。
「隔壁!開きます!」
兵士が叫ぶと、分厚い扉の内部で、歯車の回る音がした。




