攻と守
それから、カシューは、ウェイブとシャトルの調整を始めた。
ある程度終わった所で、貨物室に戻り荷物の中から武器を取り出す。予備のアサルトライフルを背中に背負い、腰の輪にハンドガンとグレネードを装着した。
準備が整ったカシューは、アサルトライフルを片手で持ち上げ、肩に担いで船内を歩き始める。
「さーて。ひと暴れするわよ。」
カシューは、気合いを入れた一言を発すると、堂々とシャトルの階段を降りた。
電波塔に戻れば潜入は楽だが、それでは暴れた内に入らない。カシューは、走らずに歩いて施設の入り口へと向かう。
シャトルから離れた所で、ヘルメットの内側に、ウェイブの緊張した声が響く。
「それでは、離陸する!嬢ちゃん、無事でな!」
カシューは、振り返ってシャトルの様子を眺めた。
真っ黒な星空の下で、シャトルのエンジンが唸り声を上げ始めた。その様子を、大きな顔をしたホープが、静かに見守る。
「ええ。悠長に挨拶なんてしてたら、蜂の巣にされるわよ。」
ウェイブに注意したカシューは、シャトルに向けて銃を構えた。
案の定、隣の滑走路のシャトルから、銃を担いだ兵士が出て来た。カシューは、即座に引き金を引く。
兵士が階段の途中から、シャトルに向けて銃を構えた途端、カシューの撃ち込んだレーザーが兵士を撃ち抜いた。
シャトルが砂埃を巻き上げて、滑走路を走り始める。エンジンから青白い炎が噴射されると、一気に速度を上げた。
シャトルは、一瞬で滑走路の端に到達する。すると、船首が持ち上がり、垂直となって星空へと舞い上がった。
「ピス!煙幕撒いたら降りてきてよね。」
天高く飛び去るシャトルを見送りながら、カシューが言った。ウェイブの腕前は、分かっている。離陸さえ成功すれば、後は安心だろう。
「にっひっひ。分かってるって。」
楽しそうに返事をするピスは、巨大な軍艦に煙を巻き付けている最中だった。遥か遠くからデスペアを見下ろしていた軍艦に、小バエが湧いている。幾つもの小さな無人機が、周囲を鬱陶しく飛び回り、白い煙を撒き散らす。
カシューは、視線を地に戻して施設へと向かう。大きな通用口に到着すると、端末を弄って扉を開く。
機械的な音が鳴り、入り口が開くと、中に向けて銃を撃ち込んだ。一人は倒したが、もう一人が残っている。兵士が撃ち返し、カシューの居る入り口から赤いレーザーが数発飛び出した。
カシューは、外壁に身を隠し、予備のアサルトライフルを壁に立て掛けた。流石に、激しい動きをする時には、邪魔になる。アサルトライフルは、大きくそれなりに重量があるからだ。それに、この銃は、自分の為に持って来た訳ではなかった。
それからカシューは、腰からグレネードを手に取り、中に投げ込んだ。グレネードが床を跳ねる音が鳴った数秒後、爆発音と叫び声が聞こえた。
衝撃と煙が巻き上がる中に、空かさず走り込む。立て掛けたアサルトライフルは、ピスの為に置いて行く。
ここからは、カシューの独壇場となる。
階段を上がった時も、この入り口の兵士も、パイロットたちでさえも、二人だけ。パープルミストの軍隊は、タッグを組んで動いている事が分かる。
四、五人の小隊で連携を取れば、カシューと良い勝負が出来ただろう。兵士たちは、カシューの事を甘く見ていた様だ。
煙の巻く通路を抜け、セキュリティーホールに飛び込むと、兵士たちが驚いて銃を高く構えた。しかし、彼らが照準を覗く前には、カシューが二人の体を撃ち抜いていた。
セキュリティーホールの中は、激戦の跡が見られた。欠けたモニターや千切れた配線からは、火花が飛び散り、砕けた机や黒ずんだ壁から、焦げた臭いが立ち込める。大の字に倒れたデスペアの職員や無残に破壊された警備ロボットの姿が痛ましい。
カシューは、煙の燻るセキュリティーゲートの間を抜けて奥を目指した。
通路への扉に辿り着いたカシューは、監視カメラに顔を向ける。ヘルメット越しに、カメラのレンズを見つめて言う。
「ルミナス、監視カメラの映像を全て落として。」
しかし、ルミナスの応答が無い。カシューは、左腕を掲げて端末に向かって、もう一度言う。
「ルミナス。聞いているのは、知ってるのよ。早くしなさい。」
カシューが少し怒った口調で言うと、黙りを決め込んでいたルミナスが反応した。
《了解しました。カシュー。いったい、何をなさるお積もりですか?》
「何って?デスペアの人達と、あなたを守らないとでしょ?早くして。」
カシューは、ルミナスに自然と嘘をついた。それでも、半分は本当の事だ。それからカシューは、ヘルメットを外して、作業着を脱ぎ始める。
《全ての映像を遮断しました。》
これで、こちらも相手も行動を把握出来なくなったはずだ。
作業着を脱ぎ捨て、ボディースーツだけになる。防護性能が完全に無くなるが、身軽さを優先させた。
左手にハンドガン、右手にアサルトライフルを持つ。ボディースーツの全身のラインは、相変わらず緑色に淡く輝いている。
準備が整い、壁に張り付いてから扉を開ける。
扉がスライドして開くと、通路の左方向から銃弾がいくつも飛んできた。赤いレーザーが扉の縁に着弾し、火花が飛び散った。
カシューは、ハンドガンだけを扉から出す。銃弾を数発撃ち込むと、さっと手を引いた。すると、再び赤いレーザーが飛んで来る。
レーザーが壁に黒い焦げ目を付けた瞬間。相手が撃つのを止めたタイミングを見計らい、カシューは勢い良く飛び出した。体を全て通路に曝け出し、両手に持つ長さの違う銃を何発も撃ち込む。
まず、機能を停止したドラム型の警備ロボットを盾にしていた兵士を、上手く撃ち抜いた。もう一人の兵士は、小部屋に身を隠し、扉の中からカシューの隙を突いて撃ち返してくる。
カシューは、弾が飛んで来る位置が分かっているかの様に、避ける。赤いレーザーが猛スピードでカシューの顔面の横を通り過ぎ、通路の奥へ飛んで行く。カシューの髪の赤い毛先がジュッと、音を鳴らして焦げた。
二発目も、避ける。レーザーは、脇腹の横を通り抜けていった。
カシューが兵士に銃口を向けると、兵士は、扉の影に引っ込んだ。カシューは、それを見て走り出す。一気に小部屋との距離を詰めると、兵士が銃を構えて飛び出した。
待ち構えていた兵士が、至近距離のカシューの体に銃弾を撃ち込む。だが、引き金を引いた時には、カシューの姿が、そこには無かった。
カシューは、スライディングで躱し、扉の横を通り過ぎながら兵士の横っ腹にレーザーをお見舞いした。兵士は、青い火花を上げて吹き飛んだ。
カシューは、起き上がり左腕の端末に指を掛ける。
「ピス。早く来ないと、私が全部片付けちゃうわよ?」
その時、後方の通路の先から足音が聞こえてきた。音の鳴り方から予測すると、カシューたちが上がって来た階段だろう。
「にっしっし。今着いたから!直ぐに行くよ!」
「入り口に銃を置いて来たから、それを使いなさい。」
「ホントに!?ありがと、カシュー!」
ピスの嬉しそうな声が、体に響いてきた。
カシューは、振り返って通路の奥に銃口を向けた。突き当たりの焦げ目に照準が合う。通路には、至る所に焦げ目があり、警備ロボットの残骸が転がっていた。
そして、壁の端から兵士の黒いヘルメットが覗き込むのが見えると、そこへ向けて引き金を引いた。兵士は、サッと身を隠した。
カシューは、後ろを警戒しつつ先に進む。別に倒しても良かったのだが、彼らの事はピスに任せる事にした。銃を用意した手前、少しは残して置かないと、後で非難されてしまうからだ。




