時間と空間
ピーカンがホワイトホールに弾丸を撃ち込んだ。
青白いレーザーが、白く輝く球を呑み込む――。
そう思われた、その時――。青い閃光は、圧縮されて縮まり、白光する球の中に吸い込まれた。
何も起きない。一瞬そう思ったが、直ぐにホワイトホールは、不安定に点滅を始めた。
そして、ホワイトホールが、今までにない程の眩しい輝きを吐き出した――。
――カシューの視界は、光に包まれ真っ白となった。
視界がチカチカとして、目を瞬かせると、明かりが落ち着いてきた。口から吐いた大きな息で、視界が曇る。
目の前には、沢山の文字が並んでいた。そして、その緑色の文字の向こう側では、ホワイトホールがガラスの筒の中で、静かに佇み光を発していた。
何故かカシューは、その銀色の筒状のケースを掴んだ状態で立っていた。――何が起こった?
カシューは、理解に苦しんだ。数秒前まで、這いつくばっていたはずだ。
隣では、カナタとウェイブが顔開きでホワイトホールを眺めている。二人がアホ面を並べている様子は、一日経たずして懐かしさを感じるほどだ。
ここは、パープルミストのシャトルの中。デスペアから脱出する前に、筒の中身を確認した時と全く同じ状況だった。
オアシスに降ろす前の網に包まれた大きな荷物。外に光が漏れないように、閉められた貨物室の扉。あまりの眩しさに目を瞬く、アホ面の二人。
カシューは、思考を早め、現状を把握しようとした。
これは、記憶の再現で、いつの間にか仮想世界にトリップされたのか。――否。
ピープで長い期間、訓練を積んできたカシューには、ここが現実世界だと自然と理解出来ていた。仮想空間や夢を視ている訳ではない。信じたくないが、あの一瞬で時を遡ったようだ。
これが、ホワイトホールの真の力だというのか。
力を解き放ったホワイトホールは、筒の中で次第と光を弱めていく。小さな白い球体が、更に小さくなる。終いには埃の様にか細くなって、ガラスの中で消え去った。
これまでの輝きが嘘だったかの様に、周囲の色が落ち着きを取り戻した。
「おい、消えてしまったが!今のは何だ!?」
初見のウェイブが、目を丸くして大声を出した。
カシューは、カナタが一緒にこの時へ飛ばされているのかが気になった。ウェイブの事はさて置き、カナタに視線を向ける。
「カシュー。これは、いったい……?」
カナタのなんとも間抜けな表情からは、どちらかがはっきりと見て取れなかった。ぼーっと、虚ろな目をして、何か言いたげに口を開く。
「カナタ、黙りなさい。」
カナタが変な発言を発する前に、カシューは制した。今、ルミナスに気付かれる訳にはいかない。
「今から、ピスがボイスルームに入ってくる。そうしたら二人は、このシャトルでオアシスを目指すのよ。」
「俺も残るぞ!」
間髪入れずにカナタが答えるが、カシューは、静かに首を振った。
「ここからは、私の仕事。カナタは、ウェイブを無事にオアシスに送り届ける事。今、オアシスに侵入する為のファイルを作成してるから、上手く使うのよ。」
カシューは、仮想キーボードを出して、端末の画面と顔を突き合わせた。
二人の会話が途切れた所で、ウェイブが堪らず口を挟む。
「おい、ワタシにも分かるように説明してくれ!ここまで来て、嬢ちゃんは、一緒に脱出しないって事か?」
シャトルを飛ばして、オアシスで別れた記憶の無い、何も知らないまっさらなウェイブ。そんな彼に、カシューは、優しい眼差しを向けた。
「ウェイブ。オアシスに着いたら、カナタが説明してくれるわ。だから、それまで、聞かないで。私たちを信用して。」
ウェイブには記憶が無くとも、一緒にシャトルを飛ばした仲だ。カシューは、ウェイブを信頼していた。この気持ちは、きっとウェイブに伝わった事だろう。
ウェイブは、腕を組んで口を噤む。
「むう…。」
納得はしていなさそうだが、それ以上何も言ってはこなかった。
それからすぐ、視界の左上に、ピスタチオ・スーパーグリンの名が追加された。ピスが言葉を発する前に、カシューが声を掛ける。
「ピス。これからシャトルを飛ばすから、目眩しを頼むわ。」
カシューは、端末の画面を眺めながら、ヘルメットのガラスを指で突く。するとそこに、作成したファイルのフォルダが表示される。
「私は、着陸しなくていいって事?それなら、楽勝ね!」
ほっとした様な嬉しそうな女性の声がヘルメットに響いた。
「誰もそんな事、言ってないでしょ?準備するから、待機してなさいよ?」
カシューは、カナタにデータを共有すると、端末の画面やキーボードを片付ける。そして、貨物室を出て操縦室へと歩き出した。




