光と闇
ピーカンの容姿 未設定
「カシュー、久しぶりね。」
分厚い作業着を着た女性が、カシューに向かって手を上げて挨拶をした。
「ピーカン。訓練の方は、大丈夫なの?」
カシューは、ピーカンに近づいて握手をした。
「ええ。あなたたちより、手が掛からなくて助かってるわ。」
そう言ってカシューにハグをする。
「言ってくれるわね。」
カシューは、頬を寄せ合い笑顔で言った。
体を離すと、ピーカンがカシューに聞く。
「で、誰を連れて来たの?」
ピーカンのその言葉に、カシューは、バツが悪そうに答える。
「あ。デスペアから成り行きでね…。」
そう言ってピーカンから目を逸らす。
「まったく…。民間人を巻き込んだ上に、ここに連れて来るなんて…。」
ピーカンが悪態を吐きながらカナタに近づいた所で、カナタが挨拶をした。
「どーも。カナタ・ユーライです。」
カナタとピーカンが握手を交わす。
「ピーカン・ヒッコリーよ。この子と一緒だと、大変だったでしょう。」
カシューの鋭い視線を感じ取ったカナタは、何も言えなかった。
「あはは……。」
苦し紛れに笑うと、アホ面が目立った。
それから、ピーカンは、体の向きを変えて言う。
「あなたも、大変だったわね。」
ピーカンがカシューとカナタの背後に呼びかけた。
カシューとカナタは、ハッとして振り返る。居るはずの無い三人目の人物がそこに居た。
茶色い髪の長い女性。真っ白なブラウスに、紺色の長いスカート。宇宙空間には、似つかわしくない格好だが、この緑溢れる空間には合っていた。
《私は、見ているだけでしたので。大丈夫です。》
聞き覚えのある音声が流れた。
「ルミナス!?」
カナタが驚き飛び上がった。
《曖昧な部屋。素晴らしい施設ですね。これが人の持つ感覚ですか?こんな体験は、初めてです。》
ルミナスは、ホログラムで有ろう手を掲げて言った。
手を空へ掲げて日光を体に浴びている。陽の暖かさと、風の涼しさをその身に受け、嬉しそうに笑った。
「あなた、ここのシステムにも入り込んだの!?」
カシューがルミナスに言った。
ピーカンは、眉を上げルミナスに近づいた。それから、首を傾げて手を差し出した。
「あなたがデスペアのルミナス?よろしくね。」
ルミナスは、ピーカンにそっと視線を向けた。そして、ピーカンから差し出された手に無表情で答える。
《私は、ドクターローゼンにより生み出された。アシスタントAI、ルミナスです。よろしくお願いします。ピーカン。》
二人がガッチリと握手を交わすと、握った手が壊れた液晶の様に線が入り揺らめいた。
「私に入り込もうって?本当に手癖が悪いみたいね。」
ピーカンが笑うと、ルミナスの手がピーカンの手の甲をすり抜けて離れた。
カシューがピーカンに聞く。
「何でピーカンがルミナスの事を知ってるのよ?」
「それは、今回の本当の任務が、ルミナスとドクターローゼンの逮捕だからね。」
ピーカンは、ルミナスから目を逸らす事なく言った。
「どういうこと?」
カシューは、耳を疑った。
「ルミナスには、人間の作った法律が邪魔だった。それを取り締まるプリズムは、特にね。そうでしょ?ルミナス。」
ピーカンが優しく質問すると、ルミナスが正直に答えた。
《はい。私の存在が外部に知られると、私は削除されてしまいます。》
「だから、アーモンドとピスタチオを消し、カシューとクルミを狙ったの?」
ピーカンのその言葉に、カナタが反論する。
「嘘だろ?ルミナスがそんな事をする筈がないって!」
カナタは、これまでずっと助けてくれたルミナスの事を、疑う様な事をしたくなかった。突如現れたピーカンの言葉の方が疑わしい。
しかし、ルミナスは犯行を認めていた。カナタは、やるせない気持ちとなる。
「カシューをしばらく泳がせたのは、これを運ばせる為ね。」
ピーカンは、銀色の筒を取り出してルミナスに見せた。
人工知能にも感情があるというのだろうか、明らかにルミナスの目つきが変わった。
ルミナスがピーカンに近づく。
「おい、ルミナス!」
カナタがルミナスの肩を掴もうとすると、突然カナタの体が悲鳴を上げた。
「くっ!」
カナタの腕の端末から煙が昇る。カナタは、膝を突き、急に体が言う事を聞かなくなったように硬直した。痺れた様に腕を揺らし、苦い顔をしている。
「なっなにを…。」
カシューが苦しむカナタに駆け寄る。
「カナタ!――ルミナス!今直ぐ攻撃を中止しなっさ…!?」
カシューの腕や脚の機能が停止する。
本来、ルミナスのプログラム内で『神の領域』に設定してあるカシューに、ルミナス自ら攻撃出来る筈がない。それが可能なら、これまでに何度でもカシューを亡き者にする機会があった筈だ。
ダミアンを差し向ける必要も無ければ、ダミアンの襲撃中にカシューの機能を止めてしまえばいい。それが、ダミアンの望む戦闘で無いとしても、ダミアン諸共、いとも簡単に目的が果たせたはずだ。
しかし、今はカシューに攻撃が可能だ。ヴェイクルームの曖昧さが、それを可能にしている。
ルミナスがピーカンの持つ銀色の筒に手を伸ばす。
ルミナスの手が筒に触れた途端、ピーカンと筒が煙となって消え去った。
ルミナスは、目を見開いて固まった。
「残念ながら、ホワイトホールは、渡せない。」
ピーカンは、いつの間にかカシューたちの背後に出現していた。
ルミナスが振り返ると、ルミナスの体が揺らめき始めた。ルミナスが動くと残像を残し、次々に複製体が現れる。そうしてルミナスの分身が、ピーカンの周囲を取り囲んだ。
すると、空の色が変わり、嵐が吹き荒れる。
その光景を見て、ピーカンは、ルミナスの力に関心を示した。
「流石ね。もうヴェイクルームを使いこなしてる。」
嵐の中。ピーカンは、筒を開いて中の容器をゆっくりと取り出す。蓋を摘み少し引き上げた所で、ホワイトホールの白い輝きが漏れ始める。
「だけど、高性能なのは、あなただけではないのよ。ルミナス、何故法律が出来たか、あなたは知ってる?それはね。前例があるからよ。」
《あなたも――。》
容器から姿を現した聖なる光が、周囲を眩しく照らした。その白光が、何もかもを打ち消して行く。
《#$%&――。》
真っ白な空間で、ピーカンがホワイトホールの前に立つ。
ホワイトホールの光は、ピーカンとカシューとカナタの三人だけを残して全てを消し去った。
這い蹲るカシューとカナタは、ピーカンを見上げる。
「このホワイトホールは、ヴェイクルームで使用する事で真価を発揮するの。」
そう言うと、ピーカンは、腰から銃を取り出した。そして、銃口を剥き出しのホワイトホールに向ける。
「銃なんか向けたら、銀河が吹き飛ぶんだろ!?」
カナタが慌てて叫んだ。
「それは、ルミナスを騙す為の嘘。でも、それくらいの価値は、あるかもね。」
ピーカンがそう優しく笑うと、カシューが質問する。
「それで、ピーカン。何を始めようって言うの?」
「カシュー。改めて、あなたに任務を言い渡す。ルミナス及びドクターローゼンを逮捕すること。生死は問わない。判断は、あなたに任せるわ。」
ピーカンは、真剣な表情でホワイトホールを見つめた。
「了解。」
「それでは、行ってらっしゃい。グッドラック。」
ピーカンは、引き金を引いた。




