追手と脱出
施設内では、赤いランプが点灯し、警報音が鳴り響いていた。
カシューは、すぐさまダミアンに聞いた。
「ダミアン。何やらかしたの?」
他にも手を打っていたのかと、怪しんだ。しかし、そうではなかった。
「私じゃないわよ!」
後ろ手に縛られたダミアンは、声を荒げて否定した。
クルミは、腕の端末を操作して原因を探っている。
カシューは、可能性を潰して行く。
「じゃあ、カナタ。何かした?」
カナタに顔を向けるも、冷静につっこまれた。
「何でだよ!」
すると、ルミナスが施設内のスピーカーから声を発した。
《巨大なプラズマ反応。これは、デスペア付近に居た、パープルミストの軍艦と同一の物と視られます。》
それを聞いたクルミは、端末を操作する手を早めた。
「映像を出すわ。」
生き残った一枚のモニターに、外の映像を映し出す。
バチバチと、稲妻の様な輝きが走ったと思えば、亜空間から巨大な軍艦が出現した。
しかし、まだプラズマの輝きが宇宙空間に走り続けている。同様にバチバチと稲妻が走ると、そこに別の巨大な宇宙船が出現した。
その様子に目を丸くしたカシューは、再びダミアンを問い正す。
「ダミアン。これは、どう言うこと?」
「だから、私じゃないってば!」
ダミアンは、全力で否定した。
後から現れた大型船を見て、クルミが言う。
「あれは、ナイツの宇宙船ね。」
その大型船は、木星に居た艦隊の中の一つの様だ。
「なんでナイツがパープルミストと肩を並べてるんだよ。」
カナタが映像を眺めながら不満を漏らした。
「利害関係の一致って奴かしら?それくらい私たちが邪魔だってことだね。」
と、クルミが憶測を立てた。
「どうするのよ!?あんなのに攻撃されたら、一瞬で消し炭よ?」
腕を縛られたダミアンは、飛び跳ねながらカシューに訴えた。すると、ダミアンにとって嫌な答えが返ってきた。
「ダミアン。あなたの船の鍵を渡しなさい。」
ダミアンの顔が真っ青になる。
「え…。何する気よ…。」
ピンク色の宇宙船は、ダミアンのお気に入りだ。
それを知るカシューは、悪そうな笑みを浮かべている。
カナタは、ダミアンを怯えさせるカシューの表情を見て、一番の極悪人が誰なのかを悟った。
+
それから直ぐに管制室から移動した。
カシューとカナタは、ダミアンの宇宙船の座席に座っている。
船内のモニターを通して、クルミと連携を取る。
「カシュー、気をつけなさいよ?」
画面の向こう側から、心配そうな顔でクルミが言った。
「ええ。もちろん。そっちこそ、転送の準備は出来たの?」
カシューは、操縦席で忙しそうに手を動かしている。
「ばっちりよ。今は、相手からの警告の対応中。こら!ダミアン!どこに行く気?」
クルミは、今のうちにこの場を離れようとするダミアンに、喝を入れた。それから、カメラに向き直り忠告する。
「そろそろ動かないと、痺れを切らしてミサイルでも撃ち込まれそうよ。」
そこで、ダミアンがカメラの前に躍り出た。顔面をドアップにして、カシューに念を押す。
「カシュー!私の船!傷付けたら許さないんだからね!」
「こら!ダミアン!大人しくなさい!」
ダミアンは、クルミに引っ張られて何処かに連れて行かれた。
「それじゃ、出発するわよ。ルミナス、格納庫の扉を全て開いて。」
カシューは、作業で凝った指を伸ばして、体勢を整える。
《了解しました。全区画のハッチを開放します。》
ルミナスが応えると、大きな扉が開き始めた。
「大丈夫なんだろうな…?」
カナタは、不安そうにシートベルトを握り締める。
カシューとカナタは、転送を行なったばかりで、転送装置が使えない。最低でも半日の時間を置かないと、魂が散布してしまい、記憶や精神に異常が起こってしまう。
「何を今更。」
カシューは、座席に身を任せてリラックスしていた。
ルミナスが秒読みを開始する。
《エンジン点火まで、10秒前……5…4…3…。》
カウントダウンと共に、目の前の大きな扉が開いていく。視界に真っ黒な宇宙空間が広がり始める。
目前には、大型船が二隻。そして、星々のティンクル。どちらもこちらを警戒して見つめている。
《エンジン点火。全機体の緊急走行を許可。座標を確定。星間渡航を開始します。》
格納庫に並ぶ小型の宇宙船のエンジンが、一斉に火を噴き始めた。ワープに伴うプラズマが格納庫内に発生し始める。
熱源とワープの軌道を感知した巨大戦艦たちは、船体に穴を空けられないように、緊急回避行動を始めた。今頃彼らは、即座に攻撃しなかった事を後悔している事だろう。
格納庫から沢山の光の線が、銀河の彼方へ向けて真っ直ぐに走った。その光の幾つかが、パープルミストの軍艦に命中すると、船を守るシールドを貫通して爆発が起こった。
光の線が暗闇を通り抜け、消えて無くなる。軍艦の爆発音が静かな宇宙空間に響き渡ったと思えば、隕石を模したクルミの施設が自爆した。
真っ赤な灼熱の光が迸ると、粉塵となり四散した。ナイツの宇宙船は、シールドで耐えるが、パープルミストの軍艦は、無数の破片に襲われ爆散してしまった。




