アンチとピンチ
薄暗い通路の奥から、大量のロボットたちがやって来る。
白い泡の壁の前で止まった足音は、泡に害が無いと判断すると、再び行進を始めた。泡まみれになりながら、人型のロボットたちが泡の中を突き進んで来る。
幸いロボットたちは、武器を所持していないようだ。とは言っても、強靭な鋼の体を持っている事には変わりない。その冷たい金属の体は、人間とは比べ物にならないほどの力を有する。
クルミの銃弾が一体の胸を撃ち抜いた。泡を全身にくっ付けたロボットは、胸に丸い穴を空けて、膝から崩れ落ちた。上手くいった事で、クルミの口角が上がる。
「こんな暴れられる事なんて、滅多に無いわ。楽しみましょう。」
「全部壊しちゃって良いの?全部うちの備品でしょ?」
「いいの、いいの。怒られるのは、全部ダミアンだからね。」
カシューは、浮かれているクルミの発言に、心配になる。
「とばっちりは、ごめんよ?」
『ちょっと!なんでそうなるのよ――。』
話を聞いていたダミアンが、一体のロボットから声を発した。しかし、そのロボットは、直ぐに頭を撃ち抜かれて倒れてしまった。
「嫌ならこんな事、早く止める事ね。大好きな甘〜いお菓子が、何年食べられなくなることか。」
『そんなの嘘よ――。』
『私は、任務を全うしているだけっ――。』
ダミアンが言葉を発する度に、ロボットが撃ち抜かれる。
「その任務に、施設やロボットを何体でも破壊して良いって書いてあるの?頭を使いなさいって、あなたいつも言われてるでしょ。」
クルミがダミアンを叱りつける。
『五月蝿い!煩い!うるさい!』
ダミアンが発狂した。
『勝てばいいのよ!任務を成功させれば、全部チャラにしてくれるもん!』
ダミアンは、威勢よく叫んだ。
すると、狭くもなく広くもない管制室に、ロボットたちが雪崩れ込んで来た。ブースを隔てる強化ガラスの壁が、粉々に砕け散る。
カシューは、両腕を綺麗に伸ばして二丁の銃で撃ち抜いていく。撃ち抜かれるロボットの隙間を縫って飛び掛かって来た一体を、回し蹴りで吹き飛ばす。
クルミは、ダミアンを上手く言い包めて、ロボットを引かせようとしたが、失敗してしまった。このままでは、銃の残弾が底を尽きる。
カシューは、銃のマガジンを外して、予備のマガジンに付け替えた。クルミの顔にも焦りが見え始める。もうダミアンが、いつ到着してもおかしくはなかった。
ガンッと、金属音がしたと思えば、天井の板が一枚外れて床に落ちた。そこから、ダミアンの顔が逆さまに現れた。
カシューは、急いでクルミに警告する。
「クルミ!上!」
クルミは、振り返り天井を見上げる。カシューが銃弾を一発撃ち込むも、ダミアンは素早く天井から飛び出して弾を避けた。
ダミアンは、空中で体を回転させ、クルミに銃を撃ち込む。クルミは、銃を突き出し赤いレーザーを受けた。盾にした銃は、火花を散らして弾け飛ぶ。
「ちっ!」
クルミは、体勢を崩しながら弾けた銃から離れる。
カシューが追い討ちを掛けようとするダミアンに銃口を向けると、それを察してダミアンは、机の裏に身を隠した。
「クルミ!」
カシューは、クルミを心配するも、ロボットたちがカシューにも襲い掛かって来て、助けに行けそうにない。
「しくじったわ!カシュー、後は任せたわよ!」
クルミは、殴る蹴るを繰り返して抵抗するが、直ぐに取り押さえられてしまった。クルミは、地面にうつ伏せに倒され、身動きが取れない。
クルミを見下ろす一体のロボットが、鋼の指先を真っ直ぐに伸ばし、クルミの後頭部目掛けて突き刺そうとする。
「クルミー!!」
カシューは、自身の周りのロボットを素早く撃ち倒し、銃口をクルミの方へ向ける。しかし、今、弾を撃ち込んだ所で間に合わない。
クルミは、覚悟を決めて、流れに身を任せていた――。
もう駄目かと思われたその時、全てのロボットの動きが一斉に停止した。カナタがルミナスを接続させる事に成功した様だ。
「なんで!良い所だったのに!」
クルミの後頭部に指先を突き付けて止まっているロボットを見て、ダミアンが叫んだ。悔しそうに腕を床に向けて伸ばす。
そこへカシューが青いレーザーの弾を撃ち込むと、再びダミアンは、机の裏にサッと隠れた。
「ダミアン。あなた、覚悟して置きなさいよ。今そっちに行くわ。」
カシューが怒りの形相で机の間を進んで行く。その威圧感は、鬼の様だ。
「ひっ!わっ私がカシューにやられる訳ないでしょ!」
ダミアンは、隠れながら威勢を張った。そして、そっとカシューの姿を覗き込もうとする。
すると、カシューがその場所に弾丸を撃ち込んだ。
「形勢逆転ね?ダミアン?」
カシューは、銃をダミアンの居る所に向けたまま、慎重に近づいて行く。
カシューが転がっている邪魔な椅子を避けたその瞬間、ダミアンが机の裏から飛び出し、銃の引き金を引いた。物陰から物陰に転がり込む。
カシューは、ダミアンに即座に反応して、銃を撃ち返す。赤と青のレーザーが空中で衝突して、上下に弾け飛ぶ。
続けてダミアンが二発目を発射する。が、それも空中で撃ち抜かれて左右に弾け飛んだ。
銃口をお互いに向けたまま、数秒間の睨み合いが続く。
すると、ダミアンが引き金から指を離して手を上げた。
「分かった。降参する。分が悪過ぎるもの。」
ダミアンは、銃を床に落として降参した。
「怪しいものね。近づいた拍子に、今度は体術でも挑む気でしょ?」
カシューは、銃を向けたままダミアンの後ろに回る。
「そんな事しないってば。ママも起き上がったことだし、勝ち目無いでしょ…。」
クルミは、腕を組んでダミアンの事を凄んだ目で見ていた。
「あー。あれ以上怒らせたら、私でも止められないわよ。」
クルミの様子を見たカシューは、困った顔をした。それから、ダミアンの腕を縛り上げた。
部屋に戻って来たカナタが、部屋の惨状を見て驚いていた。
「うわ〜。ボロボロじゃないか…。」
カナタは、何故か泡まみれになっていた。消火剤の使い方を間違えたのか、転んで泡に体を突っ込んだのかは分からないが、彼がドジを踏んだ事は確かだった。
そこで、再び警報が部屋に鳴り響いた――。




