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足止めと囮

 カシューは、銃の入った棚に手を伸ばす。予備のマガジンをピチッとしたズボンのポケットに挟み入れ、両手に一丁ずつ銃を持つ。

 小ぶりなレーザー銃だが、ロボットに穴を空けるほどの威力はあるはずだ。握りを確認しながら、ロボットの方へ振り返る。

 丁度、迫り来るロボットの頭を、クルミが吹き飛ばした所だった。青白く輝くレーザーが真っ直ぐ飛んで行き、大きなモニターを一枚破壊した。命中したモニターは、大きな穴を空け、溶けた部分から火花を飛び散らせた。


 攻撃された事により、ロボットたちの動きが変化した。防衛反応で、リミッターが解除される。関節部分のモーターが、高速化して音が高くなる。

 一体が飛び上がり、天井に手足を突き刺して逆さになり、もう一体は、壁沿いに回り込む。そして、残りの二体は、そのまま正面から襲い掛かって来た。頑丈な機械の体で、机や椅子を吹き飛ばす。

 カシューは、直ぐに反応した。

 丸い穴の空いた銃口を回り込んで来る一体と、天井の一体に向けた。正面は、クルミに任せる。

 左右に数発ずつ撃ち込むと、天井を駆けてくる方は、胸と腕を吹き飛ばす事に成功した。もう一体の方は、壁を駆け上がり上手く避けられた。避けられたレーザーが、壁に当たって焦げ痕を残す。

 ロボットは、駆け上がった壁を、更に蹴り上げ飛び上がった。そして、体を反転し、天井を蹴る。更に速度を増したロボットが、体を回転させながらカシューに飛び掛かった。

 カシューは、華麗に身を躱しながら腕を交差させて、素早く撃ち落とす。クルミが撃ち損じて、急接近した一体も同時にだ。

 カシューに襲い掛かったロボットは、顎を撃ち抜かれ、カシューの頭上を飛び越えて落下した。

 銃さえあれば、こんな事は朝飯前だった。

 カシューは、ひと段落した事を確認して、声を掛ける。

「クルミ。引き篭もってばかりで、腕が落ちたんじゃない?」

「あっはっは。ありがとね。カシュー。」

 クルミは、カシューに礼を言ってウィンクした。


 ――ガシャン!

 カナタが斧を振り下ろし、カシューが撃ち落としたロボットにトドメを刺した。カナタは、斧を肩へ持ち上げて言う。

「ふう。早く移動しないと。さっきの女の子。えっと、ダミアンが来るんじゃないか?」

 クルミが反応して、細長い通路に顔を向けた。

「ええ。そうだけど。困ったことに、うちのロボットは、これっぽっちじゃないのよね。」

 そう言ってクルミは、面倒臭そうに深い息を吐いた。

 通路の奥から、大勢のロボットの足音が響いてくる。その音だけで、かなりの数が存在している事が分かる。

 カナタは、薄暗い通路の先を眺めながら、斧を握る手に力を込めた。想像するだけで、身震いするほどの足音だ。

「マジかよ。弾足りるのか?」

 カナタがカシューに振り返ると、カシューは机の上のコンピューターと睨めっこしていた。忙しく指を動かすカシューに、クルミが聞く。

「どうだい?解除は、出来そうかい?」

 ダメ元で聞いてはみたが、カシューは、首を振って否定した。

「駄目ね。一体一体機能を停止させるか、メインコンピューターから直接命令を出さないと無理そうだわ。」

 カシューは、お手上げでコンピューターの操作を止めた。


「そのコンピューターは、どこにあるんだ?」

「この通路の突き当たりよ…。」

 クルミが顎で示すと、通路の先にロボットたちが姿を見せた。ぞろぞろと通路に集まり、ゆっくりこちらに歩いて来る。

 クルミは、防災斧があった場所から、消火剤を一本取り上げた。そして、その赤いスティックを半分に折って通路に放り投げた。

 すると、通路に真っ白な泡の塊が発生した。モクモクと煙の様に増殖し、白い泡が通路を塞いだ。


 一方。カシューは、消火栓の上にある通気口の柵を外していた。外した柵を放り投げると、食堂の返却口より大きなダクトが現れた。

「私たちが引き付ける。カナタは、ここを通ってコンピュータールームに向かうのよ。」

「え!?でも、俺は操作とか全く分からないぞ?」

 カナタ一人でコンピュータールームに向かった所で、何の役にも立たない。その事は、カシューも十分承知の上だった。

「それは、大丈夫。()()()()。あなた、聞いてるんでしょ?」

 カシューが腕の端末を掲げて、居ないはずのルミナスに呼びかけた。

 すると、ルミナスの返事が返ってきた。

《良くお分かりになりましたね。カシュー。》

「なんで、ルミナスが!?」

 ルミナスとは、デスペアで別れてそれっきりだ。しかも、ワープを繰り返しデスペアから遥か彼方まで来た。それに加え、転送までして体と端末さえも替わっている。ルミナスが繋がっているのは、どう考えてもおかしい。

 混乱しているカナタに、カシューが答えを出す。

「私の体も、あなたの体も、彼女に『侵食』されてるのよ。これだから、人工知能は違法なの。」

 カナタは、自身の端末を見て言葉を失う。

「マジかよ…。」

 カシューは、端末に呼びかける。

「ルミナス。カナタがメインコンピューターに接続する。そうすれば、あなたなら()()()()()を停止出来るわよね?」

 ルミナスは、少し間を置いて答えた。

《はい。お任せ下さい。》

 そこで、一連の話を聞いていたクルミが口を挟む。

「ちょっと。うちのコンピューターに、AIを接続させようってのかい!?」

 クルミは、目を丸くした。この施設に在るのは、諜報活動をする為の『スーパーコンピューター』だ。そんな事をすれば、大変な事になるかもしれない。

「これしか方法が無いでしょ?ほら、カナタ。」

 カシューは、カナタに残りの消火剤を投げた。赤いスティックが回転しながら宙を舞い、カナタの手に収まった。

「任せたわよ。」

 カシューがカナタに道を空ける。

 すると、カナタは、体に気合いを入れて進み出た。

「分かった!」

 先に防災斧をダクトに投げ入れてから、登り始める。

 カナタは、振り返ることなく、換気ダクトの中を進み出した。

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