裏切り者と裏切り者
モニターに表示された少女の姿を見て、クルミが驚きの声を上げた。
「――ダミアン!?」
画面の中の少女は、名前を呼ばれて元気に返事をする。
「ハーイ!裏切り者さんたち〜、ご機嫌様。上からの命令で、消しに来たわよ〜♪」
ダミアンは、目を見開いて、嬉しそうに手を振った。
「は!?何言ってんだい!ダミアン!今直ぐ持ち場に戻りなさい!」
クルミは、ダミアンを怒鳴りつけた。
しかし、ダミアンは、気にせず首を傾げる。
「ママ?私もこんな事したくないわよ?でも、命令なんだもん!仕方ないでしょ?」
演技がましく言うダミアンは、したくないと言う割に楽しそうだった。
命令厳守。カシューたちは、そう教えられて育った。しかし、そこまで意識して守った事はない。規律違反は、日常茶飯事だ。
画面の中のふざけた少女を見て、カナタがカシューに聞く。
「知り合いか…?」
カシューが困った顔をして答える。
「ダミアン・マカ。私たちの仲間よ。」
――七人の小人。
カシュー、アーモンド、ピス、クルミ、ダミアン。
彼女たちには、生身の体が存在しない。幼少期に、事故で体を失い魂だけの存在となってしまった為だ。そして、彼女たちは、施設に集められ研究対象とされた。
幼い頃に体を失くした彼女たちの精神は、成長しないと予測された。だが、そんな科学者たちの予想を覆し、実際にカシューたちは成長を遂げた。
しかし、ダミアンだけは、例外だった。彼女の魂にも、記憶や経験は蓄積されていくが、心だけが成長を止めてしまっていた。
本来、心と言う物は、体と共に成長していくものだ。それを、カシューたちは覆したが、ダミアンだけは幼い頃のままなのだ。それは、この先、何年経とうが変わらない。
「ってことは、彼女が裏切り者ってことか…?」
カナタは、モニターに映る子供を見て困惑した。
彼女は、カシューたちを裏切り者だと言う。しかし、無関係なカナタでさえ、そんな事はあり得ないと分かる。
その上、こんな年端もいかない少女が諜報員だなんて信じられなかった。
カシューは、ダミアンに大声で叫ぶ。
「上の命令でもおかしいでしょ!アーモンドとピスは、無事なんでしょうね!?」
ダミアンが裏切り者なら、仲間の安否を知っている可能性が高い。ダミアンが手を下した可能性もある。
しかし、ダミアンは、腕を組み顔を背けた。
「そんな事、私が知るわけないじゃない。私は、ママとやり合えるだけで十分。それと、カシュー。あなたともね!」
ダミアンは、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
ダミアンは、クルミの事を母親代わりに慕っている。クルミは、面倒見が良く、手の掛かるダミアンの世話をよく行っていた。
そんなクルミと戦いたいとは、気が触れている。
「全く……戦闘狂なんだから。いつかは、こうなると思ってたけど。一体、誰の指示?パープルミストとナイツが動く、このタイミングを狙うなんて、相当な悪知恵よね。」
カシューは、モニターを見つめながら嘆いた。
「いや、カシュー。そもそも今回の任務自体が、七人の小人を消す為の計画だったんじゃないかしら。早まった物資の回収。突如現れたパープルミスト。ナイツが動き出すのは、想定内としても、宇宙船ごと吹き飛ばそうとするのは変でしょ?」
クルミは、考えながらカシューに投げかけた。
戦争も無く、武力を持て余すパープルミスト。
使い切れないほどの金を持ち、暇を持て余すONE'S。
平和なほど仕事が減り、人材を持て余すプリズム。
そして、その全てを破壊するであろう、ホワイトホール。
この四つの力を利用して、カシューたちを消そうと画策している者がいると言う事だ。――しかし、何のために?
戦争?金では得られない何か?ただ戦いたいだけ?原因が何であれ、何者かの欲のために、全てが動いている。
人間は、愚かな事の為に、愚かな行動を犯す生き物だ。命令が変な事に気付きながら、カシューたちを狙う彼女がいい例だろう。
モニターの片隅に、格納庫の映像が表示された。可愛らしいピンク色の小型の宇宙船が到着した様子を映し出す。
「あー。ゴチャゴチャと、どうでもいい事を考えてる内に、着いちゃったわよ?私がそこに向かうまで、この子達と遊んでて。」
ダミアンがそう言うと、モニターの前に座っていたロボットたちがピタリと動きを停止した。すると突然、人ではありえない方向に、首だけが回転した。のっぺりとした不吉な表情で、カシューたちを見つめる。
カシューたちは、急いでロボットたちから距離を取る。
そして、ダミアンが座席から立ち上がる。
「私と戦う前に、やられないでよね〜。」
ダミアンが陽気に手を振って映像から消えると、ロボットたちが息を揃えた様に立ち上がった。
「ダミアン!」
クルミが、画面からフェードアウトして行く、ダミアンの長い髪の毛に向かって叫んだ。
「それより、クルミ!武器は!?」
カシューは、ロボットたちを警戒しながらクルミを急かす。ロボットは、関節部分のモーター音を鳴らしながら、ゆっくりと歩を進める。
「あるわよ。とっておきがね!」
壁際に走ったクルミは、『危険』と書かれた鉄板を、ガンッと拳で叩いた。すると、蓋が外れて中身が露わとなる。中には、大きな銃が一丁と小型の銃が二丁が綺麗に収められていた。
とっておきの銃をクルミが素早く取り上げ構える。そして、安全装置やマガジンをチェックする。
カシューは、非常用の消火栓のハッチを開き、中を確認した。中には、赤い防災斧とスティックタイプの消火剤が三本入っていた。
一先ず、防災斧を取り上げ、カナタに向かって投げる。
「あなたは、これ!」
カナタは、咄嗟に斧を両手で受け止めた。
「お、おう!」
そして、カシューは、急いで銃を取りに向かった。




