体と身体
クルミの容姿 未設定
カナタは、意識を取り戻し目を開く。身体は、固定されていて動かない。パッと見で、ここがガラスの筒の中だというのが見て取れた。
ボヤけて良く見えないが、目の前の反射するガラスの先には、沢山のモニターとコンピューターが設置されているのが分かる。
ガラスに反射したカナタの体は、機械によって固定され動かない。直立している事を、体に掛かる重力が教えてくれる。
しばらくすると、ゆっくりとガラスが開き、固定された体が解放されていく。
一歩前に進もうとすると、体が驚き体勢を崩した。床に手を突き、倒れないよう体を支える。まだ、魂が新しい身体に馴染んでいないようだ。
カナタが苦戦していると、部屋の入り口のガラスの扉が開き、カツカツとヒールの高い足音が近づいてきた。
その女性が物珍しそうに言う。
「あらあら、カシュー。急に転送してくるなんて、驚いたわよ。前もって知らせて貰わないと、困るわ。」
すらっとしたスーツ姿の女性だ。手には何かの書類を持っている。
カプセルから出て来たカシューは、カナタのようにバランスを崩したりはしなかった。それどころか、体操選手の様に爪先で歩み、側転、バク転をしながら女性に近づく。簡易的なボディースーツを身に纏ったカシューの動きは、とてもしなやかだ。
カシューは、その勢いのまま女性に攻撃を仕掛けた。踵落としに、回し蹴り、正拳突きにフック。流れるように流動的なカシューの攻撃を、彼女は最小限の動きで躱していく。
カナタは、止めに入りたいが、体が言う事を聞かない。
「カシュー!?一体なにを!」
カナタの心配を他所に、二人は至近距離で、パッと体の動きを止めた。視線を合わし、見つめ合う。
「腕は落ちていないようね。クルミ。」
「逢いたかったわよ。私の子猫ちゃん。」
すると二人は、ギュッと抱きしめ合った。再会を分かち合い、体を離すとクルミがカナタに目をやった。
カナタは、ぽかんと、口を開いたまま床に膝をついている。
「それで、あのオスは何なの?アホ面しちゃって。」
「一緒に脱出する事になったの。成り行きでね。」
「君もアホ面って…。俺って、そんなにアホ面なのか?」
「「そうね。」」
二人に同時に肯定され、カナタはがっくりする。
カシューは、クルミに連れられガラスの扉から部屋を出て行く。クルミの腕に手を回し、偉くご機嫌だ。
「ちょっと!待ってくれよ!」
カナタは、頑張って立ち上がろうとするが、立ち上がれない。産まれたての仔鹿の様になる。
「カナタは、しっかり体を慣らしてから来なさい。」
カシューは、振り返ってそう言うと、カナタを置いて行ってしまった。虚しくガラスの扉が閉まる。
「なんでカシューは、直ぐに動けるんだよ…。」
カナタの嘆きは、誰にも伝わらなかった。
ここは、流星群の中に建てられたプリズムの施設内。クルミは、隕石に模したこの施設で、諜報活動を行っている。
少し歩いた先の管制室では、数体の人型ロボットが働いていた。剥き出しのパーツが見える量産型のロボットだ。ここでは、客商売をしている訳ではないので、見た目より機能やメンテナンスのし易さを追求している。
人間に近い背格好のロボットたちは、沢山並んだモニターの前に腰掛け、端末を操作して作業をしていた。
モニターには、複数視点の木星の映像がいくつも映し出され、数隻の大型戦艦が木星を見下ろしている姿を捉えている。その戦艦の中には、カシューたちを襲ったコンコルドの姿もあった。
「流石、情報が早いわね。」
カシューがモニターを見て関心していると、クルミは、ロボットからタブレットを受け取って読み始めた。資料を手渡したロボットは、何も言わず席に戻って行く。
「それが仕事ですもの。あれは、ナイツの艦隊ね。こんなに早く集まるなんて。ONE'Sが何人か乗ってるかもしれないわ。」
クルミは、手元の資料とモニターに映る艦隊を見比べた。
そして、カシューが、恨みがましくコンコルドを睨みつけた。
「奴等、私がホワイトホールを持ってるかもしれないのに、容赦無く撃ってきたわ。」
「なるほど。それで、木星に突っ込んだ訳ね。あとは、大体把握してるけど、ピスとは音信不通。アーモンドは、ホープで身を潜めてるはずよ。」
カシューは、それを聞いて心配そうに声を落とす。
「そう……アーモンドに動きがないのは、不思議よね。」
クルミは、何も答えず共感した。
その時、施設中に警告音が鳴り響いた。部屋の隅のライトが赤く点灯する。
「何があったんだい?」
クルミは、端末を操作しているロボットに顔を寄せて、一緒になってモニターを眺めた。ロボットは、無言で操作を続ける。
こういったロボットは、施設内でのデータのやり取りは許されるが、直接外部ネットワークに繋がる事は許されない。これが、ルミナスとの根本的な違いだ。しかし、物理的に端末を操作して、外部の情報を得る事は許可されていた。
カシューは、焦る事なく冷静に管制室の中央に歩いて行く。大きなモニターに向き直り、腕の端末を操作しながらロボットたちの判断を待つ。
カナタが大慌てで管制室に飛び込んで来た所で、モニターの画面が次々と切り替わった。カナタは、壁に手を突き体を支えながらモニターを見上げる。
数在るモニターには、宇宙船の座席に座って、こちらを見つめる少女の姿だけが表示されていた。




