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木星と土星

 カナタは、視界の歪みが正常に戻ると、強張った体の力を抜き座席に肩を撫で下ろす。

「ふう。はあ。……。」

 カシューは、シートベルトを外し、滑るように座席から離れた。撃沈するカナタに声を掛けて、座席の後部へと移動する。

「直ぐに追って来るわ。準備して。」

 息を()く間もない。

 座席から起き上がったカナタは、正面の画面を見て目を丸くした。

「準備って何を!って言うか、()()は…!?」

 そこには、巨大な茶色い惑星が画面いっぱいに映っていた。その大きさは圧巻で、ホープとは比べ物にならないほど巨大だ。惑星の表面では、ニ百色以上ありそうな茶色いガスが帯を成して渦巻く。

「今話題の木星よ。」

 カシューが答えた。


 本来、木星には、輪っかが存在しない。だが、この時代の木星には、輪っかがある。それは、昔、土星と接近した際に、輪っかを交換した為だ。

 今年は、木星と土星の大接近(ジャンクション)の年。そして、現在。その木星からガスが噴き上げ、リングに異常が見られる。その為、数日後の大接近で、輪っかが返還されると予測されている。

 よって、木星と土星の周りには、ありとあらゆる星々の報道陣と研究者たちの観測船が、多数待機している状態だ。


「何する気だよ。銀河中が注目してる場所に来るなんて。」

 カナタは、カシューの正気を疑った。他にいくらでも候補地があったはずだ。態々、木星を選ぶ意味が分からない。

「木を隠すなら、森の中って言うでしょ?」

 一体何をするつもりなのか。カシューのその言葉に、カナタはゾッとした。恐ろしくて、詳しく話を聞く気にもならなかった。


「カナタ。自分の体は、どこにあるの?」

 後部で何やら作業を始めたカシューがカナタに投げ掛けた。

「え?体って?」

 カシューは、白を切ろうとするカナタに言う。

「私が気付いてないとでも思ってるの?あなたの体、人工素体(パス)でしょ?」


 人工素体…人間そっくりに造られた人工的な体。構成される物質は、人間の肉体とは根本的に違う。物によっては、酸素以外での呼吸を可能とし、局所的な環境に適応する為の構造を成すことも出来る。


「ああ!そう言えば!忘れていたよ。一年近く()()だし、本物と殆ど変わりないからな。俺の体は、ちゃんと地球に保存されているはずさ。」

 カナタの事だ。本当に忘れていたのだろう。嘘だとしても、体の場所さえ本当ならカシューには何も問題なかった。

「地球ねぇ。どおりで、いつもアホ面をしてる訳ね。」

 銀河では、星同士で争いを行う中。地球は、力を誇示して平和を謳っている。そんな地球は、今も昔も内乱を繰り返す。

 嘗ては、青い星。宇宙の神秘。などと、讃えられていた地球だが、今では矛盾を象徴する星として有名だ。

 カナタは、馬鹿にされてムッとする。

「なんか失礼だな。で、どうして今更そんな事聞くんだ?まさか、借り物だから、死んでも元の体に戻るなんて思ってるんじゃないよな!?アホな俺でも、そんな事は無理だって知ってるぞ!?」

 人工素体は、体から意識を丸ごと移す為、借り物の脳だとしても、破壊されればお終いだ。

 昔は、安全装置(セーフティー)も検討されたが、事故が多く確実性も無いために廃止された。体を使い捨てにする者や臨死体験を行おうとする者たちも現れるため、危険行為を避ける為の措置でもあった。

 今は、富豪や異常者の裏の娯楽として、密かに行われていると聞く。勿論、違法行為だ。


 カシューは、木星の映像を指差した。また悪巧みを思い浮かべる様な笑顔をしている。

「ふふ。今から、私たちの体は、あそこに突っ込む。そうすると、奴らでも簡単に手が出せないはずよ。かなりの時間が稼げると思うわ。」

 不穏な事を平然と言うカシューに、カナタは呆れた。

「馬鹿か…?一緒に心中しろって?それに、この体いくらしたと思ってるんだよ!?俺みたいな庶民には、大金なんだぞ!」

「察しが悪いわね。この機械は、他では手に入らない特別な物よ。大金積んでも、中々手に入れられないわ。」

 カシューの言い分から、それが人工素体への()()()()だということが分かる。しかし、その貴重な装置を、今から木星に落とそうとしているのだ。意味が分からない。

「そいつで、地球の体に戻るのか?」

「残念、不正解。カナタの体は、敵に押さえられている可能性が高いわ。」

「じゃあ、どうするってんだよ。」

 この間にも、宇宙船は、どんどん木星に近づいている。既に木星の姿は、画面に収まりきらないほど巨大になっていた。

「さっき言ってたでしょ?仲間に連絡を取るって。今から仲間の居る施設に飛ぶわ。そこなら替えの体があるからね。今、カナタのデータも送って置いたわ。体は、瓜二つだから安心しなさい。」

「その仲間が裏切り者だったら、どうするんだよ?」

 そうなると、体の心配所ではない。

「まあ、どうにかなるわよ。」

 カシューは、そう言って専用のヘルメットを取り出してカナタに被せた。ヘルメットの天辺には、管が付いており、転送装置と繋がっている。

「それじゃ、行くわよ。」

 カシューもヘルメットを被り装置を起動させ始めた。


 そうして、カシューたちの乗る宇宙船は、木星に突っ込んだ。

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