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ワープとプラズマ

 オアシスを飛び去った宇宙船は、ホープから遥か遠くまでやって来ていた。距離で言うと、約10光分(ライトミニッツ)。約2億kmだ。

 だだっ広い宇宙空間では、無数の星々が静かに輝きながら、彼女たちを見守っている。


 カナタは、強張った肩の力を抜き一息吐く。

「ふう……。これで逃げ切れたのか?」

 顔に当てた手で額を拭い、そのまま金色の髪までをも拭った。汗が跳ねて、シャボンの様に宙を舞うが気にしない。

「気を抜くには、まだ早いわよ。光速航行エンジンのクールダウンが終わったら、もう一度、星間渡航(ワープ)するわ。」

「嘘だろ…。体が分解されるようなあの感覚…。俺苦手なんだよなぁ。」

 カナタは、座席に預けた背中がずり落ち、だらしない格好をする。狭いコックピットで足を折り曲げ、全力で寛ぐ。

「それにしても、俺たちは今、何処へ向かってるんだ?プリズムの本部とかか?」

 カナタは、低い天井を眺め、空いた腹を擦りながら聞いた。

「ええ。でもそれは、追っ手がいないか、ちゃんと確認が取れてからね。パープルミストの軍艦に付いてあったレーダー。どこまでの性能か、検討がつかないわ。一旦、このまま真っ直ぐ逃げるわよ。」

「へいへい。お前と出会ってから、心休まる時がないよな……。」

「それは、どう言う意味かしら……?」

 カシューから殺気を感じて、カナタは慌てた。

「う。っそう言えば、仲間に連絡取らなくていいのか?」

「敵のレーダーの範囲内で?居場所を知らせる様なものよ?まあ、可能と言えば可能だけど。専用の暗号通信だから。」

「じゃあ、助けを呼べるじゃないか!」

 カナタの閃く笑顔を見て、カシューはニヤつきながらボタンを押した。

《座標を確定。星間渡航(ワープ)を開始します。》

「あっ。おい!こ……こ……ろの…準備がっ――。」

 カシューの視界は歪み、カナタのアホ面が金髪とごちゃ混ぜになる。

 そして、宇宙船の進行方向に向けて、視界にある全ての物が、光の粒子となり吸い込まれて行く。普段は見えないはずの、自身の赤い頭の天辺が視界に映り込む。

 自分の体が宇宙の一部になったような、不思議な感覚に捕らわれた。それは、真っ暗な宇宙空間に放り出されたみたいだった。キラキラと輝く星たちに照らされて、ただただ宙を漂う。まるで、ちっぽけな埃となった気分だ。


 それから、一瞬で現実に戻される。反動が脳を揺らす。カシューは、大人しく椅子に身体を預けた。

 目の前の光景は、無数の星が輝くだけで大して変わらない。だが、今の一瞬でかなりの距離を移動した。

「最悪だ……。」

 カナタは、虚ろな目で、そう呟いた。

 カシューは、腹を抱えて笑い出した。

「カナタ。あなたは、最高に面白いわ。」

 そんなカシューを見て、カナタも笑った。

「うるせーよ。」

 カシューは、涙を人差し指で拭いながら言う。

「おかげで、悩みが一つ晴れたわ。カナタが言う通り、仲間を頼ってみる事にするわね。」

「おお、そうか?それなら良かった。」

 カナタは、カシューの言葉に眉を上げて喜んだ。

「ただ、それに関して、カナタに伝えなければならない事があるの。」

「なんだ?守秘義務ってやつなら、あんまり自信がないぞ?」

「こいつを送って来たエージェント。」

 残して置いた一本の筒をカナタへ放り投げる。

「おっと。」

 一定速度で宙を回転する筒を、カナタは受け取った。

「アーモンドから、メモが同封されてたの。『裏切り者がいる。気を付けろ。』ってね。」

 カナタは、絶句する。

「だから、()()して置くのよ?」

 カナタは、座席から体を飛び起こす。笑みを浮かべるカシューに体を向けた。彼女を止めなければならない。

「何をだよ!いや、やっぱり連絡を取るのは止めよう!俺たちだけで、どうにかなるって!そんなの、火事の中へ飛び込む様なものじゃないか。」

「このまま本部へ行って、誰が敵か分からないまま、安全に任務完了出来ると思う?着いた途端に、殺される可能性だってゼロじゃないの。脱出の基本は、クリアリング。敵が居るのが分かってて、その敵を確認しないなんて、可笑しな話でしょ?」

 カシューが手を仰ぐ。

「そりゃそうかもしれないけど……。ん?なんだあれ?」

 外の映像を見て、カナタが呆けた顔をした。


 何も無い宇宙空間に、プラズマが走っている。

 次第に強烈となるプラズマの光に目を向けて、今度は、カシューが座席から体を飛び起こした。

「ありえない!こっちは、改造された小型船で二回もワープしてるのよ!?並の軍艦が追い付ける訳が――。」

 プラズマの中から大型の宇宙船が姿を現す。ラグビーボールの様な船体に、巨大なリングが架かった船だ。リングは、船体を中心にゆっくりと回転している。

()()()()()だわ。」

「コンコルド!?」

「速度だけを重視した渡航船よ。しかも、軍用に砲台をいくつも付けるなんて……無茶苦茶ね。」

 カシューの言う通り、船体とリングに取って付けた様な砲台が取り付けられている。そして、その砲台が動き出し、カシューたちの方向に向けられる。

 危険を感じたカシューは、急いで操縦桿を握る。

「手動操縦に切り替えるわ!シートベルト!」

 そう叫んだ時には、砲台からミサイルが発射されていた。急発進してミサイルを躱すと、後方で爆発が起きる。

 カナタは、シートベルトにしがみ付きながら、手に持っている銀色の筒を差して言う。

「なんで撃ってくるんだよ!こいつがどうなってもいいのか!?」

 コンコルドは、レーザー砲を数発撃つと、またミサイルを発射する。カシューたちを絶対に撃ち落とす積もりみたいだ。

「後で回収する気か、爆発させる気かっ――。」

 爆風で船体が揺れる。

「ぐぐっ!」

「シールドが持たない!このまま星間渡航(ワープ)するわ!」

 カシューは、カナタに合図してからボタンを押す。

「分かった!」

《座標を確定。星間渡航(ワープ)を開始します。》

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