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個室と独房

 無駄の無い、とてもシンプルな通路。

 カシューは、癖で辺りを色々と確認してしまう。電気の間隔、排気口、扉の数……。しばらくは、この施設で生活することとなる。覚えておいて損はないだろう。

 通路の奥で、ロボットと一緒に円形の床に乗ると、ライトの色が黄色から青色に切り替わり、床が独りでに動き出した。床はゆっくり階下へ向かって降りて行く。

 変な所に、高度な技術や設計が使われている。流石、富豪たちが作り上げた施設。と、言ったところか。


 六階層ほど降った所で床が止まり、ロボットが進み出す。真っ白な通路には、左右に扉が等間隔で沢山並んでいる。通路の幅は、約カシュー三人分が横になれるぐらい広い。

 少し進んだ扉の前で、ロボットが停止してカシューに向き直った。

《ここが、あなたの部屋になります。》

 ロボットがそうカシューに伝えると、扉の傍らにさがってカシューに道を開けた。

《勤務開始時刻は、1時間22分後です。それまでに、作業着に着替えてお待ち下さい。》

 ロボットは、じっと動かずにカシューが扉を開けるのを見守っている。

 律儀なロボットね。カシューは、そう思いながら扉のセンサーに手をかざす。ピピッと音が鳴ると、扉が空気を吐き出しながら開いた。

「ごくろーさん。」

 カシューは、ロボットへ律儀に挨拶をして、部屋の中に足を踏み入れた。すると、ロボットはクルクルと回転して向きを変え、素早く何処かへ飛んで行く。

「せま……しばらく独房生活ね…。」

 カシューは、部屋の中を見て落胆した。ワンルームの部屋には、ベッドと人一人分が横になれるぐらいのスペースしかなかった。

 後ろの扉が閉まる音を確認すると、徐にオレンジ色の宇宙服脱ぎながら、ベッドへと歩き始める。とりあえず、ベッドにヘルメットを投げ置き、反対側のクローゼットへと手をかざす。

 クローゼットの赤いマークが緑色に変わり、扉がさっと開いた。腰まで下ろした宇宙服を鬱陶しく思いながら、カシューは中を覗き見た。

 クローゼットの中には、作業着らしき大きな服が吊るされていた。作業着の隣の棚には、ボディースーツが二着、綺麗に折り畳まれて置いてある。カシューは、折り畳まれてある一着を取り上げて広げてみた。

 真っ白で綺麗なスーツには、黒のラインが全身に向かって伸びている。至ってシンプルなデザインだ。

 カシューは、顔を(しか)めた。自分の真紅の髪色に、似合わないと思ったからだ。カシューの身長は、低い訳ではないが、これを着ると、きっとちんちくりんに見えることだろう。


 一旦、ボディースーツをベッドに投げ、脱ぎかけの宇宙服を脱ぎ始める。黒のタンクトップとパンツ姿になり、宇宙服をクローゼットの中へ適当に放り込んだ。

 それからカシューは、バスルームに向かった。小さな扉を開くと、洗面台とトイレとシャワーが、狭い空間で一緒くたになっていた。宇宙の果てまで来たこの時代でも、人間の生活は大して変わらないらしい。

 カシューは、周囲に目を光らせる。

 玄関に一台。ベッドの真上と奥の壁に一台づつ。カシューが、パッと見て確認した監視カメラの位置だ。流石にバスルームには、無いようだ。

 しかし、これだけ厳重だとすると、赤外線カメラ(サーモグラフィー)で監視されている可能性が高い。そうなると、透視されてるも同然だ。

 カシューは、監視社会の行く末を嘆きながら、シャワーのお湯を出す。熱いお湯で蒸気を沸き立たせる。

 そして、左手首を右手の指でタップする。すると、何もない空間に画面が現れた。蒸気の熱でサーモグラフィーを、なんとか誤魔化せるはずだ。

『MESSAGE』

 画面には、そう表示されている。カシューは、手早く入力し始めた。


 To:ドングリ [おはよう。]


 シャワーを止め、ベッドへ再び戻る。

「水圧良し。」

 態と言わなくていい言葉を口にする。女性としては、シャワーの確認ぐらい普通の事だろう。

 連絡は、今の一言だけで十分だった。あれだけで『潜入完了』と、本部に伝わるはずだ。


 カシューは、下着を脱ぎ去り、ボディースーツを履き始める。小さな足をそっと通し、ぴちぴちとした生地をゆっくりと持ち上げる。プリッとした尻を引っ張り上げて腰へと通し終わると、後は楽なものだ。細い腕を袖に通して生地を肩に羽織る。そして、ヘソから首元へとチャックを上げて、前を閉じる。

 身体にフィットしたボディースーツは、カシューの肉体美を露わにする。痩せ型で、スーツの上からでも分かる筋肉は、まるでトップアスリートの様だ。

 と、言ってもカシューのこの体は、本物の人間の体では無い。


 人工素体(pass・パス)(*架空)と呼ばれる人工的に作られた、作り物の身体だ。この時代では、生身の身体に端末を埋め込む者も多い。そして、人工素体(パス)には、全身に配線が張り巡らされてあり、腕の端末や外部アプリケーションを使用することで、あらゆる機能管理を可能としている。

 この人工素体は、人間の魂の器の様な代物で、人の意識だけを載せ替える事が出来る優れ物だ。昔とあるゲーム会社と医大が共同開発した物で、本来は、ヴァーチャルアクティヴィティを目的として研究されていた。

 その有用性から技術が進み、現在は、あらゆる場面で使用されている。色々と制限や制約はあるが、機能的には、本物の身体と然程変わらない。元の身体と違いがありすぎると、上手く動かせなかったりとエラーが発生するため、生身(オリジナル)と瓜二つに作られるのが一般的だ。


 似合わないと思ったボディースーツだったが、着てみれば悪くはなかった。スーツの黒のラインは、腕の端末と呼応して緑色に輝き始めた。

 あとは、あの作業着を着るだけだ。カシューは、開けっ放しのクローゼットを眺める。そこには、宇宙服よりもゴワゴワとした、不恰好な防護服がぶら下がっていた。

 あと一時間は、部屋で待たなければならない。今から()()を着たくは無かったが、慣れておく必要があるだろう。カシューは、変に仕事熱心な自分を疎んだ。


 着難い作業着と格闘していると、廊下から機械音が響いてきた。カシューは、通す腕を静止して耳を澄ます。ロボットが歩行する音だ。

 廊下では、二体の警備ロボットが、逃げ出そうとした中年男性を運んでいた。一体は、ドラム型の筒状の警備ロボット。通路を警戒しながら先導している。もう一体は、二足歩行の中型ロボット。意識の朦朧としている男性を、片方の三本指のアームで鷲掴みにして運んでいる。

 ドラム型の警備ロボットが、部屋の扉と通信して扉を開ける。そして、中型ロボットのアームが部屋へ伸び、男性がそっと降ろされた。

 ドラム型から音声が流れる。

《ここが、あなたの部屋になります。》

 先程カシューが聞いたものと、全く一緒だ。

《勤務開始時刻は、1時間02分後です。それまでに、作業着に着替えてお待ち下さい。》

 そうロボットが告げると、扉が独りでに閉まった。

「クソヤ――。」

 扉が閉まり男性の悪態は、完全にカットされた。ロボットたちは、冷たい表情で持ち場へと帰って行った。

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