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希望と絶望

 地球から遥か遠く。宇宙の彼方。銀河の富豪たちが集まる惑星が、そこに存在する。その富豪の中でも、屈指の大富豪ONE'S(ワン)と呼ばれる者たちが、この星を管理、運営していた。

 多額の資金を投入して厳重に管理されたこの星は、とても安全で様々な娯楽を楽しめる。七色の海に、広大な宝石の山脈は、他では観ることの出来ない絶景だ。豪華なホテルやスパはもちろん、遊園地に様々な催しが開催される劇場など。最高級のおもてなしが人々の心に波を打つ。その中でも、ここでしか味わえない高レートのギャンブルは、群を抜いて大人気だった。

 この星は、富豪たちの安息の地でありつつ、また時に、一攫千金を手に入れようと訪れる者の夢の地。その為、この惑星は、『希望(ホープ)』と、そう呼ばれるようになった。


 惑星ホープには、三つの衛星が存在する。

 その一つが、廃棄物処理衛星だ。綺麗な物の裏には、汚い物が存在する。それが、自然の摂理だ。

 ホープで出たゴミは、すべてこの衛星に送られてくる。送られてきたゴミは、綺麗に処理され、エネルギー資源やリサイクル物質に変換されて再利用される。

 この廃棄物処理衛星は、希望の反対の『絶望(デスペア)』と、富豪たちの中で呼ばれる。()()と呼ばれてはいるものの、ここの給料は、ホープの従業員たちより遥かに高い。

 それは、人里から遠く離れたデスペアの労働環境の所為だけではない。ホープを綺麗に保つために、富豪たちが多額の金を投資しているからだ。一説には、富豪からこの星へ金が消えて行く為、富豪たちが『絶望(デスペア)』しているのだ。と、いう話もあるくらいだ。


 そんな廃棄物処理衛星(デスペア)へ、一人の諜報員(エージェント)が送られてくる。国や組織が、宇宙規模の安全を脅かしたり、不正行為を行っていないかを取り締まる組織。行政監査機関プリズムのカシュー・アップルだ。

 彼女(カシュー)は、プリズムの中でも選りすぐりの捜査官を集った特殊チーム・七人の小人。通称ナッツ(変わり者たち)の一員だ。もちろん、偽名である。


 今回の任務は、とあるアーティファクトの回収。その為に、ホープからデスペアへと向かう旅客機(シャトル)に乗っている。

 とは言え、廃棄物処理衛星(デスペア)に、そんな高価な物は無い。

 そのアーティファクトは、ホープの博物館で厳重に展示されている。別のエージェント、コードネーム・アーモンドが、アーティファクトを偽物へとすり替え、人知れず運び出す手筈となっている。

 すり替えられたアーティファクトは、ゴミと共にこのデスペアへと送られる。その送られてくるブツを回収するために、前もって労働者として潜入する必要があった。


 カシューは、ホープから乗ってきたシャトルから降ろされる。ゴワゴワとしたオレンジ色の宇宙服は、年季物でとても歩き難い。同じ格好をした十人ぐらいの人々と一緒に、列となって施設の方へと誘導される。

 滑走路には、シャトルが二台と数台の運搬用のバギーが適当に置かれていた。ここが剥き出しの大きなクレーターの中だというのが、一目で分かるほど平坦だ。施設への入り口以外に目ぼしい建物は、電波塔ぐらいなもので、他には何もない無の大地が広がっていた。

 空を見上げると、惑星ホープが一面を覆うほどの大きな顔を見せていた。白い雲が渦を巻き、隙間から緑色の森の大地と七色の海が見え隠れする。キラキラと眩しく点滅している場所は、人口の多い都市部だろう。

「ふーん。これは、絶景ね。」

 あまり興味無さそうな声色で、ヘルメットの真っ黒なガラス越しに眺める。こういう景色を観る度に、転職を考えさせられる。そんな事は叶わないし、正直この仕事以外に、自分に合う仕事なんて思い付かない。そう長年訓練されてきたのだから――。

「早く行けよ。」

 後ろの男性だろうか。猫背でぶつぶつと、ずっと文句を言っていた人物に注意された。

 話には聞いていた。ここに来る人は、心に余裕の無い者が多いのだと。

 ここで言い争って、目立つのは良くない。カシューは、男を無視して、前との開いた距離を埋めようと、早足で進む。


 カシューは、やっと施設の中に入りヘルメットを外した。押さえ付けられていた真っ赤なショートヘアーを梳かすよう、頭を軽く振る。息苦しさからやっと解放され、澄み切った空気を肌で感じる。

 シャトルの中は、蒸し暑く、匂いも最悪だった。だが、ここの空気は悪くない。この星が、ゴミ溜めとは思えないほどの澄んだ良い空気をしてる。ゴミ溜めだからこそ、逆に気をつけているのかもしれない。

 ヘルメットを片手に、順番にセンサーゲートを潜り抜ける。それから、傍らに設置された端末に手をかざした。すると、画面に自分の名前や顔写真が表示される。

 赤い髪に緑色の瞳。整った綺麗な顔は、悪人っぽい目付きで、こちらを見つめてくる。写真写りは、最悪だった。

『カシュー・アップル:女性:26』

 相変わらず目立つ容姿をしている。そんな自分の姿に、呆れてため息が出るほどだ。

 諜報員なら目立つ格好は、避けるべきだ。そのせいで、いつもトラブルが舞い込んでくるのだから。

 しかし、逆に目立った方が上手く行く事を、カシューは知っていた。それに、簡単に仕事が終わっては()()()()()

 これでもカシューは、ナッツ(変わり者たち)の一員だ。普通に仕事をするのは、柄じゃない。――仕事を楽しんで何が悪い?そんな彼女は、自分が()()()()などと、一ミリも思っちゃいなかった。


 監視カメラに金属探知機。あれは、サーモグラフィーだろうか。警備ロボットも配置されていて、外の状況と比べると、()()とセキュリティーがしっかりされてある。

 こんな場所で暴れた所で、()()()()が自力で帰れる訳がない。その上、別に、金目の物がある訳でもない。ここにあるのは、廃棄物(ゴミ)だけだ。暴れるメリットが全く持って無い。

 ここで問題を起こす奴も、ここにこんな資金を使う奴も、本当にどうかしている。カシューは、どちらかと言えば問題を起こす側の人間だが、自分の事は棚に上げて置く。

「やっぱりワタシは帰る!こんなとこに居たくない!」

 頭部の禿げたオレンジ髪。団子っ鼻のちょび髭男性が、列から外れて走り出した。丸い体をバタつかせて、通って来た道を戻り始める。

 直ぐにドラム型の警備ロボットが音も立てずに走り出し、施設の従業員と共に取り押さえる。ロボットの頭部からテーザー銃の様な物が現れ、中年男性を撃ち抜いた。

 男性は、飛び上がる様にして倒れ、そのまま従業員によって後ろ手に縛られる。

「ありゃ、()()()()だな。」

 二つ後ろに居た男性が、一人分の空いたスペースを埋めながら口にした。

「前回ここに来た時は、そう呼ばれていたんだ。またここで働けるなんて、俺は運が良いよ。ここで一年働けば、十年以上は遊んで暮らせるからな。まだ、前回の分も残ってるし、ここは夢があるよな。」

 チャラそうな金髪の男性は、聞いてもいない事をペラペラと口にする。カシューに同意を求めながら、カシューの体を下から上へ舐め回すように見てくる。

 カシューは、この男性も無視して先を目指す。彼の視線が尻を注視するのを感じて、蹴り飛ばしてやろうか悩ましく思った。


 次の扉が開き中へ入ると、数体の四角いロボットが宙に浮いて止まっていた。

《係の指示に従って移動してください。》

 ロボットから音声がした。

 ロボットに一人一人名前を呼ばれ、空飛ぶ箱の後ろをついて歩く。

《カシュー・アップル。こちらへ、どうぞ。》

 カシューは、四角い箱に通路へ誘導される。

 その時、後ろの男性が声を掛けてきた。

「あら?お姉さん、そっち側なんだ?精々頑張れよ。」

 何処となく含みのある言い方で、カシューを嘲笑う。

 カシューは、振り返らず返事もしなかった。彼には、特に興味が無い。作戦にも関係ない。それでもカシューは、返事代わりに右手を肩の高さまで上げる。軽く手を振り、彼に別れを告げた。

《スパーノ・クロフ。こちらへ、どうぞ。》

 金髪の男性は、カシューの後ろ姿を一瞥してからロボットの後について行った。

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