表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

軌道とサイクル

 真っ黒な空間の中に煌めく星々。その存在を大きく隠すような宇宙戦艦が警告音を発している。大きな船体には、大中様々な砲台と幾つもの宇宙船を収容出来るゲート。天辺の管制室の上には、大きなレーダーが見える。まるで空母の様な鉄の塊が、ずっしりとした色味を見せ宇宙を漂っている。

 その横を、小さな機体が幾つも横切る。軍艦からの警告音など無視して、縦横無尽に飛び回る。あれは、ピスが操作する小型の宇宙船とドローンだ。

 軍艦と比べると豆粒の様な機体の尻から、白い煙をモクモクと発生させている。白い煙は、軍艦を徐々に包み込んで行く。大きな筒から砲撃が飛ぶが、煙が晴れることはない。穴を開けても、瞬きをすれば元に戻っている。

 ここは、大気圏外の宇宙空間。そうそう上手く事が運ばない。こういうお遊びごとの類いは、軍では教えて貰えないだろう。頭の堅い上官が、歯を食い縛る姿が目に浮かぶ。


「すげえ!隠れるなら、今しかないぞ!」

 カナタが座席から身を乗り出し、窓に頬をくっつけ様子を見ていた。いつの間にか外したヘルメットと黄色い手袋が、興奮するカナタの後方で宙を漂う。

「こっちは、見てる余裕ないってのっ。」

 カシューは、ヘルメットの中で息を荒げていた。吐いた息でガラスの下部が曇る。そんな焦るカシューの横で、ウェイブは冷静に言う。

「嬢ちゃん。そうじゃない。機体を傾けるんだ。エンジンの推進力は、重力波から出る時に取って置け。」

 ウェイブがカシューの手元に指を差して、アドバイスをする。カシューは、それに従った。

 カシューたちのシャトルは、デスペアの軌道上をカーブしながら裏側を目指す。

 ウェイブは、肉付きの良い頬を引き締め、まるで教習所の教官の様に指示を出す。彼は、本当に運転が得意な様で、カシューは連れて来て正解だったと安堵した。地下でヘタレていたちょび髭が、今は凛々しく見えるほどだ。

「よし、そうだ。そしたら、ゆっくり機体を戻しつつ、船首を上げろ。秒読み後に、エンジン噴射だ。五……四……三……二……一…。エンジン噴射!」

 ウェイブの合図に合わせて、カシューはレバーを押した。体にのし掛かる重力と共に、機体が軌道を離れる。


 シャトルは、真っ暗な宇宙空間に飛び出した。エンジンが静かになり、無が漂う。

 操縦席の二人は、すぐさま計器を確認する。

「成功だ!」

 その時、デスペアの裏側で爆発音が複数聞こえ、赤い光が宇宙空間に瞬いた。ヘルメットのボイスルームから、ピスの名前が消えた。

「ピス!」

 カシューが彼女の安否を心配して叫ぶと、しばし沈黙が流れた――。

 カシューは、目にしわを寄せて前をじっと見つめる。彼女の腕を信頼している。彼女が殺られる訳がない。これは、彼女の何らかの作戦だろう。

 それからカシューは、気分を切り替えた様にヘルメットを外し始めた。

()()()()ヘルメットの通信を切りましょう。あと、腕の端末も。探知される可能性がある。」

 カシューは、そう言ってシャトルのスイッチをパチパチ音を立てながら切り、シャトルの電源を落とした。

「彼女は、大丈夫さ。凄腕なんだろ?」

「ああ、ワタシ達が信じてやらんとな。」

 二人は、腕の端末の電源を落としながら、カシューを優しく励ました。


 無音走行中のシャトルの目下には、大きく綺麗な惑星ホープが見える。その美しい表面は、相変わらず騒がしく輝いていた。上空で騒がしい事件が起こっているにも関わらず、きっと富豪たちはバカンスの真っ最中だろう。

 後方から追われているのかは、シャトルから確認出来ないが、正面にデスペアと良く似た第二衛星サイクルが見える。このままサイクルの軌道に乗って加速し、第三衛星オアシスに向かう予定だ。


「なあ、このまま別の惑星に向かった方がいいんじゃないか?」

 カナタは、窓の外の景色を眺めながら、可笑しな提案をした。

「そんなことが、このシャトルに出来ると思ってるの?冗談は、顔だけにしなさいよ。まったく…。」

 カシューは、赤い髪を掻き上げて、呆れ返った。カナタにとって、久しぶりの外だ。ほぼ一年振りと言ってもいい。外の世界に浮かれてしまっているのだろう。カシューは、そう思った。

 ウェイブは、座席に深く腰掛け、一息吐いていた。禿げた頭部の先に居るカナタに補足する。

「カナタ、このシャトルが今こうして安全に飛んでいられるのは、三つの衛星とホープの重力のおかげなんだ。」

「どういうことだよ?」

「小さなデブリ。例えば、隕石の欠片や人工衛星、宇宙船から出たゴミだな。それがシャトルに当たっただけで、機体に穴が空いたりする訳だ。分かるか?三つの衛星とホープの絶妙な位置関係により、デブリは全て星へ吸い込まれ大地へと落ちる。よってシャトルには、基本的にデブリを弾くシールドも、探知して回避する手段も持ち合わせていないのだ。」

 ウェイブは、サイクルと煌めく星々を眺めながら、事細かく説明した。

「でも、このシャトルは、パープルミストの機体だろ?」

 カナタにしては、良い質問だった。

「パープルミストには、衛星がないし、こんなシャトルも必要じゃないわ。」

 伸びをして、ゆっくりしているカシューに言われ、カナタは、少し考えてから口を開く。

「デスペアに乗り込む為に、用意したってことか?」

「さあ?乗り込むのは、サイクルかもしれないし、オアシスだったかもしれない。軍としては、あって損はないわよね?」

 隣の星で何かあった時の備えという訳だ。仲が悪くなる事もあれば、手を取り合う事もある。こんな不便なシャトルを、救助に向かう為に用意したとは思えないが、今回の侵略行為など、備えて置くと何かしらに使えるのだろう。

「へー。本当にそういう世界ってあるんだな。」

 カナタは、能天気に答えた。

「カナタは、随分と平和な星で育ったようね。」

 カシューは、そんなカナタに嫌味を言うが、カナタはそれすらも気付かない。

「それで、どうしてこのまま宇宙に出られないんだ?」

「……。」

 再び同じ質問を繰り返すカナタに、二人は絶句した。

 カシューは、説明しても無駄だと悟り適当に答える。

「目を瞑って運転するのと同じだからよ。」

「なるほど!」


 カナタが嬉しそうにした所で、ウェイブが話に割って入る。

「そろそろサイクルの衛星軌道に入るぞ。」

 そう言って腕の端末を起動した。

 カシューもウェイブに従い、ボタンやレバーを操作し始めた。

「了解。電源オン。エンジン点火準備OK。侵入角度はどう?」

 カシューは、計器を覗き込みウェイブに聞いた。

「大丈夫。バッチリだ。」

 ウェイブがカシューを見て嬉しそうに笑った。

 二人の座席の間で、カナタが目を輝かせる。

「こういうの、ワクワクするな!」

「あなたは、座ってなくて大丈夫なの?」

「あっ!」

 また急発進されては、堪らない。カナタは、慌てて座席へ飛んで行く。

 慌ただしいカナタの後ろ姿に、ウェイブがやれやれと、ため息を吐く。そして、前に向き直り、カシューに愚痴を溢す。

「嬢ちゃん。なんでカナタを連れて来たんだ?」

「まさに今、後悔してるとこよ。」

 呆れて言う二人の会話は、後部座席にも届いていた。

「おい!聞こえてるぞ!」

 開け放たれた操縦室の扉の向こうから、カナタの叫ぶ声が聞こえた。

「エンジン噴射!」

 凄い圧力が体に圧し掛かる。

 シャトルは第二衛星サイクルの軌道に乗りながらスピードを上げ、そのまま軌道の外側へと放り出された。

 エンジンが止まり、シャトルは一定のスピードを保つ。やっと体に掛かる圧力がなくなり、楽に動けるようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ