マッサージ券について
乗客の中で一部のお偉方のみ配られるというマッサージ券。
言葉を失う中、レヴィアタン侯爵夫人が叫んだ。
「いかがわしいマッサージですわ!!」
皆が心に思い浮かべ、あえて口に出さなかったことである。
レヴィアタン侯爵は眉間に皺を寄せつつ、マッサージ券について打ち明ける。
「私はこのマッサージ券を使うつもりはない」
「どうしてですの!? もしかしたら、何か情報を得られるかもしれませんのに!」
レヴィアタン侯爵夫人がそう言うと、レヴィアタン侯爵はショックを受けたような表情を浮かべた。
「私が、その、いかがわしいマッサージに行ってもよいと?」
「任務ならば致し方ありません。わたくしも長年、覚悟を決めておりました」
レヴィアタン侯爵夫人は心の準備をしていたようだが、そういった任務はなかったという。
「しかしながら、こういった色事はあなたは不得意でしょうから、わたくしが|ミシャさん(ルシーお嬢様)と一緒に行きますわ」
「いかがわしい、マッサージに、か?」
「ええ。女性同士であれば、何かうっかり話をしてくれるかもしれませんし」
ここでヴィルが発言する。
「こういう場には、男もいるのでは?」
たしかに、お偉方が男性ばかりとは限らない。きっと女性もいるだろう。
それを聞いたレヴィアタン侯爵が大反対する。
「男がいるとなれば危険だ! 許すことはできない!」
「ならば私とルシーが共に行くのはどうだろうか?」
ヴィルが思いがけない提案をする。
「ええ!? 女装をしてマッサージに行かれると!?」
「待ってほしい。どこから女装要素が出てきた?」
「女性として行くほうが、相手も警戒しなくてよいと思ったのですが」
レヴィアタン侯爵夫人のアイデアに対し、レヴィアタン侯爵も「たしかに」と言う。
「女装をして、潜入してもらってもいいだろうか?」
「いや、急に言われても、私の体に合うドレスなどないだろうが」
「心配いりません! こんなこともあろうかと思って、男性用のドレスを持ってきていたんです」
「どういった事態を想定して、男用のドレスを用意していたのか……」
ヴィルが呟くその言葉を、レヴィアタン侯爵夫人は聞いていなかった。
「では、すぐに寸法直しをいたしますね! 少々お待ちを!」
「決定なのか……そうなのか……」
レヴィアタン侯爵は申し訳なさそうに、ヴィルの肩を叩きながら「すまない」と言った。ここでレヴィアタン侯爵が任務のために胸毛コンテストに参加したことを思い出したのか、ヴィルは「痛み分けだ」なんて言っていた。
そんなわけで、私とヴィルはいかがわしいマッサージ券を使って情報収集を行うことになったのだった。




