潜入!
ヴィルは麗しのご令嬢ルシーお嬢様に扮装し、私はベテラン侍女ハンナの衣装に身を包む。
それぞれ旅券も所持するという、徹底ぷりである。
もしも前世日本でのパスポートのように、顔写真があったら完全アウトだ。
けれどもこの世界は旅券に写真のようなものを添付する文化はない。
正直な話、身分証明に関してはザルと言っても過言ではなかった。
そのおかげで、こうして立場を入れ替えて潜入ができるわけなのだが。
私は少し年齢が高く見えるような化粧を施してみる。
初めてやったのだが、なかなか上手くできたような気がする。
ジェムも私の変装に興味津々のようだった。
ついてきてくれるようで、腕輪に変身して私の手首に収まる。
「ジェム、何かあったら頼みますね」
わかったと返事をするように、ジェムはチカッと小さく光った。
仕上げに、鑑定魔法が付与された眼鏡をかける。
これで完璧だ。
ヴィルは――わかってはいたが、とてつもない美女に変身していた。
「あの、とてもおきれいです」
「複雑だ」
胸を張って美しさを誇ってもいいのに、浮かない表情でいる。
レヴィアタン侯爵夫人から女装の才能があると絶賛されて、なんとも言えないような気持ちになったようだ。
「美しい女性にしか見えません」
「喋ったらばれるだろうがな」
ルシーお嬢様は恥ずかしがり屋さんということにして、私が会話を担当するようだ。
頑張らなければ、と思う。
レヴィアタン侯爵夫妻の見送りを受けつつ、私とヴィルは出発した。
マッサージ券について、コンシェルジュに聞いたらすぐに予約を取ってくれた。
本当にそんなサービスがあるのかと疑う気持ちがあったものの、実在するらしい。
場所は一級船室の別フロアにあるという。
そこに行く専用の転移魔法陣が用意されていた。
どうやら部外者は入れないようになっているようだ。
緊張していたのがバレたからか、ヴィルが手を握ってくれた。
それもほんの少しだけ。
転移魔法が発動し、移動先に下り立つと手が離される。
ここから先、ヴィルはルシーお嬢様で、私は侍女のハンナだ。
扉の前には燕尾服姿の男性がいて、私達を出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、ようこそ〝楽園〟へ!」
ここは特別なお客様へ究極のリラックスを提供する場所だという。
扉の向こう側に通されると、そこは肖像画がいくつも飾ってある空間になっていた。
「こちらにありますのは、施術師の肖像画でございます。この中から、お好きなお方を指名できるシステムでございます」
キャバクラとか、ホストみたいだな……なんて思ってしまう。
肖像画の年齢層は幅広い。
顔しか見えないので推測でしかないが、下は二十代前半、上は五十代半ば、とさまざまな年齢層の施術師がいるようだ。
その中で、見覚えのある顔を発見してしまう。
あれは、ルドルフの母君であるキャロラインではないのか!?




