幻獣の間の子
ガウには口輪と太い首輪が装着され、長い縄で繋がれていた。
その姿だけでも、なんだか痛々しい。
「実はガウくん、今日が初お披露目なんですよ!!」
団長曰く、虎系のの幻獣と、翼を持つ獅子系幻獣の間に生まれた子だという。
幻獣には鷲の上半身と馬の下半身を持つヒポグリフや、鷹の上半身に獅子の下半身を持つグリフォンなども存在する。
けれどもその二種の幻獣は、もともとそういう生き物なのだ。
幻獣同士を交配し、子を産ませるなんて前代未聞である。
「さあ、ガウくん、火の輪くぐりをするのです」
さきほど使った火の輪よりも一回りほど大きな火の輪が用意される。
火を付けられると、前列に座る私までも熱いと感じるほどだった。
猛獣使いが三度、鞭でガウを叩くと、ようやく走り始める。
火の輪を飛んだ瞬間、縄に火が点火する。
「わあ!!」
猛獣使いは驚き、縄を手放す。
するとガウはそれに気付いたからか、逃げようともがきはじめた。
団長が焦ったように叫ぶ。
「ガウを捕まえろ!!」
「は、はい!!」
乗客達は我が我がと逃げて出入り口に殺到していた。
あまりにも急ぐので、前を行く人が転倒し、ドミノ倒し状態となる。
私はすぐさま、火を消すために雪魔法を発動させた。
「――しんしん振る、雪よ!」
雪の高まりが火の輪と縄にどさっと音を立てて被さった。
鎮火できたようで、ホッと胸を撫で下ろす。
けれども次の瞬間、ガウが私を振り返り、目の前に迫ってくるのに気付いた。
「危ない!!」
ヴィルが私を庇うように抱きしめる。
そして結界魔法を発動させたようだが――。
『きゅう』
ガウは弱々しく鳴いて、その場に伏せた。
まるで私達に助けを求めているように見える。
団長が慌てた様子でやってきた。
「ああ、申し訳ありません! お客様、おけがはありませんか?」
「婚約者が火傷を負ったようだ」
「な、なんと!!」
火傷? なんて思ったものの、何か作戦があるのだろう。
手を庇うように隠しておいた。
「ああ、なんとお詫びをしていいのやら」
「火がテントに燃え移らなかったのも、私の婚約者が魔法の雪で消したからだ」
「ええ、ええ、見ておりましたとも!」
ヴィルは一歩前に出て、私を背中に隠してくれる。
火傷を負った演技なんてできそうにないので、非常に助かった。
「治療費と謝礼を含めて、金貨三百枚払ってもらおうか」
「なっ――!?」
またずいぶんとふっかけたものだ、と思ってしまう。
「金貨三百枚というのは、その、少々大げさでは?」
「大げさなものか。婚約者ルシーはルームーン国でも有名な音楽家で、手を負傷したとなれば、これまで通り演奏もできないだろう。それによる損害を考えてもらえるだろうか?」
金貨三百枚なんて、安い物だとヴィルは言う。
よくぞそんな嘘をするするつけるものだ、と心の中で感心してしまった。
団長は涙目になり、わなわな震えている。
「払えないのであれば――その幻獣を貰おうか」
「ガウを、ですか?」
「ああ」
団長は猛獣使いと顔を見合わせて頷く。
「少し獰猛な生き物かと思いますが、この子が傍にいることで、そちらのお嬢様の気持ちが安らぐのならば、ぜひどうぞ!」
ここで気付く。
ヴィルはガウを保護するために、金貨三百枚もふっかけたのだと。




