旅立つ日
あれから学校側への許可は取れたようで、無事、私は豪華客船の旅に参加することができるという。
ちなみに潜入任務であることは臥せられているようだ。
もしもきちんと説明していたら、許可なんて取れなかっただろう。
チケットにはすでに名前が刻印されているようで、私の物には〝ルシー・ド・ティナール〟とあった。
ルームーン国の貴族だろうとのこと。
年齢も同年代なので都合がいい。
ツィルド伯爵は私達の顔を知っているので、変装を行うという。
その中の一つとしてヴィルから受け取ったのは、魔法の毛染めドリンクだった。
ルシー・ド・ティナール本人の髪色がオレンジブラウンとのことで、その色に染まるようヴィルが直々に調合してくれたのだとか。
他にも瞳の色を長時間変えることができる点眼薬に、顔立ちを惑わす口紅など、ヴィルはさまざまな変装用のアイテムを用意してくれた。
家から持って行く必要な品は、ジェムに収納してもらう。
お気に入りのパジャマに読みかけの魔法書、勉強ができるように参考書やペン、いざというときのための魔法薬と作り置きしていたお菓子などをジェムに預けた。
ガーデン・プラントのことは、今回もチンチラ達にお願いする。
ご褒美のお菓子もたっぷり用意し、計画的に食べるように言っておいた。
ついでに研究室にいるホイップ先生にも伝えていたのだが――。
「この季節に、豪華客船の旅ですって~? 珍しいわねえ」
国内で行われている豪華客船の旅のシーズンは決まっているようで、その多くは夏から冬にかけてだという。
探るような眼差しを浴び、蛇に睨まれた蛙のような気持ちをこれでもかと味わう。
なんて言い逃れをしようか。考えるも、思いつかない。
「まあ、いいわ~。そういう船にはいろんな人が乗っているから、危険だと感じたら、すぐに逃げなさいねえ」
「わかりました」
もしも逃げ切れないと思ったら、ジェムの中にでも隠れておくといいと助言される。
「豪華客船の旅は上の階層に行けば行くほど、身分や家柄が高い人達の区画なのよ~。下に行けば行くほど、治安も悪くなる傾向があるから、なるべく行かないようにねえ」
「はい」
ホイップ先生は餞別だと言って、特製の酔い止めをくれた。
「お土産はソルト海藻がいいわあ」
「ホイップ先生、それは海の水底まで潜らないと自生していないものです」
「そうなのねえ、残念~」
絶対に知っていて言ったのだろうと思ったが、豪華客船の旅について追求されたくないので、この場では言わないでおく。
引きつっているであろう笑みを浮かべつつ、ホイップ先生の研究室をそそくさとあとにしたのだった。




