変装しよう
ヴィルが用意してくれた変装セットを使って、ルシー・ド・ティナールに成り代わる。
まず乗船日に着るようにと用意された、生成り色のドレスに袖を通す。
レヴィアタン侯爵夫人が寸法を調整してくれたので、私にぴったりな一着となっていた。
毛染めドリンクは柑橘系の爽やかな味わいで、とてもおいしい。
あっという間に、私の雪色の髪がオレンジブラウンに染まっていく。
「うわあ、けっこうイメージが変わるわね。ジェム、どう思う?」
ジェムは触手を伸ばし、適当に振っていた。
私の髪が何色だろうと興味がないのだろう。
もう少し、リアクションを取ってほしかったのだが。
まあいい。
点眼薬も問題なく点せた。
瞳はダークブラウンに変わる。
これだけでも、ずいぶんと別人のように思える。
最後に化粧を施し、顔立ちを惑わす口紅を塗ってみた。
「すごい、確実に別人だわ!!」
再度ジェムにどうかと聞いてみたものの、反応はまったく同じ。
お披露目しがいのない子だと思った。
「ジェムは船旅の間、ウサギに変化しておくのよ」
ルシー・ド・ティナールは白いウサギを飼育しているという情報を得ていたので、ジェムにその役目をお願いしておく。
「ウサギになってみてくれる?」
ジェムは頷くとこねこねと動き回り、姿を変えた。
体がぐいーーんと伸びて、人間みたいなシルエットとなる。
「え、何これ……」
顔はウサギだが、体は筋骨隆々の成人男性という、わけがわからない生き物へ変貌を遂げていた。
どうだ!! という眼差しを向けてきたが、ぜんぜん違うと否定する。
名前を付けてほしい、と胸を叩いていた。
「え、その姿の名前? その……マッスル・ラビット?」
満足したようで、ジェムはこくこくと頷いている。
「そんなことより、そもそもそれはなんの生き物なのよ! ウサギよ、ウサギ!! 小さくて、かわいいウサギに変化して!!」
そう強く訴えると、ジェムはやれやれといった様子で再度変化する。
こんどはきちんとしたウサギの姿になってくれた。
「そのウサギをキープしてね」
『ウサ!!』
変な鳴き声をあげたが、突っ込み疲れたのでスルーしてしまった。
なんとか身支度を調えたあと、ヴィルが登場する。
「え!?」
ヴィルが輝く銀の長い髪をなびかせながら登場した。
「あの、ヴィルですよね?」
「そうだが」
姿を惑わす魔法をかけているようだが、立ち振る舞いがヴィルだったのでわかったのである。
「どうだろうか?」
「すごく素敵です。長髪も似合いますね」
「では、普段も伸ばそうか?」
「いえ、その、今回限りで大丈夫です」
これ以上、ヴィルのファンが増えたら大変なので、ヴィジュアルのアップデートはお断りしておいた。
「ミシャも、その髪色が似合うではないか」
「こういう色合いもいいですよね」
変装は完璧! とうとう出発となる。
ヴィルの使い魔であるセイグリットに乗って港町まで移動する。
三十分ほどで、にぎわいを見せる港町に到着した。
「久しぶりですねえ、港町」
「そうだな」
ここは以前、叔父がネズミ講を働いていた街でもある。
「叔父さん、きちんと反省しているでしょうか?」
「今は監房で呪い付きの魔法書の解析を刑務作業として行っているらしい」
「そうだったのですね」
真面目にしているのか怪しい、と思っていたのだが、きちんと成果を上げたら刑期が短くなるようだ。
そんなわけで叔父は思いのほか真面目に取り組んでいるようだが、最終学歴は魔法学校を退学。もはや学歴ですらない、残念な経歴しかない。
ただでさえ難解な魔法書の解析なのに、呪い付きとあって、叔父は苦戦している模様。
刑期が短くなる日は遠そうだ。




