096 強制モフモフは国家反逆罪!? セントバーナードのツヴェルフと、肉球による至高の挨拶
「――アインスやツェンのような、フワフワでモフモフな奴が良いんだろ?」
あまりのポンコツぶりに、レンのリリスに対する言葉遣いがだんだんと素のフランクな調子(というか、ちょっと荒いツッコミ気味)になっていく。
「うんうん! フワフワのモフモフよ! できれば、そこのシュッとした白い子くらいボリューミーなのが最高ですわ!」
リリスはレンの横に立つボルゾイのノインを見つめ、期待に胸を躍らせて目を輝かせている。
「それで、王女の護衛が務まるくらい強い子、か……。よし、シバ。ツヴェルフをここに呼んできてくれ」
「わん!(任せてワン!)」
レンが壁際に控えていた柴犬風のコボルト・シバ(愛称)に声をかけると、シバは短い脚をパタパタと軽快に鳴らして部屋を飛び出していった。
側仕えの「もふもふ5(ファイブ)」
ちなみに、この国王執務室や応接室でレンの側仕えをしているのは、特に可愛い仕草と優秀さを兼ね備えた選りすぐりの5匹のコボルトたちだ。レンは彼らに親しみを込めて、それぞれ愛称で呼んでいる。
1.トイ
メイド服を着こなすトイプードル風コボルト。オリビアの超お気に入り。毛色は純白。細かくカールしたフワフワのシングルコートは、弾力があって最高のモフモフ加減。
2.ポメ
同じくメイドのポメラニアン風コボルト。プリシラのお気に入り。被毛はこれでもかと密生した極上のダブルコートで、こちらも毛色はホワイト。歩くたびにフサフサと揺れる。
3.チワ
同じくメイドのチワワ風コボルト。毛色はピュアレッド(赤みがかった褐色)。ロジーナのお気に入り。コボルトの中で最も小柄で、成犬でも100センチメートルほどしかなく、守ってあげたくなる可愛さ。
4.シバ
側仕えの柴犬風コボルト。毛色はスタンダードな赤。真っ直ぐで硬いトップコートと、柔らかく縮れたアンダーコートによる見事なダブルコート。和風な佇まいがレンの癒やし。
5.ダック
側仕えのミニチュアダックスフンド風コボルト。被毛は柔らかくて長いロング。毛色は単色の赤茶。胴長短足の独特なフォルムで歩く姿は、見ているだけで全員の口元が緩む。
超弩級もふもふ、見参!
そうこうしているうちに、シバが大きな影を伴って戻ってきた。
部屋に入ってきたのは、超大型犬であるセントバーナード風のコボルト・ツヴェルフ(12)だった。
「きゃあああっ! この子なのね!? 素晴らしいわ、この圧倒的な質量とボリューム……んふぅっ!」
リリスはツヴェルフの姿を見るや否や、理性のタガが外れてその大きな体にダイブし、思いっきり抱きついた。
「わ、わふぅ……(マスター、俺、どうしたらいいのワン……?)」
突然の美女からの強烈な抱擁に、ツヴェルフは巨大な前脚を浮かせたまま、困惑の極みといった表情でレンに助けを求める。
【ツヴェルフ】
セントバーナード風のコボルト。毛色はホワイトをベースに、胴体を覆うような大きな赤茶色の斑紋がある。被毛はロングのダブルコートで、文句なしの超絶モフモフ。元は大工仕事をしていたが、その規格外の怪力と優しさを買われて精鋭部隊「ナンバーズ」へと昇格した実力派。
「こらリリス! 我が国では『相手の同意のない強制モフモフ』は重罪になるからな。自由なるコボルト市民への深刻な権利侵害だぞ」
レンがピシッと指を差して警告する。
「あふぅ……。そ、そうなの……?」
リリスは名残惜しそうに腕の力を緩め、ツヴェルフの顔を見上げた。
「わん(そうだワン)」
ツヴェルフは大きな首を縦に振り、深くうんうんと頷く。
「はふぅ……っ、でも、もっとモフらせてぇ……!」
「リリス、何事もいきなり距離を詰めるのは良くない。まずは自己紹介が先だろう? お互いのことをしっかり分かり合って、仲良くなってからじゃないと。君だって、知らない人に街中でいきなり抱きつかれたら嫌だろう?」
「そうよぉ、王女様。私だって、このチワちゃんとここまで相思相愛になって、お膝の上で大人しく撫で回させて貰えるようになるまで、丸一週間はかかったんだからね!」
ロジーナがチワをぎゅーっと抱っこして撫でながら、先輩面をしてアドバイスを送る。
「そ、そうね……。確かに、いきなり私の知らない人間が抱きついてきたら、その場で即座に国家反逆罪で処刑ですわ……」
納得するリリスだったが、その内容にレンは(こわっ……サラッと物騒なこと言うな、やっぱり大国の王女だ……)と密かに戦慄した。
「改めて紹介しよう。我が国のトップランクの精鋭コボルトの中の一匹、セントバーナードのツヴェルフだ。――ツヴェルフ、こちらはミノス王国の王女リリス。彼女が我が国に滞在している間だけ、専属の護衛を務めてやってくれ」
「わんわん!(了解だワン! 陛下の仰せのままに!)」
ツヴェルフはドスンと大きな音を立ててリリスの前に跪き、騎士の礼を取った。その迫力と規律正しさに、リリスの護衛騎士たちも「ほう……」と感嘆の息を漏らす。
「初めまして、リリスよ。これから宜しくね、ツヴェルフ」
「わんわん(ツヴェルフですワン。お守りしますワン)」
「まあ! そんな堅苦しい挨拶は不要よ!」
リリスはツヴェルフの大きな両前脚を掴んで立ち上がらせると、そのまま熱い握手を交わした。
(――ひゃああっ! 何よこの大きくて肉厚な『肉球』は……! ぷにぷに、かつ弾力があって、最高の癒やしだわ……! 堪らない、堪らないわぁ……っ!!)
ガシッと肉球を握りしめたまま、早くも脳内が至高の快感で満たされていくリリス。大国ミノス王国の外交問題は、ツヴェルフという超大型もふもふ騎士の肉球によって、完全にアレス王国側のペースへと巻き込まれていくのだった。




