009 怒涛の生け捕り大作戦! 水牢から飛び出すもふもふ新メンバー
レンたちはパチパチと薪が爆ぜる焚き火の周りに車座になり、商人から買い取った温かい夕食を食べていた。
秋田犬そっくりのコボルト、アインスにも専用の夕食が与えられたが、野生の飢えがまだ残っているのか、ガツガツと猛烈な勢いであっという間に完食してしまった。今は満足したのか、アンナとレンの間に体を潜り込ませ、丸くなって気持ちよさそうに寝息を立てている。
だが突然、アインスの三角形の耳がピクリと大きく動いた。
アインスはガバッと跳ね起きると、暗闇に包まれた不気味な茂みの一点を鋭く見つめ、喉の奥から低く唸り始めた。
「フンフン……、ワフワフ!」
(クンクン……レン、あっちから野生のコボルトの臭いが近付いてくるワン!)
「アインス、教えてくれてありがとう。――冒険者の皆さん、アインスが言うには、あそこの茂みからコボルトが近付いてきているそうです」
レンは食事の手を止め、周囲の護衛冒険者たちを見回して冷静に告げた。
「え? どれどれ……『サーチ(索敵)』! ――って、本当だわ!」
魔法使いの女がすかさず探知魔術を発動し、目を見開いて手に持っていたスープ皿を地面に置いた。愛用の杖をひったくるように握り締める。
「食事なんかしてる暇はなさそうだね。みんな、行くよ!」
「肉の匂いにつられておびき寄せられたか。レン、警告に感謝する!」
リーダーの剣士は口に残っていた肉を素早く胃袋へ掻き込むと、背中の大剣を誇らしげに引き抜いて立ち上がった。太めの槍術士の男も、無言で鋭い得物を構えてその後に続く。
「ほら、レンも行くよ! 今日はあんたにたっぷりテイムしてもらうんだからね! リーダー、今回はコボルトを殺しちゃダメだからね、生け捕りだよ!」
狩人の女は楽しそうに弓を手に取り、レンの背中をポンと叩いて立ち上がった。女性陣はもふもふの増員にやる気満々である。
「ははは、やっぱりこうなるか。仕方ないね」
レンも苦笑しながら皿を置き、大人たちの後を追って立ち上がった。
◇◇
冒険者たちが身を低くして問題の茂みに近寄ると、直後、ガサガサガサッ!と激しく葉が擦れ合う音が響いた。
「ガルルルル、ワンワン!!」
飛び出してきた野生のコボルトが、狂暴な牙を剥いて最前線の魔法使いへと飛び掛かってくる。
「ふふん、甘いわ!――『水牢』!」
すかさず魔法使いの女が杖を突き出し、呪文を唱えた。
刹那、空中に出現した巨大な水の球体が、飛びかかったコボルトをすっぽりと包み込んだ。魔術によって作られた球体の水獄の中で、コボルトは「ガボガボ……!?」と泡を吹きながら手足をバタつかせ、四苦八苦して溺れている。
「ほらレン、早くテイムしちゃって! のんびりしてると本当に溺れ死んじゃうよ!」
「わ、分かりました!――『テイム』!!」
魔法使いの催促に応じ、レンは水牢の中に閉じ込められたコボルトに向けて右手を突き出した。淡い光の波紋が水の球を透過し、魔物の体を優しく包み込んでいく。
バシャン!!!
テイムが成功した手応えと同時に、魔法使いが右手を横に一閃させると、コボルトを拘束していた水球が爆発するように地面へと激しく落ちた。
「あはは! 水牢に閉じ込めて捕獲したおかげで、泥汚れまで一緒に洗えて一石二鳥ね!」
楽しそうに笑う魔法使いは、仕上げとばかりにすぐさま『クリーン』の生活魔法を唱えた。濡れそぼっていたコボルトの体が瞬く間に乾き、さらに輝くような美しいもふもふの毛並みへと変貌していく。
レンと魔法使いが最初の一匹を見事に無傷でテイムしている間に、リーダーの剣士、槍術士、そして狩人の三人は、すでに奥の茂みへと果敢に飛び込んでいた。
レンがアインスを連れて茂みを掻き分け、中に進むと――驚くべきことに、そこではすでに戦いが完全に終わっていた。
「グルルルルル……!」
そこには、屈強な脚でコボルトの背中をがっしりと踏んづけて押さえ込んでいる槍術士の男。プロの技術が光るロープワークで、コボルトを頑丈に雁字搦めにしているリーダー。そして、投擲武器のボーラ(紐の先に重りがついた捕縛道具)で見事に足を絡め取って身動きを封じた狩人の女の姿があった。
捕まった野生のコボルトたちは、歯を剥き出し、悔しそうにこちらを睨みながら低く唸っている。さすがは経験豊富なベテランパーティ、手加減しての生け捕りもお手の物だった。
「さあレン、こっちの子たちも早くテイムしちゃってよ!」
狩人の女は、自分がボーラで捕まえたコボルトにいち早く『クリーン』の生活魔法を掛け、すっかり綺麗になった犬を後ろから愛おしそうに羽交い締めにしている。顔はすでにデレデレだ。
「はいはい、すぐやります。――『テイム』! 『テイム』! 『テイム』!」
レンはそれぞれ完全に拘束されたコボルトたちへ向けて、流れるようにテイムの光を放った。三匹の魔物たちの目が一瞬で穏やかなものへと変わり、大人しく尻尾を振り始める。
◇◇
無事にすべてのコボルトがレンの眷属となったその時、後ろの茂みがガサガサと大きく揺れた。
「どう? どうかしら!? 私のワンちゃんもちゃんと捕まえてくれたかしら!?」
現れたのは、商人の若い使用人の女だった。彼女は両手を握り締め、ワクワクとしたこれ以上ない期待顔で周囲を見渡す。
「大丈夫よ、心配しないで。全部で四匹いたわ。カミラの分のモフモフもばっちりキープしてあるからね!」
狩人の女が親指を立てて快活に応える。
(へぇ、あの商人の使用人の女の人は、カミラって言う名前なんだな……)
レンは新しい眷属たちの様子を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。これで仲間は一気に四匹増え、アインスを含めて五匹の大所帯だ。
「やったーーー! 私はこの子が格好良くて良いわ!」
カミラは嬉しそうに悲鳴を上げると、リーダーの剣士が頑丈にロープで拘束していたコボルトに直行。手早く『クリーン』の生活魔法を掛け、泥が落ちて美しい大型犬の姿になったコボルトへ、我慢の限界とばかりに勢いよく抱きついた。
「ワフッ!?(な、なんだワン!?)」
いきなり人間の女性に抱きしめられた二匹目のコボルトは、新米マスターであるレンの方を振り返り、助けを求めるようにキョトンとした目で鳴くのだった。
夕暮れの野営地は、実家の陰惨な空気とは180度違う、笑顔ともふもふの温もりに満ち溢れていた。




