010 もふもふ軍団の命名式! 冒険者たちの英才教育と、初めての武器購入
新しく眷属となった四匹のコボルトたちを見つめながら、レンは少し緊張した面持ちで護衛の冒険者たちに向き直った。
「あの、皆さん……ちょっとお願いがあるんですけど……」
「なんだい?」
大剣のリーダーが、気さくに笑顔を返す。
「さっきアインスがアンナさんに薬草の採取を教わって、見事にできるようになったんです。俺自身は戦闘力が皆無なので、この子たちに次の街に着くまでの間、冒険者の技術を少しでいいので教えていただけませんか? もちろん、指導の対価はお支払いします」
レンの提案に、リーダーはうーんと少し顎に手を当てて考え込んだが、すぐに破顔した。
「ん〜、分かった。だが、対価はいらないよ。そもそも、うちのレディたちが我が儘を言って強引にテイムさせたようなもんだからね。街に着いた後、いきなり五匹ものコボルトを養っていくのも大変だろう?」
「いやいや、命がけの技術ですし、対価はきっちり受け取ってください」
「いやいや、良いってば。気にするな!」
「ちょっと、男二人で何をごちゃごちゃやってんのよ! 対価なんてどうでもいいから、まずはこの子たちに名前をつけてあげてよ! この子を早く名前で呼びたいわ!」
二人の会話を遮るように、狩人の女が新米コボルトを愛おしそうに抱き締めながら割り込んできた。もふもふを名前で呼びたくて仕方がないらしい。
「そ、そうだね。ありがとう。ええと……それじゃあ名前は、ツヴァイ、ドライ、フィア、フンフにするよ」
(確か前世のドイツ語の数え方で、2がツヴァイ、3がドライ、4がフィア、5がフンフだったはずだ。アインスからの連番だから分かりやすいな)
レンが名付けると同時に、鑑定スキルと前世の知識から、それぞれの犬種のような特徴が見えてきた。
まず、狩人の女に抱っこされている『ツヴァイ』は、黄金の美しい毛並みを持つゴールデンレトリーバー風のコボルトだ。
レンの足元で「ハァハァ」と息を荒くしながら早くも食事をねだっている『ドライ』は、スマートで引き締まった漆黒の体に気高さを感じるドーベルマン風のコボルト。
魔法使いの女が幸せそうに抱きしめている『フィア』は、艶やかな黒い長毛が特徴的なフラットコーテッドレトリバー風のコボルト。
そして、使用人のカミラがこれでもかと抱きついている『フンフ』は、鋭い狼のような顔立ちに反してどこか愛嬌のある、シベリアンハスキー風のコボルトだ。
「んじゃ、私はツヴァイに弓の基礎と、簡単な罠の仕掛け方を教えるわね! 頼んだわよ、ツヴァイ!」
「よし、俺はドライに剣の基本の振りと、魔物の解体技術を仕込んでやろう」
と、リーダーが頼もしく拳を鳴らす。
「私は〜、攻撃魔法はフィアの魔力量だとちょっと無理そうだから、生活魔法かなぁ。荷物の中に余ってる生活魔法のスクロールがいくつかあったはずだし。あとは、護身用の杖術ね」
「え〜、いいな。私は冒険者じゃないから技術は教えられないけれど……そうだ、フンフには私の旦那様(商人)の売り物から生活魔法のスクロールを買ってあげるわ! せめて自分で『クリーン』ぐらい出来ないとね!」
「ああ、皆がそこまでやるなら、俺だけ何もしないわけにはいくまい。戦う時は、このフンフに俺が槍の間合いと解体を教えてやろう」
と、いつもは無口な槍術士の男まで、静かに熱い闘志を燃やして賛同してくれた。
こうして、もふもふ軍団の贅沢すぎる担当教官たちが一瞬で決まった。
しかし――。
「ワンワンワンワンワンワンワン!」
「ガウガウガウガウガウガウガウ!」
「ワオンワオンワオンワオンワオン!」
「バフバフバフバフバフバフバフ!」
((((名前なんてどうでもいいから、とにかくお腹空いたワン! ご飯をくれワン!))))
新しく加わった四匹のコボルトたちは、名付けの感動など微塵もなく、腹ペコだと一斉に大合唱を始めてうるさいことこの上ない。
「はいはい、分かったよ。今用意してもらうからね」
レンは苦笑しながらコボルトたちの頭を順番になだめるように撫で回した。
「この子たち、全員お腹が空いて限界だそうです。カミラさん、食事の余りはありますか?」
「う〜ん。余ってはいるけれど、この子たちの尋常じゃない食べっぷりを見てると、少し足りないかもね。よし、厨房の余り物から何か適当に見繕ってあげるわ。みんな、こっちにおいで!」
カミラが手招きすると、四匹のコボルトたちは尻尾をちぎれんばかりに振りながら、一斉に彼女の後を追って調理場へと駆けていった。
◇◇
コボルトたちがカミラから貰った大盛りのご飯を夢中で貪っている間、レンは商人の男の元へ歩み寄り、彼らに持たせる武器について相談することにした。
「商人さん、コボルトたちに持たせる武器を買いたいんです。ツヴァイには弓、ドライには剣、フィアには杖、フンフには槍が欲しくて」
「おやおや、コボルト用の武器ですかぁ。小型の弓と、杖は一般的なもので良いとして……槍は短槍で良いですかね? あいにく、旅の荷馬車には数打ちの量産品(安価な量産武器)しかありませんよ」
「ええ、量産品で十分です。……ところで、ドライに持たせる小さめの『剣』はありませんか?」
「うーん、コボルトの体格に通常の剣は少し大きすぎるでしょう。代わりに、これはどうだい?」
商人が荷物から取り出したのは、独特の形状をした刃物だった。
「へぇ、面白い形をしていますね。大きさも小ぶりで、コボルトには丁度良いかも。……よし、これにします。これを五本ください」
「おお、気に入ってくれましたか! これは『マチェット』と言ってね。通称『山刀』とも呼ばれているが、本来は森の中で邪魔な草木を薙ぎ払うための道具なんだよ」
手にとってみると、マチェットは持ち手側の刃が細く、先端にいくに従って肉厚で太くなっており、ナイフと剣の中間ほどの絶妙な長さだった。これなら重量のバランスも良く、コボルトの筋力でも容易に振り回せるし、汎用性も高い。
「あとは、アインスたちのために解体用のハンティングナイフも五本ください」
「毎度あり!」
レンは商人に代金を支払い、購入したばかりのピカピカの武器や道具を、購入したばかりの中型マジックバッグから取り出して、それぞれアインス、ツヴァイ、ドライ、フィア、フンフへと手渡した。
自分専用の武器を与えられ、誇らしげにそれを構えたり、匂いを嗅いだりしている五匹の頼もしいもふもふたち。
(……実家を追放された時はどうなることかと思ったけれど。乗り合い馬車でたまたま一緒になった人たちが、本当に良い人ばかりで良かったな)
揺れる焚き火の光に照らされる温かい人々の笑顔を見つめながら、レンは心の底から深い感謝と、これからの旅への確かな手応えを感じるのだった。




