083 新生アレス王国、始動! 伝説の元Aランク解体士と、もふもふ参謀たちの初会議
ヒダ国から奪い取ったコジマ公爵領の領都。
かつてはコジマ公爵が我が物顔で威張り散らしていた重厚な執務室に、今、新生『アレス王国』の主だったメンバーが集結していた。
「――まさか、本当に建国しちゃうなんてね」
窓から差し込む陽光の下で、ダリアが呆れ半分、面白半分といった様子で呟く。
元Bランク冒険者パーティ『朝焼けの光』の魔法使いにして、現在はアレス王国騎士隊第三騎士団長兼魔法師団団長。彼女の膝の上では、愛犬……ではなく、相棒のフラットコーテッドレトリバー・フィアが、心地よさそうに目を細めてモフられ続けている。
「ホントだよ。勢いとはいえ、ヒダ王国に真っ向から喧嘩売っちゃったんだもんねぇ」
エリーが肩をすくめる。弓術隊兼斥候を統括する第四騎士団長。彼女もまた、ゴールデンレトリーバーのツヴァイを愛おしそうに撫でていた。
「んー。まあ、ヒダ国側はかなり焦ってるみたいよ? 情報を集めているネズミたちの話だと、王城では『国として認めるから、早く友好条約を結ばせてくれ』って大騒ぎらしいわ」
ヘレナが淡々と言葉を継ぐ。元テイマーズギルドのサブマスターで、現在はレンに代わって国家運営のすべてを実質的に回しているやり手だ。肩には、彼女が唯一無二の眷属とする八咫烏のヤタが誇らしげに止まっている。
「はっ! 笑わせるな。今まで散々馬鹿にして、あまつさえ軍まで差し向けてきた相手に、よくもまぁ手のひらを返せるもんだ。……クイントン、参謀としてどう思う?」
フェルダーが鼻で笑う。アレス王国将軍兼第一騎士団長。その隣では、ドーベルマンのドライが彫像の如く腕を組んで瞑想していた。
「どうと言われても……レン様ご自身が、書状で明確に『戦争状態』を宣言されたのですよね。今更、国交正常化などという生温い話が通るはずもありません」
クイントンが静かに答える。元傭兵団団長という経験を買われ、フェルダーの気まぐれで参謀職に就かされた男だ。
「ゲイル、お前はどうだ?」
「俺は、レン様に従うのみだ」
第二騎士団長であり槍の使い手、ゲイルがシベリアンハスキーのフンフを撫でながら一言。
「……あのさぁ」
部屋の隅で、ぼそりと困惑の声を上げる男がいた。辺境街で解体士をしていた『とっつぁん』ことロバートだ。元Aランク冒険者で、フェルダーの師匠でもある。
「何で俺がここにいるかなぁ? 隠居の身だぞ」
「なに言ってんだ師匠。話が大きくなりすぎて、将軍職も一人じゃ限界なんだよ。だから、信頼できる最高の相棒を紹介したのさ」
「俺は片足がないんだぞ。戦えん」
「戦闘なんてのは、エルやみんながやってくれる。師匠の仕事は、広大な領土の管理と騎竜部隊の運用だ。護衛は死ぬほどいる。な、エル!」
ナンバーズに昇進した土佐犬のエルが、力強く「わふぅ!」と鳴いて胸を張った。
「……手伝ってあげなさいな、とっつぁん。街の冒険者ギルドも潰れて無職なんでしょ?」
ジュリアが小悪魔的に微笑む。元錬金術ギルドマスターだ。彼女の傍らでは、チベタンマスティフのツェンが大人しく座り、その背後では、弟子のボーダー・コリー、プードル、シェットランドシープドッグの三匹が、尻尾を振ってロバートに熱い視線を送っている。
「……ったく。世話の焼ける連中だ」
ロバートは義足の足をさすりながら、降参したように苦笑した。
「わかったよ。手伝ってやる。その代わり、美味い酒を期待してるからな」
「おう、もちろんだ!」
かつての辺境の冒険者たちと、意思を持つコボルトたちの精鋭が集ったこの部屋は、まだ小さなテーブルを囲む会議場に過ぎない。しかし、その瞳に宿る熱は、いつかこの大陸を揺るがす強大な『王国』のそれであった。




