081 さらば公爵! 必殺の「一騎打ち(大嘘)」と、卑怯上等で勝利を掴む辺境流の戦法
「――フゥ。……貴様が、この軍の大将か?」
ドライがひらりと身を翻してフェルダーの元へと戻ると、ようやく一息ついたコジマ公爵が、鋭い眼光をフェルダーに向けて尋ねた。
「そうだ。俺がこの軍の大将……。辺境街が誇る、将軍フェルダーだ!」
フェルダーはフンスと鼻を鳴らし、これ以上ないほど格好つけて大剣を肩に担ぎ直した。
「……あれ? フェルダー、あんた将軍なんて肩書きだったっけ?」
すかさず、隣にいたダリアがジト目でツッコミを入れる。
「そうだよ! 今は俺が総大将なんだからいいだろ! せっかく良いところなんだから、身内でチャチャを入れるなよ、ダリア!」
「あはは! ごめんごめん、あまりにカッコつけてたから、ついね」
フェルダーとダリアがいつも通りの緊張感のない掛け合いをしている間にも、他のメンバーは一切の隙を見せていなかった。
「じゃあ、俺が行くぞ」
元ベテラン冒険者のゲイルが、愛用の槍を鋭く構えて静かに前に進み出る。その斜め後ろでは、エリーが無言のまま弓を引き絞り、コジマ公爵の眉間に狙いを定めていた。
「む……やるな、こ奴ら……っ」
気の抜けた会話をしながらも全身が一切の隙を排しているフェルダーとダリア。歴戦の戦士の風格を漂わせるゲイル。一瞬の呼吸を計り、急所を狙うエリー。
さらに、彼らを包囲するように、一瞬の隙も見逃さぬ構えで虎視眈々と命を狙うコボルトの精鋭たち。
グレートデンのズィベン、ゴールデンレトリーバーのツヴァイ、ドーベルマンのドライ、フラットコーテッドレトリバーのフィア、シベリアンハスキーのフンフ――。
(よくもこれほどのバケモノ戦力を、一堂に集めたものだ……!)
コジマ公爵の額から、タラリと冷たい汗が流れ落ちる。
「しかぁし! 儂も辺境の抑えとして、長年この王国を守護してきた公爵よ!」
大剣を壊れんばかりに強く握りしめるコジマ公爵。
(とは言え、この全員を一度に相手にしては、流石に儂とて勝ち目はない。ならば――)
「大将同士の、一騎打ちと行こうじゃないか!」
公爵は身構えながら、ゆっくりとフェルダーの方へ歩み出た。
(全員を相手にするのは無理だが、一対一の純粋な武芸の勝負なら絶対に負けん。大将のフェルダーさえここで討ち取れば、敵の指揮系統は崩壊し、戦況はひっくり返せるはず!)
「へぇ。なるほど、俺になら勝てると踏んだわけだ」
フェルダーはニヤリと笑うと、周囲の仲間たちに言葉を介さず「目配せ」を送った。エリーも、ダリアも、ゲイルも、コボルトたちも、その意図を察して無言でコクりと頷く。
「いいだろう、受けて立つ!」
フェルダーもまた、愛用の大剣を構えて前に出た。彼の手にあるのは、冒険者時代に決死の思いで手に入れた「光の魔剣」。コジマ公爵が持つ、雷の魔法を纏わせた「ミスリルの大剣」に勝るとも劣らない業物だ。
――ガキィィィィン!!!
最初の一合。火花が激しく散り、互いの腕に凄まじい衝撃が走る。コジマ公爵もフェルダーも、刃を交えた瞬間に「簡単には決着が着かない強敵」であることを肌で感じ取っていた。
二合、三合、四合と、激しい金属音を響かせながら互いの剣撃が交錯する。流石は公爵、一対一の剣技は凄まじいキレだ。
――だが、その均衡はあまりにもあっけなく崩れた。
ブスッ!!
「ワンワン!(やったワン!)」
完全にフェルダーとの剣撃に集中していた公爵の死角から、ツヴァイが容赦なく放った高速の矢が突き刺さった。
「くっ、あ……っ!?」
公爵の右腕に矢が深く突き刺さり、あまりの激痛に剣筋が大きくブレる。歯を食いしばってフェルダーの追撃をなんとか大剣で受けるが、
ビシッ!!
さらに、エリーの放った矢が、今度はコジマ公爵の右足の膝裏を正確に撃ち抜いた。
「隙有りッ!!」
エリーの叫びを合図に、追撃の大魔法が即座に牙を剥く。
フィアの放った【炎弾】と、ダリアの放った【雷撃】が、身動きの取れなくなった公爵を容赦なく襲う。満身創痍になりながらも、本能的な執念でそれらを大剣で弾き飛ばした公爵だったが――そこが限界だった。
――グサッ!!! ズブシュッ!!
「バウバウ(油断大敵ワン。これが辺境街の戦い方だワン)」
「…………」
いつの間にか背後と側面に回り込んでいた、ハスキーのフンフと、無言のゲイル。二人の鋭い突きが、公爵の腹部と背中を同時に深く貫いていた。
「お、前、たち……ひ、卑怯、な――」
口からドクリと血を吐き、公爵が最後の力を振り絞って恨みの声を絞り出そうとした、その一瞬。
シュン、と黒い影が閃いた。
ドーベルマンのドライが、光速の踏み込みでコジマ公爵の首を真横から一文字に跳ね飛ばした。ゴロゴロと地面を転がる、かつての英雄の頭部。
「ガウガウ(ふ、所詮はこの程度かワン。一騎打ちなどという甘い言葉に縋った時点で、お前の負けだワン)」
ドライは冷たく言い放つ。
「き、貴様らあああ!! 卑怯だぞッ!! 公爵閣下は正々堂々と一対一の勝負を挑んだのに! それを、寄ってたかって袋叩きにするなど、人の風上にも置けぬ悪党めええ!!」
主君の無惨な死を目の当たりにしたコジマ公爵の側近が、涙をボロボロと流しながら、怒り狂ってフェルダーたちを激しく批判した。
しかし、フェルダーは責められるどころか、フンと胸を張り、全く恥じる様子もない超ド級のドヤ顔で正々堂と言い返した。
「ハッ! 卑怯上等、勝てば官軍よ!! 俺は最初から『一対一の勝負を一人で受ける』なんて一言も言っちゃいねえ! 勝手に一騎打ちだと勘違いして、戦場の真ん中で無防備に突っ込んできた公爵が馬鹿なだけだろ!」
「な、何だとぉっ!?」
「いいか、俺たちは『元・冒険者』なんだよ! 目の前の敵を確実にブチ倒すためなら、連携だろうが不意打ちだろうが、使えるものは何だってやるに決まってるだろ! 正々堂々とルールを守って戦った結果、魔物や敵に殺されるなんて、そんな馬鹿らしい死に方は御免なんだよ!」
冒険者としての現実主義を、堂々と誇らしげに語るフェルダー。
「う、貴様……! 大将同士の一対一の勝負を何だと思っているのだ! これでは、高潔なコジマ公爵も死んでも死にきれ――」
「アフアフ(ゴチャゴチャと負け犬がうるさいワン。お前も主の後を追うといいワン)」
ザシュッ!
今度はグレートデンのズィベンが、うるさい側近の首を一瞬で刎ね飛ばして黙らせた。
「ガウガウ(フェルダー、戦いはまだ終わってないワン。残党を掃討するワン)」
ドライが冷徹に告げ、次の戦場へと身を投じると、ツヴァイ、フィア、フンフ、ズィベンといったもふもふ軍団も、飢えた狼のごとき速度でその後を追って行った。
「そうだな! よし、一気に終わらせるぞ!」
フェルダーは大きく息を吸い込むと、戦場全体に響き渡るような超大声を張り上げた。
「――敵将、コジマ公爵!! 我ら辺境街軍が、確かに討ち取ったりいいいいいいいい!!!」
フェルダーの勝利の雄叫びが、血と硝煙にまみれた戦場にこれでもかと鳴り響いた。
総大将の死を知ったコジマ公爵軍の残党たちは、完全に戦意を喪失し、次々と武器を投げ捨てて地面に頽れていくのだった。




