080 雷光の剣vs漆黒の牙! 英雄コジマ公爵、コボルト精鋭部隊の「連携」の前に戦慄する
平原は文字通り地獄の坩堝と化した。
隊列をズタズタにされ、炎と矢の雨に晒されたコジマ公爵軍は、もはや組織的な戦闘能力を喪失している。
一方、辺境街軍のコボルトたちは、普段からの狩りで培った「5匹1チーム」の連携を遺憾なく発揮し、分断された敵兵を一人また一人と無力化していた。
当初は震えていた傭兵たちも、目の前の「圧倒的な勝ち戦」を悟り、ヒエラルキーの最底辺に沈んだ公爵軍の残党に牙を剥く。
「な、何が起こった……!? なぜ我が軍が、たかが辺境の傭兵とコボルトごときに!」
「閣下、罠です! あらゆる場所に仕掛けられた巧妙な罠により、陣形が瓦解しました!」
「罠如きでこの有様か! ……その上、魔法隊による戦略的な砲撃で、先陣が完全に崩壊した模様です!」
「ええええい、煩い! そんな言い訳が通用すると思っているのか! 貴様ら、コボルトと傭兵如きを蹴散らせええええい!」
後方で指揮を執っていたコジマ公爵は、側近の報告に激昂し、血管を浮かべて怒声を上げる。しかし、どれだけ叫ぼうとも、すでに泥沼に沈んだ軍勢を立て直す術はない。
「……何をしておる! くっ、こうなったら儂が行くぞ! 者共、儂に続け!」
コジマ公爵は、もはや一兵卒の指揮など不要とばかりに、雷光を纏う大剣を抜き放ち、前線へと躍り出た。
「うらあああああああ!」
大剣を真一文字に薙ぎ払うと、雷の刃が飛ぶ。その軌跡上にいた両軍の兵士たちが、友軍・敵軍の区別なく斬り裂かれ、焼け焦げて吹き飛んだ。
「どけえええええ!!」
公爵から放たれる英雄の威圧感に、前線で交戦していた兵士たちは戦慄し、慌てて道を空ける。
「辺境の田舎者大将、出て来い! 貴様の首を我が雷剣で灰にしてくれる!」
公爵が雄叫びと共に、立ちはだかったコボルトの首を跳ね飛ばそうと大剣を振り下ろした――その瞬間。
ガキンッ!!
凄まじい金属音が響いた。大きなマチェットが、公爵の雷剣を正確に受け止めていた。
「ウワン!(お主のその大仰な剣、少しは歯応えがありそうだワン)」
受け止めたのは、伝説の建築家バークの弟子であり、持ち前の怪力で前線を支えるグレートデンのコボルト・ズィベン(7)だ。
「ほう、我が剣を片手で受け止めただと? コボルトの癖になかなかやるな」
「ふん、ならこれはどうだ! 喰らえ!!」
鍔迫り合いの最中、コジマ公爵がニヤリと笑うと、大剣からバチバチと放電が溢れ出す。
「ウワンウワン!(これしきの電流、熱いくらいで耐えられるワン!)」
ズィベンは雷撃を全身で浴びながらも、一歩も退かずに牙を剥く。
「……ふはははは、これも耐えるか! 愉快! 愉快!!」
コジマ公爵が更に力を込め、ズィベンを押し潰そうとした刹那。
「ワンワン!(ズィベン、そこまでだ! 下がれワン!)」
鋭い声と共に、空中を縫うような高速の矢が放たれる。ゴールデンレトリーバーのコボルト・ツヴァイ(2)の一撃だ。
公爵は咄嗟にズィベンを蹴り飛ばして回避し、空中で矢を斬り落とす。
「ふん、高速の矢だな――。っと!」
言葉が終わるか終わらないかの瞬間に、今度はフラットコーテッドレトリバーのコボルト・フィア(4)から、高電圧の雷撃魔法が公爵の背後を襲う。
「ワォンワォン(ちっ、躱されたかワン!)」
「ふむ、連携も中々……。だが……」
公爵が雷剣を掲げようとした、その隙を見逃さなかった。
「バウ!(そりゃあワン!)」
シベリアンハスキーのコボルト・フンフ(5)が、獲物を狙うハスキーさながらの速さで突撃し、鋭い槍を公爵の脇腹へ突き立てる。
雷剣を咄嗟に盾にして受け流した公爵は、返す刀でフンフを斬り上げようとするが、フンフは槍の石突きで地面を蹴り、驚異的な反射神経で弾いて後方へと跳んだ。
「はははは! コボルトと侮っていたが、貴様らは怪物か! 大都市からの連絡が途絶えていたのは、そういうことか。貴様らのようなのが集まれば、数日もあれば領都を落とせるな……ん?」
公爵が周囲を見回すと、そこにはいつの間にか、一匹のドーベルマンが静かに佇んでいた。
「ガウガウ(お主、俺の仲間たちがずいぶん世話を焼かせたみたいだな……)」
現れたのは、ドライ(3)。
その引き締まった筋肉と、冷徹な殺人鬼の如き眼差しを見た瞬間、コジマ公爵の背筋に、生まれて初めて「死」の予感が駆け巡った。
「ほう、コボルトとは言え、良い面構えだ。相手にとって不足無し!!」
公爵はついに、顔に満面の笑みを浮かべ、全霊で雷の大剣を構え直す。
次の瞬間、ドライが空間を切り裂くような速度で懐に飛び込み、ゴブリンジェネラルの魔剣が踊る。
キン! カキンッ! キンッ!!
閃光のような剣撃の応酬。両者の動きは速すぎて、周囲の兵士にはただ「黒い影」と「雷の筋」が交錯しているようにしか見えない。
「ちょい待てよ、お前ら! 勝手に走りやがって、速すぎて全然見えねえよ!」
息を切らして駆けつけたフェルダーが、エリー、ダリア、ゲイルを引き連れて、あまりの激戦に呆然と立ち尽くした。
「あら、そこにいるのは……まさか、コジマ公爵様?」
「ああ、間違いない。……おいおい、公爵があのドライと互角に打ち合ってるぞ」
フェルダーたちは、英雄同士の極限の死闘を目の当たりにし、思わず息を呑むのであった。




