077 大都市三連撃、完了! 策士カルマンの統治と、公爵領を揺るがす「英雄」の影
大都市を電撃的に三つも制圧したというのに、レンの顔には疲れどころか、これから始まるメインイベントへのワクワク感が滲んでいた。
「カルマン、この都市は任せたぞ。俺が公爵をぶっ飛ばして戻ってくるまで、住民が不安にならないように頼む」
「畏まりました、レン様。……これだけの大兵力と、領民の生活を脅かさない規律あるコボルト軍団がいれば、統治など造作もございません」
カルマンは恭しく一礼する。その目には、レンに対する絶対的な信頼と、自らの知略を存分に振るえる場を与えられたことへの高揚感が見て取れた。
「こりゃ、カルマンの実力は改めて再評価しないとなぁ。交渉と管理に関しては、俺よりもよっぽど適任だ」
レンはそう呟くと、ドラッヘの背に跨り、次の目的地――いよいよ公爵の居城がある中心地へと意識を向けた。
思えば、ただの「スキルなし扱い」されていた少年が、今や公爵領を塗り替える勢いで進撃している。
(ま、勢い余って三都市制圧まで一週間かからなかったけどね)
背後に控えるのは、制圧した都市の元衛兵や冒険者たち、そして街を守るために配備されたコボルトの精鋭たち。さらに、セントバーナードのツヴェルフ、ジャーマンシェパードのドライツェンという頼もしい守護者が各地の要所を固めている。
「……そろそろ、公爵もレン様の正体に気づき始める頃合いかと」
騎竜の上で、ラバンが深刻そうな表情で呟く。
「だろうね。三つの大都市の冒険者ギルドが軒並み沈黙し、衛兵隊がコボルトの下についているなんて報告が入れば、公爵もただじゃ置かないだろう」
「Sランク相当の英雄が、どれほどの戦力を持って出てくるか……」
「英雄、か。俺にはコボルトがいる。英雄には英雄を、数には数を」
レンがそう呟くと、どこからともなく聞き慣れた気配が漂った。
「わん!(マスター、呼んだかワン?)」
光と共に現れたのは、ワイマラナーのコボルト・アハトと、ボルゾイのコボルト・ノインだ。
「お、早いな。おかえり」
「ウォン(次の都市を制圧してくる間に、ちょっと寄り道して強そうな魔物を狩ってきたワン。手土産だワン)」
ノインが足元に、見たこともないほど巨大な魔獣の首をボトりと落とす。
「うわ……。相変わらずだな、お前たちは」
レンは苦笑しつつ、その手土産を確認する。
「さて、公爵領もいよいよ佳境だ。……ナレーションの皆さん、これまでのコボルト無双で慢心してはいけないよ。これからは本格的な『英雄同士の衝突』になるからね」
(え、私たちが慢心しているように見えた!? ちゃんと戦闘描写に気合入れてきたのに……!)
物語の進行をメタ的に憂うナレーションの心の声はさておき、レンの軍勢は、公爵の居城へ向けて再び騎竜の翼を羽ばたかせた。
◇◇
その頃、公爵領の中心、領主の城。
「……何だと? 辺境の若造が、たった一人で三つの大都市を、それも無傷で制圧しただと?」
玉座に座る公爵・コジマは、報告に来た側近を信じられないという目で睨みつけた。
「そんな馬鹿な。あの都市には歴戦の傭兵団も、Bランクの冒険者もいたはずだ。それを、聞いたこともないような『犬の魔物』だけで……?」
「は、はい……。ですが、その犬たちは、どれもがAランク以上の個体かと思えるほど強力で……」
「ふん。魔物を操る特異なスキル持ちか。……まあいい。英雄の力を見せてやる。この俺が直々に手を下せば、犬コロなど一捻りよ」
公爵は不敵に笑う。彼もまた、戦闘スキルを磨き抜いた「英雄」の一人。その力は、これまでの冒険者ギルドの面々とは一線を画していた。
レンはまだ知らない。次なる対戦相手が、これまで戦ってきた「傲慢な冒険者」とは次元の違う、磨き上げられた「戦闘のプロフェッショナル」であることを。
「お、ラバン。なんだか城から凄い殺気を感じるぞ」
「……ええ。これが、英雄の気配というやつでしょうね」
「へぇ。……面白くなってきたじゃないか」
レンの瞳に、好戦的な光が灯る。
コボルト軍団 vs 公爵の精鋭騎士団。
そして、召喚主 vs 戦闘狂の公爵。
いよいよ、この公爵領編における最大の決戦の幕が上がろうとしていた。




