075 大工コボルトのゼクス見参! 超巨大もふもふ職人集団の爆速リフォームと、おねだり大型犬の「僕も行くワン!」
「そう言えば、これから街を警備する巡回のコボルトたちの宿舎が必要だな」
「ウォン!(そうだワン、早く屋根のある寝床を決めてあげないとだワン)」
レンがふと思いついたように口にした言葉に、すかさずボルゾイ風のノインが実用的な同意を返す。
……そう、読者の皆さんお察しの通り、レンの口から出る言葉は決して「独り言」にはならない。彼が何かを呟けば、周囲の優秀なコボルトたちが即座に、全力で返事をしてしまうからだ。
結果として、コボルトの言葉が聞こえない周囲の人間たちからは、「誰もいない空間に向かって一人で熱心に喋りかけている、ちょっとアレな10歳の少年領主様」という、なんとも痛々しい目で見られることになる。
まさに痛し痒し……。
それはそれとして、レンは思考を現実に戻す。
「今の段階でも、巡回コボルトは200匹ぐらいいるからなぁ。それに、開拓村のベースを考えると……多産な彼らのことだ、半年後にはこの街だけでも1,000匹ぐらいに膨れ上がっているはずだし……」
「せ、せ、1,000匹ィィィ!!!?」
レンがさらりと口にした恐るべき「もふもふネズミ講」の未来予測に、新任の領主補佐役であるネイサン隊長が、本日何度目か分からない絶叫をあげて白目を剥いた。
「そうだよ。コボルトは本当に多産で、育つのも驚くほど早いからねぇ。……よし! それなら、あの建築プロフェッショナル集団、ゼクスたちをここに呼ぼうか」
「ガフガフ!(それが一番手っ取り早くて確実だワン!)」
最側近のアハトが我が意を得たりとばかりに吠える。
「――【召喚】!」
レンが手をかざすと、豪華絢爛なホールの中心に、眩い光と共に『ねじり鉢巻き』を頭にビシッと巻いた、見るからに体格の良い偉丈夫(犬)のコボルトたちが一斉に姿を現した。その手には金槌や鉋、鋸といった、使い込まれた一流の大工道具が握られている。
「アフアフ(お呼びですかい、マスターワン)」
「ウワンウワン(どんな頑丈な建物でも作ってみせるワン!)」
現れたのは、超大型犬種アイリッシュウルフハウンド風のゼクス(6)と、同じく巨躯を誇るグレートデン風のズィベン(7)。
さらにその背後には、ニューファンドランド、ナポリタン・マスティフ、セントバーナード、グレート・ピレニーズ、レオンベルガー、バーニーズマウンテンドッグ、ジャーマンシェパードドッグといった、一匹一匹が熊並みの体格を持つ、超大型犬コボルトの最強建築職人軍団がズラリと勢揃いしていた。
その威圧感たるや、ホールの床がみしみしと音を立てるほどである。
「あー、ゼクス、ズィベン。俺が次の大都市を制圧して戻ってくるまでの間に、この街の『旧・騎士団の宿舎』を跡形もなくブチ壊して、新しくコボルト専用の機能的な宿舎を建設してくれ。とりあえず、1,000匹程度が余裕で快適に暮らせる規模で頼むな」
「アフアフ(へへっ、任せてワン!)」
「ウワンウワン(そんなの、俺たちの技術ならすぐ出来るワン!)」
景気の良い返事をするや否や、即座に大工道具を担いでホールを出て行こうとする職人コボルトたち。
「おい、ちょっと待て。お前たち、そもそも騎士団の宿舎がどこにあるか場所が分からんだろ?」
「アフアフアフアフ(そんなの、その辺で警備してる巡回班のコボルトに聞くから大丈夫だワン!)」
「ウワンウワンウワン(心配ないワン、すぐに現場を見つけるワン!)」
「わんわん(というか、元々そこにいた人間の騎士どもの『匂い』で大体の場所は分かるワン!)」
野生の勘と驚異的なネットワークを誇る大工たち。
「まぁまぁ、無駄な手間を省くためだ。ブル! お前が彼らを現地まで案内してやってくれ」
「わっふぅ!(了解だワン! この頼れるブル総隊長にお任せワン!)」
イングリッシュブルドッグのブルが嬉しそうに先頭へ躍り出る。
「わんわん(大工の兄貴たち、こっちだワン!)」
「わんわん(お、おい待てワン、あの案内役の小さいやつ……ブルって呼ばれてたワン?)」
「わんわん(ブルといえば……もしやワン)」
「わんわん(まさか、もうマスターから『名前』を貰ったのかワン!?)」
「わふぅ(ふふん、その通り! 分かっちゃったワン?)」
ブルは短い鼻をふんぬと鳴らし、これ以上ないほど得意げに胸を張る。
「わんわん(うおおお! 本当に名前を貰ったのか! 羨ましすぎるワン!)」
「ああああ、だから愛称だって言ったろう! 正式な名付けはまだだってば!」
すかさずレンが突っ込むが、職人たちの興奮は収まらない。
「わんわん(いいや、マスターに呼ばれる『愛称』という名の、実質的な名前ワン!)」
「わんわん(俺たちも早く名前が欲しいワン……! 羨ましいワン!)」
そんなブルと大工コボルトたちの微笑ましい(?)小競り合いとは別の場所で、ゼクスとズィベンは、新領主代行となった土佐犬のエル、そしてアハト、ノインと鼻を突き合わせて情報交換を行っていた。
「ガフガフ(おいゼクス、実はコイツも、さっき直々に名前を貰ったんだワン)」
「わふぅ、わわんわん(フハハ! 俺の名前は『エル』だワン! 領主代行だワン!)」
エルはこれでもかと太い尻尾を大きく振り回し、自慢気な顔で二匹を見下ろした。
「アフ! アフアフ(おおお! やったなエル、おめでとうワン!)」
「ウワン!(すげえワン! 領主様バンザイだワン!)」
「あああああ! もう、わんわん煩い! 自慢話は後にして、サッサと現場に行けえええええ!!」
ホール中に響き渡る大音量の犬語の嵐に、レンがとうとう頭を抱えて怒鳴り散らした。
すると、大工集団の中から一匹の巨大なモフモフ――セントバーナード風のコボルトが、突然涙目を浮かべてレンの元へとドスドスと駆け寄ってきた。そして、
どむっ!!
と、その巨体に見合わぬ甘えた仕草で、レンに全力で抱きついてきたのだ。
「わわーん! わんわんわんわん!!(マスター! 次の都市の戦いには、大工仕事じゃなくて俺も戦闘員として連れて行って欲しいワン! 主のお役に立ちたいワン!)」
「お、重い……っ。よしよし、分かったから。お前は俺が最初に召喚した、特別な『35匹の中の一匹』だもんなぁ。いつもありがとな」
レンは苦笑しつつも、セントバーナード風のコボルトの、優しくて大きなたぷたぷの頭を優しく撫でてやった。
「わんわわんわん!(だったら、俺も次の都市に行くワン! 爪を研いで待ってたんだワン!)」
負けじと、隣にいたジャーマンシェパードドッグ風のコボルトも、軍用犬さながらの極めて鋭く、かつ決意に満ちた熱い瞳でレンをじっと見つめて訴えかけてくる。
「はぁ……。もう、熱意に負けたよ、仕方ないね。その代わり、残るメンバーで騎士団の宿舎の建て替えは、手抜きなしできっちり完璧に仕上げるんだぞ?」
「わーん!(やったーー! マスター大好きだワン!)」
「わわんわんわん!(おうよ! 最高の宿舎を爆速で仕上げてやるぜワン!)」
レンから「連れて行く」という言質と、頭撫でのご褒美を貰った超大型犬たちは、歓喜の遠吠えをあげながら、ブルの先導でいよいよ宿舎の破壊へと出撃していった。
その背後では、マディソン団長やネイサン隊長が「あの巨大な犬たちが、これから騎士団の建物を素手でブチ壊しに行くのか……」と、遠い目をして現実逃避を始めていたのだった。




