074 衝撃のモフモフ首脳人事! 爆誕、土佐犬領主代行「エル」と、ナレーションをも困惑させる秘書官争奪戦』
冒険者ギルドの強固な建屋を戦略級の爆炎で灰にし、傲慢なギルマスを瞬殺。逆らう主犯格の首をも一切の躊躇なく跳ね飛ばして、レンは冒険者ギルドを完全に制圧した。
これで、この広大な大都市における「表立った抵抗勢力」は文字通り全滅したと言っても良いだろう。
「よし、一通り片付いたし、領主の館に戻るぞ」
「ウォン(了解だワン)」
「バフバフ(ちょっと呆気なかったワンね)」
レンは愛竜ドラッヘの上から最側近のボルゾイ風ノインとワイマラナー風アハトにそう告げると、ギルド前で獅子奮迅の活躍を見せた土佐犬風のコボルトと、イングリッシュブルドッグ風のコボルトへ視線を向けた。
「お前たちも、功労者だ。一緒に館へ来い」
「わふ!?(マスターと一緒に行って良いんだワン!?)」
「わ、わふふ……?(お、俺も行っていいのかワン……?)」
「それから、そこにいる生き残りのあんた達も、とりあえず全員ついて来な。……あ、街の巡回班以外のコボルト騎士たちは、一旦全員【送還】だ」
レンがパチンと指を鳴らすと、付き従っていた数百匹の重装コボルト騎士団が光の粒子となって消滅した。
レンは、元騎士団長マディソン、副団長オリビア、都市最大の傭兵団長ラバン、有能な交渉人カルマン、衛兵隊長ネイサンという旧幹部陣を筆頭に、降伏した冒険者たちや、未だにガタガタと泣いて許しを請う男の冒険者たちをゾロゾロと引き連れ、完全に静まり返った領主の館へと帰還した。
まさかの「犬」政権誕生
豪華絢爛な大ホール。レンは集まった主だった者たちを正面から見据え、玉座からすっと一本の指を突き出した。
「まず、この都市の統治についてだ。――しばらくの間、お前にここを任せる!」
レンの指がピシッと指し示した先にいたのは……なんと、強面で筋骨隆々とした、あの土佐犬風のコボルトだった。
「わわん!?(お、俺ぇ!?)」
まさかの大抜擢に、土佐犬コボルトが信じられないといった様子で自分の胸に前足を当てる。
「そう、お前だ! 流石にこれから『領主代行』として書類や命令を出すのに、名前が無いのは不便だしおかしいからね。よし、お前にちゃんとした名前を授けよう。お前の名は……」
「わわわん……(俺の名前……ドキドキするワン……)」
レンは腕を組み、脳内でこれまでのナンバリングを数え始めた。
(最古参の『アインス(1)』から数えて、前回の新顔が『ノイン(9)』と『ツェーン(10)』……。となると、この子は11匹目だからドイツ語の『エルフ(11)』だけど……。いや、この先の本物のエルフ族が出てきた時に、名前がエルフだとややこしいことこの上ないな。う〜ん、どうしよう。……そうだ、縮めて『エル』にしよう!)
「よし、お前の名前は『エル』だ! エル、これでいいかな?」
「わふううううーーん!!(やったあああ! カッコいい名前を貰えたワンッ!)」
エルは己の名を何度も噛み締めるように咆哮し、ちぎれんばかりに太い尻尾をブンブンと振って大喜びした。
「ガフ……(ちっ、新入りのくせに生意気な……)」
「ウォンウォン(うんうん、良かったワンね、エル)」
背後で露骨に舌打ちをする先輩のアハトと、優しく温かい目で頷くノイン。
「こ、コボルトが……我々の街の領主代理だと……!?」
一方で、人間の有力者やギルドの生き残りたちは、あまりにも前代未聞すぎるモフモフ人事に、顔を青くして不安の声を漏らした。だが、レンの「トカゲの尻尾切り人事」はまだ終わらない。
「それからブルドッグ、お前にはまだ正式な名付けはしないけれど、これからは愛称として『ブル』で良いかい? とりあえず、今日からエルの実務の補助に就いてくれ」
「わおん!(ブル! 最高の愛称だワン、任せてワン!)」
イングリッシュブルドッグ風のコボルトは、短い尻尾をプリプリと振って嬉しそうに応じた。
「……で、いくらエルとブルが優秀でも、言葉の通じないコボルトがいきなり人間に直接細かい書類指示を出すのは物理的に無理だからね。衛兵隊隊長のネイサンさん、貴方がエルの実務のフォロー(補佐役)を頼むよ」
「……わ、私が、ですか……!?」
突然白羽の矢を立てられたネイサンが、驚きと戸惑いの表情で、隣でニコニコと凶悪な笑顔(土佐犬スマイル)を浮かべるエルをチラリと見た。
「あはは、そんなに嫌そうな顔をしないでよ。自分の利益や保身ばかり考えて、民を顧みずに余計な事ばっかりする前任のボンクラ領主より、エルのほうがよっぽどマシだと思うよ? エルは人間みたいな汚い金は欲しないし、何より男気(侠気)があって、この都市を力強く守れる信頼できる存在だ。まぁ、俺が開拓村からジュリアさんやイアンさんのような優秀な文官を連れてくるまでの中継ぎだし、今は非常事態の戦争中だからね」
レンに褒められ、エルは誇らしげに胸を張り、勢い良く尻尾を振って何度も頷いている。
「そ、そうですか……。領主様がそう仰るなら……」
ネイサンは未だに胃が痛そうな顔を崩せない。
「そしてマディソンさん。貴方にはこの大都市の騎士団長をそのまま任せる。激減してしまった騎士の補充として、降伏した衛兵や冒険者、傭兵たちを容赦なく騎士団へ編入してくれ。都市の防衛のため、彼らをプロの兵士としてきっちり地獄の訓練で鍛え上げてほしい」
「えっ? ということは、俺も騎士団に入るのか?」
大都市最大の傭兵団長だったラバンが、慌てて自分を指差してレンに尋ねた。
「いや、ラバンとカルマンの二人は居残りじゃないよ。俺と一緒に『次の都市』へ行くんだ」
「……は? 次の都市、ですか?」
「そう。コジマ公爵領にある大都市は、ここを含めて全部で3箇所。残りの2つの大都市も、今週中にはすべて制圧する」
「「ええええええーーー!? マジですか!?」」
ラバンとネイサンが、本日一番の驚愕の声を上げて絶叫した。一週間で大都市3つを完全陥落させるなど、常識の枠に収まる作戦ではない。
「本気だよ。時間は金なり、移動は最速が基本だ。ラバン、今すぐこの領主館の厩舎から『騎竜』を2匹用意しておけ」
「き、騎竜をですか!?」
「そう。一国の大都市を治める領主なんだ、騎竜の1匹や2匹くらい裏に囲っているだろう? それを使って次の街へ飛ぶ」
「は、はぁ……すぐに向かわせます」
レンのあまりの電撃的な決断力に、ラバンは完全に気圧されて頷くしかなかった。
「あの……では、我々一般の衛兵たちの編成はどうするのですか?」
ネイサンが恐る恐る尋ねる。
「衛兵はこのまま、街を巡回させている小型のコボルト騎士たちに任せる。彼らをまとめる『衛兵隊の臨時総隊長』は、さっき言った通りブルだ」
「わわん!(ブル総隊長にすべて任せてワン!)」
ブルが短い手足をピシッと伸ばして敬礼のポーズをとる。
「――あ〜、それなら私は、エルさんの『専属秘書』としてここに残るわね」
その時、それまで静観していた副団長のオリビアが、何食わぬ顔で一歩前に出てとんでもないことを言い出した。
(……あ、コイツ。完全にエルの周囲に集まる、巡回用の小型モフモフたちを独占する気だな。エル自身は短毛種でそれほどモフモフしてないけれど、総大将の周りには常に可愛いコボルトたちが群がるからなぁ)
レンが、オリビアの邪念に満ちた欲望を冷ややかな目で察知した、その時。
「あ、ずるい! 私もエルさんの秘書に立候補します! 」
なんと、生き残った女性冒険者の一人が、「私の名前はプリシラよ♪」元気よく手を挙げて便乗してきた。
……って、ちょっと待て。ストーリーのナレーション(私)の地の文にリアルタイムで会話を被せてカットインしてくる脇役なんて、私、この長いナレーション人生で初めて見たんだけど。
ていうか、自分のことをサラッと「ナレーション」って自称して物語の裏側にメタ発言をぶっ込むナレーション(私)自身も、異世界小説界隈で初めての存在かもしれない。
そんな、メタフィクションの壁すらもモフモフの力で破壊されつつあるカオスな大ホールで、10歳の少年領主レンによる、公爵領完全崩壊へのカウントダウンは着実に進んでいくのだった。




