073 戦略級炎弾の爆炎! 傲慢なるギルマスの末路と、容赦なき「因果応報」の首切り
「燃やせ!」
レンの冷酷な大号令。包囲陣形を敷いていたコボルト魔道部隊が一斉に、一言一句狂わぬ完璧な同期で詠唱を開始した。
「「「「わんわん!!」」」」
((((【炎弾】!!))))
大気中へ瞬時に浮かび上がる、信じられない数の魔法陣。それを見たギルドの窓辺の男たちが、引きつった顔で絶叫した。
「は、ははは! 炎弾如きでこの頑丈なギルドが燃えるか、が、は……?」
「馬鹿な! 幾つの魔法が重なってやがるんだ!?」
「止めろ! 待て!」
「そんな規模の魔法を街中で放たれたら、跡形もなく――」
宙を埋め尽くしたのは、十や二十ではない。実に「数百」の極大魔法陣が、重なり合うようにしてギルドの建物を包囲していた。
「あはは! 面白いわ、私も混ざっちゃお! あそこのセクハラ野郎に私の炎弾も叩きつけてやるわ!」
レン側に避難した女性冒険者の一人も、便乗してギルド内の男たちへ向けて嬉々として呪文を唱え始める始末だった。
「――ちょっと待ちなさあああああーい!!」
破滅の光を前に、冒険者ギルドの2階の窓を突き破り、体格の良い初老の男が大声を張り上げながら必死の形相で飛び降りてきた。
ドッガァァァァーーン!!!
しかし、レンの軍勢の手が止まることはない。数百の炎弾が空中で完全に融合し、最早地形を変えるレベルの「戦略級大魔法」へと昇華した一撃が、容赦なく冒険者ギルドの建屋へと直撃した。
凄まじい爆風と衝撃波が広場を駆け抜け、強固な石造りの建物が木端微塵に弾け飛び、猛烈な劫火が天を突く。
ギルド内部に立て籠もっていた残りの冒険者たちも、本当にタッチの差で、衣服を焦がしながら命からがら外へと飛び出してきた。
「や、止めろと言ったのが聞こえなかったのかあああ!」
地面に転がり、燃え上がる自慢の拠点を振り返った体格の良い初老の男――この街のギルドマスターが、絶望の叫び声をあげて吠える。
「あ、ギルマスじゃん。やっぱり中に隠れて居たのね」
レンの後ろで、女性冒険者が冷ややかに呟いた。
「何故、俺がそこまでしてあんたの言う事を聞く必要がある?」
レンは黒炎を背に、ドラッヘの上から冷徹にギルマスを見下ろした。
「中にまだ人がいたんだぞ! 逃げ遅れた職員や登録者が死んだんだ! 貴様……! この大罪をどう償うつもりだ!」
「死ぬだろうね。最初からそのつもりで全力の魔法を撃たせたからな」
レンは微塵も表情を崩さない。
「何度も言わせないでほしいな。遊びじゃないんだよ、これは戦争だ。降伏勧告を無視し、無駄な武力を持って籠城する敵を、俺は生かしておくつもりはない」
「冒険者ギルドは今回の紛争に参戦していない! 言わば不可侵の中立組織だぞ! 貴様、全世界の冒険者ギルドを敵に回した! それでも良いと言うのか!」
「寝言は寝てる時に言え」
レンは哀れみの目すら向けずに一蹴した。
「先に仕掛けてきたのは冒険者ギルドの側だ。何もしていない俺の部下を攻撃した時点で、お前たちの宣戦布告は成立している。その結果として、既に戦争は始まっているんだよ」
「な、何を証拠にそんな因縁を――!」
「そこのお姉さん、さっきそう言っていたよね? ギルドの冒険者が、大人しくしていた俺のコボルトを一方的に攻撃したって」
レンが話を振ると、女性冒険者が勢いよく前に出た。
「コボルト! この黒いフルプレートを着た、最高に格好良くて可愛い子達は『コボルト』なのね! ……そうですよ、ギルマス! こんなに可愛くてお利口な子達なのに、中の男たちが『高く売れそうだから無理矢理ぶちのめして捕まえよう』って攻撃を仕掛けて戦闘になったんです!」
「ほらね。身内の身勝手な犯罪行為の証人がいる。まぁ、事の先後はどちらでもいい。そもそも俺が有力者を呼び集めた一時間の猶予の間に、お前は来なかった。その時点で、俺を敵対者と見なしたということだ」
「うぬぬ……! 貴様の領地には、金輪際冒険者ギルドの開設を認めんぞ! 永久にブラックリストに載せてやる!」
「いらないな。そんな犯罪者の温床」
「魔物退治や、流通人々の護衛はどうするつもりだ! ギルドが無くては成り立たんぞ!」
「コボルトたちが全部完璧にこなすから、ギルドも冒険者も一切いらない」
「くっ、貴様は冒険者ギルドという巨大組織の本質を何も――!」
「ペチャクチャと、最初から最後まで煩い男だ。――殺れ」
レンが呆れたように吐き捨てると同時に、周囲のコボルト強弓兵から一斉に矢が放たれた。
「ふぬ! うらあああああ!」
流失の矢の雨に対し、ギルマスは流石の身のこなしで大剣を振り回し、迫り来る矢を次々と叩き落としてみせた。
「流石はギルマスだ!」
「元Bランク冒険者の実力は伊達じゃねえ!」
「良いぞ! そのままクソガキの首を撥ねちまえ!」
「やっちまええええ!」
生き残った男の冒険者たちから、一縷の希望を見出したような歓声が上がる。
「どうだ、見た――」
ギルマスは全ての矢を叩き落とし、勝ち誇った顔でレンを睨みつけて何かを言いかけようとした。
――しかし、言葉が最後まで紡がれることはなかった。
ギルマスの脇を、風のような速さで擦り抜けた影があった。最側近の一角、ボルゾイ風コボルトのノインである。
ノインがギルマスの背後に着地した瞬間、ギルマスの頭部がポロリと胴体から離れ、床へと転がった。極薄の刃で、抵抗する間もなく一瞬で首を断たれたのだ。
「ウォン(隙があり過ぎワン。我が主を前にして、油断など万死に値する)」
ノインはマチェットに付着した血をシャッと一振りで払い、静かに鞘に収めた。
「ギ、ギルマスが一瞬で殺られた……!?」
「化け物だ、もう駄目だああああ!」
「すいません! 降参します! 降参します!」
「助けて下さい! 命だけはあああ!」
絶対的支柱を失った男たちは完全に発狂し、持っていた武器を放り投げて床に額を擦り付け、涙を流して命乞いを始めた。
「まぁ、自分の過ちを認めて従う奴らは許してやるが……。――ところで、最初に何もしていない俺のコボルトを襲った『主犯の奴ら』はどいつだ?」
レンが冷たく問いかけると、前線で激戦を繰り広げていた土佐犬風とイングリッシュブルドッグ風のコボルトが、鋭い目で土下座する集団の中の二人の男を指差した。
「わんわん!(コイツらだワン!)」
「わんわん!(我が同胞を傷つけた罪、絶対に許さんワン!)」
二匹の巨躯のコボルト騎士が素早く踏み込み、言い訳をする暇すら与えず、その二人の冒険者の首を容赦なく叩き落とした。ゴロゴロと転がる首。
「ひぃぃぃぃぃっ!?」
「お、俺はやってない、本当にやってないんだ……っ!」
「どうか、どうか命だけは……っ!」
目の前で繰り広げられた、迅速かつ絶対的な「因果応報」の処刑。血飛沫を浴びて震え上がる冒険者たちを見下ろし、レンの大都市完全制圧は、ここに完遂されようとしていた。




