070 非情なる詰め所急襲! 恐怖とモフモフに魅せられる騎士たちと、容赦なき傭兵団焼き払い
「はい。それでは速やかに街中へ散って、指示を遂行してください」
レンが領主の館にいた使用人たちに冷徹に告げると、彼らは弾かれたように一斉に大ホールから走り出そうとした。
レンはその背中を見送りながら、周囲のコボルト騎士たちを見回して鋭く命じた。
「使用人たちに同行し、街のすべての正門・通用門を完全制圧しろ! そして、この期に及んで街から逃げようとする不届き者、抵抗する者、俺の指示に従わない者は、その場で一人残らず処分しろ」
「わんわん!(御意だワン!)」
コボルト騎士たちは一糸乱れぬ動きで咆哮を上げると、怯える使用人たちの後を追うようにしてホールを飛び出していった。
「――【召喚】!!」
レンはさらにスキルを発動し、数百匹の重装コボルト騎士たちを大都市の内部へ直接増員。そのままの勢いで、街の最大武力である「大都市騎士団の詰め所」へと容赦なく進軍した。
詰め所の敷地へ乱入すると、そこには異常事態を察知して武器を構え、防衛陣形を敷いて待ち構えていた人間の騎士たちがずらりと並んでいた。
「……ふん。騎士団ともなれば、問答無用で叩き潰すまでだね」
レンが冷酷に手を振り下ろすと、前衛のコボルト魔法部隊が一斉に詠唱を開始。何十発もの炎弾が合体した極大の集団魔法が、詰め所の建屋へと叩きつけられた。爆炎が吹き荒れ、瞬く間に燃え上がる建物と騎士たち。
「ああああああーーーっ!」
「熱い! 水を、水をくれぇ!」
「助けてくれえええええ!」
「クソッ、いきなり問答無用で攻撃してくるなんて――」
阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる中、さらに上空からはコボルト強弓兵による矢の豪雨が降り注ぎ、前線ではマチェットを構えた屈強なコボルト騎士たちが、逃げ惑う騎士たちを次々と無慈悲に一刀両断していく。
「ひぃっ、化け物め……!」
「こ、降参する! 降参するから頼む、武器を捨てるから助けてくれえええ!」
凄まじい電撃戦を前に、騎士団は文字通り一瞬で壊滅した。レンはドラッヘの上から冷たく告げた。
「俺に従う意思がある者は、今すぐその場に武器を置いて歩いて来い」
生き残った騎士たちは完全に戦意を喪失し、ガタガタと震えながら剣や槍を手放した。レンは降伏した彼らを捕虜として引き連れ、再び領主の館へと引き返した。
一時間後。
レンは、恐怖に縛られた使用人たちの手によって、半ば強制的に領主の館のホールへと連行されてきた街の有力者(商会やギルドの長)たちと対峙した。
10歳の少年領主は、玉座の間で彼らを徹底的に脅し抜き、反抗する愚か者はその場で即座に「処分」。生き残った者たちには、問答無用で自身の配下に加わる誓約を強要したのだった。
「ふむ。今回、俺の招集に集まらなかった有力者は……『冒険者ギルド』と『傭兵団』か。大都市の中に拠点を持つ傭兵団は、プライドが高くて面倒な奴らも多いからなぁ」
レンが呟くと、横に控えていた案内役の使用人が、青い顔をして無言で勢い良く何度も頷いた。
「分かった、その傭兵団のアジトへ案内してくれ。……それから、せっかくだからさっき降伏した騎士たちの中から、何名か道案内の同行を願おうかな」
「――ならば、この俺が行こう」
レンの言葉に応え、捕虜となっていた騎士たちの中から、どっしりとした体躯の老年の男が静かに名乗り出た。
「ほう、騎士団長か? 名は何と言う?」
「先の戦闘までは、ここの騎士団長をしておりました。名はマディソンです」
「ふふ、だったら私も行くわ。副団長をしていた、名前はオリビアよ」
マディソンに続いて前に出てきたのは、背筋が綺麗に伸びた凛々しい女性騎士だった。
彼女はレンの横に控えるアハトとノインの、あまりにも美しく手入れされた毛並みや高価な漆黒のプレートアーマーを、不自然なほどチラチラと盗み見ており、どうにも気になって仕方がない様子だった。
「了解。マディソンさん、オリビアさん、宜しく。――アハト、ノイン。行くぞ」
レンは怯える使用人に先導させ、ワイマラナー風のアハト、ボルゾイ風のノイン、そして案内役のマディソンとオリビアを引き連れて領主の屋敷を出た。
屋敷の防衛に数十匹のコボルトを残し、レンの後ろには数百匹の重装コボルト騎士団が静かに従う。
住民たちがレンの命令を忠実に守って引きこもっているため、静まり返って人っ子一人いない不気味な街路を、レンとモフモフの大軍勢は無言で威風堂々と歩いて行った。
「……ここが、この街で一番大きいとされる傭兵団の拠点ですか?」
レンは、目の前にそびえ立つ、頑丈な石造りの砦のような建物を指差した。
「は、はい……っ。間違いありません、そうです!」
案内役の使用人は、背後のコボルトたちの威圧感に縮こまりながら、恐る恐る答えた。
レンは一歩前に出ると、腹の底からよく通る大声を張り上げた。
「え〜、中にいる傭兵団の方々! 私は辺境街の領主、レンです! 只今、この街を完全に制圧中につき、大人しく俺の配下になり、従うことを了承して出てくるならば、命までは取りません! ――もしこのまま出て来ないならば、俺の指示に従わない反逆者と判断して、容赦なく『処分』します!」
レンの警告が大都市の路地に響き渡る。しかし、建物の中からは一切の返答はなく、静まり返ったままだ。だが、レンの鋭い目は見逃さなかった。2階の窓のカーテンがピクリと動き、中の傭兵たちが武器を握り締めながら、外のレンの様子を必死に窺っているのは見て取れた。
「ふむ……。居留守を使ってやり過ごせると思っているのか。――アハト、フィア。まとめて【燃やせ】」
「ガフ!(了解だワン!)」
「ワォン!(灰にするワン!)」
レンの非情な一言に、周囲を取り囲んでいたコボルト魔法部隊が即座に応じた。彼らが一斉に放った極大の炎弾【ファイアボール】の集団魔法が、傭兵団の拠点を正面から直撃する。
ドガァァァァーン!!!
凄まじい爆発音と共に、頑丈なはずの建物が一瞬にして激しい炎に包まれた。
「う、うわあああ! 火事だ! 脱出しろ!」
「ふざけんな、いきなり何をしやがるんだテメェらぁぁ!」
燃え盛る拠点から、煙に巻かれた傭兵たちが武器を振り回しながら次々と外へと飛び出してくる。
しかし、レンの命令を無視して武器を持って襲いかかってくるような命知らずの傭兵たちは、物陰に潜んでいたコボルト弓兵たちの、精密機械のような矢の餌食になって次々と地面に転がっていった。
あっという間に血の海と化していく仲間の姿を見て、残された傭兵たちは完全に腰を抜かし、武器を投げ捨てて両手を高く挙げながら建物の外へ這い出てきた。
「じ、助けてくれえええええ!」
「こ、降参します! 降参しますからぁ!」
「頼む、命だけは、お願いだああああ!」
「俺たちは何もしてないのに……っ! いきなりこんな酷い目に遭うなんて、一体俺たちが何をしたって言うんだよ!」
男たちが涙と煤にまみれて叫ぶ中、レンがすっと片手を挙げると、容赦なく降り注いでいた矢の雨がピタリと止んだ。
「――『何もしてない』? フッ、戦争をしているのですよ。何をそんな寝言を言っているのですか?」
レンはドラッヘの上から、冷酷極まりない冷たい瞳で彼らを見下ろした。
「貴方たちだって、普段は金の味を占めて、逆の立場で何度も敵国の治める街や村を襲撃し、略奪してきたでしょう? 俺は事前に使用人を通じて『俺の指示に従わない組織は容赦なく潰す』と明確に伝えたはずですが?」
「そ、そんな……まさか本当に、あの警告からたった1時間で、躊躇なくこんな大火力を叩き込んでくるなんて思わなかったんだよ……っ!」
傭兵のひとりが、目の前で燃え落ちる拠点を見上げながら絶望の声を漏らす。
「遊びではないのですよ。これは『戦争』です。自分の行動の選択を誤れば、その瞬間に命に関わるのは当然でしょう」
レンは冷たく突き放したが、すぐにいつもの淡々としたトーンに戻した。
「まぁ、良いでしょう。今この場で、魂から俺の配下になる誓いを立てるなら、犯した愚行はすべて許してあげます。……さぁ、立って。これからまだ、俺の命令を無視した『他の生意気な組織』もまとめて潰しに行くので、貴方たちも最前線で一緒に来なさい」
「わ、分かった……従う、従うから……っ!」
「ああ、もう何でもする、命だけは……っ!」
「ううう、熱い、痛いよぉ……」
恐怖によって完全にへし折られた傭兵たちは、コボルト騎士たちの冷たい銃口……ならぬ、マチェットの刃に怯えながら、レンの歩む無敵のモフモフ軍団の後ろへと、命からがら連行されていくのだった。




