068 大都市、阿鼻叫喚の同時陥落! 慈悲なき冷徹王子と、恐怖を置き去りにするもふもふパラダイス
各個撃破のゲリラ作戦は見事に功を奏していた。
コジマ公爵領内にある3箇所の大都市。そこは本来、近隣の村や街から集められた大人数の徴兵たちを受け入れ、軍隊の形を整えてから領都へと送り出すための「最重要中継地点」である。
しかし、近隣からの徴兵組は領都へ向かう途中でことごとくコボルト騎士たちに間引かれ、中継地点であるはずの大都市には待てど暮らせど兵が全く集まらない。
流石の大都市といえど、何もない平時に無駄な常備兵を大量に養う余裕などないため、各都市の防衛戦力は多くても数百人程度にまで落ち込んでいた。
そこを狙って動いたのが、総大将レンである。
先の辺境の街では、コボルトを連れて堂々と正門に並んだせいで身分が即座にバレそうになった。その反省を活かし、今回は大都市の手前までは護衛のコボルトを伴って移動したものの、街に近づいた時点でコボルトたちを一度全て【送還】。
辺境の街で新たに取得した「冒険者証」を水戸黄門の印籠が如く提示し、美しい騎竜ドラッヘに跨ったレンは、ただの『凄腕の若き竜騎士冒険者』を装って単独で易々と大都市の中へと潜入した。
――そして、潜入さえしてしまえば、あとはレンの独壇場である。
大都市の中央にそびえ立つ領主館の正面広場に到着するや否や、レンはスキルを解放し、一気に数百匹のフルプレートアーマー姿のコボルト騎士たちを【召喚】。
常識外れの空間転送から現れたもふもふの大軍勢によって、領主館は迎撃の暇すら与えられず、一瞬にして完全制圧されたのだった。
◇◇
バガァァアン!! と音を立てて扉が蹴破られる。
「俺は辺境街の領主、レンです。この館はたった今、俺の軍勢が完全に制圧しました。大人しく俺の指揮下に入る(降伏する)なら命までは取りませんが……どうしますか?」
レンはボルゾイ風のノイン、ワイマラナー風のアハトをはじめとする屈強なコボルトたちと共に領主の執務室へと雪崩込み、机にへたり込む領主に冷たい剣先を突き付けて淡々と尋ねた。
「き、貴様ぁぁ! こんな狂った真似をして、ただで済むと思っているのか! 王家が、公爵様が黙っては――」
「おやおや、お言葉ですが、先にこちらの領地を大軍で攻め滅ぼそうと言い出したのは貴方たちの主(王家と公爵)のほうだ。だったら、逆に自分たちが攻められる覚悟くらい、初めから持っているよね? ……まぁ、あんた自身は直接攻めようとしていなかったかも知れないけれど、恨むなら無謀な戦争を仕掛けた公爵を恨んで下さいね」
「くっ……! 俺は公爵様を裏切る気はないッ!」
領主が最後のプライドを振り絞って叫ぶ。
「――ノイン、殺れ」
「ウォン!(了解だワン)」
レンの短い声音に合わせ、ボルゾイ風のノインが音もなく素早く踏み込んだ。美しい白い毛並みが閃いたかと思った次の瞬間には、鋭いマチェットの一閃が領主の首を綺麗に跳ね飛ばしていた。床に転がる首を冷徹に見つめ、レンはすぐ横でガタガタと歯を鳴らして怯える執事へと顔を向けた。
「さて……貴方はどうかな? 賢い選択をしてくれると嬉しいけれど」
「わ、私も……公爵様を裏切――」
「アハト!」
「ガフ!(了解だワン)」
最後まで言わせる価値なしと判断したレンの合図で、執事の真横に控えていたワイマラナー風のアハトが電光石火の速度でマチェットを横一文字に振るった。無駄な忠誠心を抱いた執事の体が、どさりと床に倒れ伏す。
「……で、貴方はどうします?」
レンは、部屋の隅で腰を抜かし、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしている一人の使用人の少年へ視線を移した。
「ひ、ひぃぃぃ……っ!!」
少年は、首が千切れんばかりに激しく左右に振り、絶対に抵抗しないという意思を必死に涙ながらにアピールする。
「結構。抵抗する気が無いなら、今すぐこの屋敷にいる全ての人を、1階の大ホールに集めて下さい」
恐怖のあまり、言われた瞬間に部屋を飛び出そうとした使用人を、レンは冷たい声で呼び止めた。
「あ、ちょっと待って。伝える際、武器の携帯は一切認めないと付け加えて。指定の時間に遅れて来る者は、俺に従う気が無いか、どこかに逃げ隠れしていると判断してその場で処分します。それは、本当に逃げようとした人に対しても同じです。……その事を、屋敷の奴ら全員に正確に伝えて下さい」
「は、はいぃっ!!」
首を激しく上下に振り、脱兎のごとく執務室から走り去っていく使用人。
それを見届けた後、レンはゆっくりと歩調で大ホールへと向かった。その背後には、血の匂いを纏ったノインとアハトが影のように従う。
「コボルトたちに伝達。――館内を捜索し、抵抗する者、逃げる者、武器を持つ者は全員その場で討ち取れ」
レンが念話で指示を飛ばすと、館のあちこちから即座に、侵略の終わりを告げる音が響き始めた。
「ぎゃあああああーーーっ!?」
「助けてぇ……! なんだこの化け物は!?」
「止めてく、ぐはっ……!」
遠くの廊下から響く、兵士たちの無残な断末魔と肉が裂ける不穏な悲鳴。レンは歩みを止めず、一瞬だけ痛ましそうに目を瞑ったが、すぐにその感情を消し去って冷酷に歩き続けた。
……と、その時。別のエリアからは、何やら毛色の違う黄色い黄色い悲鳴が響いてくる。
「きゃあああ! なにこれ、めっちゃ可愛い!!」
「フルプレート着てるワンちゃんとか最高! モフモフさせてー!」
「クリーン魔法かけてくれた! いい匂い!」
「……」
どうやら、武器を持たずに大人しく降伏した非戦闘員のメイドたちが、警備のコボルト騎士たちに全力で群がっているらしい。レンは頭痛を覚えるのを堪えるように、一瞬だけ天を仰いだが、それも綺麗に無視してホールへの歩みを進めた。
◇◇
大ホールに着いたレンは、玉座に代わる壇上の中央に立ち、静かに目を閉じて待った。
しばらくすると、ホールの大きな扉から、屋敷の使用人たちはガタガタと恐る恐る、そして一部のメイドたちはなぜかコボルトたちの毛並みの良さにワクワクした表情を浮かべながら、続々と集まってきた。
ホールの壁際には、すでに数十匹の精鋭コボルト騎士たちがマチェットや強弓、槍を構えて微動だにせず待機しており、レンの左右には最側近のノインとアハトが鋭く睨みを利かせている。
レンは懐中時計を確認し、パチリと閉じた。
「はい。待つのはここまで(終わりに)にします」
レンは目を開けた。その瞳には、10歳児のものとは思えない、一国を滅ぼす支配者としての絶対的な決意の表情が宿っていた。淡々とした、しかしホール全体に恐ろしく通る声で、集まった人々へ告げる。
「現時点で、このホールに入らなかった館の人間は、俺に首を縦に振る(従う)意志が無いと見なして……今この瞬間をもって、全員処分します」
レンが冷酷にそう言い放ち、近くのコボルト騎士へと顎で静かに指示を出すと、精鋭部隊の数匹がホールの外の『残党処理』へと無慈悲に散っていくのだった。




