066 思い上がった王都の使者! 過去の怨嗟と絶対冷徹な処刑宣告
辺境の街がレンの手によって制圧され、ジュリアやイアン、そしてコボルト騎士たちの尽力によって急速に落ち着きを取り戻しつつある頃。
ついに中央の王家から「使者」と称する一人の男が街を訪れた。レンはかつて前領主がふんぞり返っていた格式高い領主館の謁見の間へと、その使いを招き入れた。
重厚な扉が開き、鋭いマチェットを腰に下げたコボルト騎士たちに付き添われて入ってきた男の顔を見るなり、レンは細い目をさらに冷たく細めた。
(……はん。こんな男を使遣いに寄越すなんて、王家はよっぽど俺を舐め腐っているらしいな)
レンにはその男の記憶が鮮烈に残っていた。スキルが判明する前、そして判明した後、日常的にレンを蔑み、率先してイジメていた王家の家臣の一人だったからだ。当時のレンに日頃の鬱憤をぶつけ、直接的な暴力と、言葉による陰湿な心理的暴力で肉体的・精神的苦痛を与え続けていたクズである。
そんな胸糞悪い男の登場に、レンの王家に対する反発心がさらに苛烈に燃え上がったのは言うまでもなかった。
最古参であるアインスたち「最初の5匹」が新たに編成された騎士団の要職に就いたため、現在、領主の椅子にゆったりと腰掛けるレンの両隣には、鉄壁の護衛としてワイマラナー風のアハトとボルゾイ風のノインが、鋭い眼光で使者を睨みつけながら直立していた。
さらに、謁見の間の両脇には、開拓村の領主代行ヘレナ、総大将(将軍)フェルダーをはじめ、ゲイル、ダリア、エリーの新生騎士団幹部5人が並び立つ。
その横には、
ゴールデンレトリーバー風のツヴァイ
ドーベルマン風のドライ
フラットコーテッドレトリバー風のフィア
シベリアンハスキー風のフンフ
という幹部コボルトたちが、人間の団長たちと並んで威風堂々と控えていた。その後方には、凄まじいプレッシャーを放つ35匹の精鋭眷属コボルトたちが隙間なく整列している。
普通ならその圧倒的な軍勢の気配に腰を抜かすところだが、王都のぬるま湯に浸かりきっていた使者の男は、コボルトたちをただの「最弱の魔物」と侮り、鼻で笑って開口一番に侮蔑の言葉を吐き捨てた。
「ふん、コボルト如きの家畜を騎士の代わりに両脇に並べるとはな。これだから田舎者は困る。王家に対する敬意がこれっぽっちも足りないのではないかな? やはり、コボルトテイマーのようなクズスキル持ちはどこまで行っても使えんなぁ!」
部屋の温度が文字通り氷点下まで下がったかのような静寂。ゲイルやフェルダーの手が剣の柄にかかるが、レンはそれを手制し、不機嫌そうに、そして極めて横柄に椅子の背もたれに体重を預けた。
「――御託は良いよ。お前が本当に王家の使者を名乗るつもりなら、まずは国王の正式な『書状』を見せろ。話はそれからだ」
「な、何という不敬な物言いを……! この我が持ってきた言葉を、王家の使いを偽物とでも疑うというのか!?」
男は顔を真っ赤にして声を荒らげるが、レンはフッと鼻で笑った。
「疑うとも。つい数日前、お前と同じように『書状も持たずに王家の使い』を名乗り、我が領地を力ずくで差し出せと抜かした、アキツナという名の間抜けな偽物がいたからなぁ。同じ轍は踏みたくないんでね」
「なっ、アキツナ様を偽物呼ばわり……っ! ちっ、書状ならこれだ! さっさと確認せよ!」
男は忌々しそうに懐から国王の蝋封が押された書状を差し出した。すっと前に出たヘレナがそれを受け取り、中身を確認した上で、恭しくレンの元へと手渡す。
レンは書状(実質的な詰問状および命令書)にざっと目を通すと、退屈そうにそれを放り出した。
「ふむ……。どうやら王家の使いだというのは本当らしい。それで? 書面によれば、この街を今すぐ王家に無条件で差し出せとの命令のようだが、一体如何なる理由でそんな理不尽を言われるのか、理由くらいは言葉で説明して貰えるんだろうな?」
「何を馬鹿なことを言っている! 理由など言われなくても身に染みて分かっているだろう!」
使者の男は勝ち誇ったように胸を張り、指を突きつけて喚いた。
「王家の許しも得ず、勝手に他領の領主を殺害して領地を奪い、自分の所有物のように振る舞っているのだ! 王家にすべてを返却するのは当たり前の義務であろう! むしろ、貴様のような出来損ないがどんな理由でこんな大それた馬鹿な真似をしたのか、詰問するのは我の方だ!」
「ふっ、面白いことを言うな。元を正せば、隣街の領主が書状も持たずにアキツナを唆し、500もの完全武装した兵を率いて俺の領地を蹂躙しに襲撃してきたんだ。降りかかる火の粉を払うのは当然だろう? 俺は、我が家に泥棒に入ってきた馬鹿な隣街の領主を、返り討ちにして倒しただけだよ」
「ええい、それが理由か! 分かった分かった、お前の言い分などどうでも良い! 理由がどうあれ、王命は絶対だ! さっさと荷物をまとめて、元の狭い開拓村に引っ込んでいるが良い! ちなみに、貴様が去った後は、この我が新しい領主としてこの領地を任されることになっている。後は我に任せろ!」
男の下卑た本音が出た瞬間、謁見の間に潜むコボルトたちの喉から「グルルル……」と地響きのような唸り声が漏れた。しかし、レンは動じることなく、低く冷たい笑い声を漏らした。
「ククク……。兵の一人も連れてこず、紙切れ一枚(書状)で我が領地をそのまま手に入れられると思ったかい? 実におめでたい奴だな。お前は、この俺がこの街を数時間で完全制圧したその武力が、ただの張りぼてだとでも思っているのか?」
「や、やや……! な、何を言う……! 我に手を出すというのか!? そんなことをすれば王家が黙っていないぞ! 国王陛下がお前を絶対に許さん!」
レンの放つ、王都にいた頃とは比較にならない本物の『支配者の覇気』を間近で喰らい、男の顔からみるみる血の気が引いていく。
「何を今更。我が領地(開拓村)に手を出そうとした時点で、王家からの『宣戦布告』ならとっくに受けて立っているんだよ。今更お前たちの主を恐れる理由がどこにある?」
「ま、待て! 早まるな! 我が……そうだ、お前がそこまで言うなら、貴様のその宣戦布告の言葉をそのまま王家に伝えてやろう! そうだ、そうしよう、それが良い! 良し分かった、贵様の言い分を国王に報告してやるから、今日のところは我は引き上げるとしよう!」
完全に恐怖に支配された男は、踵を返して謁見の間の出口へと全速力で走り去ろうとした。
「――【捉えよ】」
レンが短く呟いた瞬間、出口を固めていた2匹のコボルト騎士がすっと前に立ち塞がり、逃げようとした男の腕を背後からガッチリと取り押さえて床に組み伏せた。
「ぎゃっ!? ええい、離せ! 離しやがれこの家畜どもが! 我は王都に戻らねばならぬのだ! そうであろう! そうしなければ貴様の言葉は一生国王には届かんぞ!」
床に泥を擦り付けられながら必死に叫ぶ男を、レンは玉座から冷酷に見下ろした。
「別に、お前がその汚い口でわざわざ伝えに戻らなくてもさ……」
レンはにやりと、前世のゲームで敵国を滅ぼす時のように残酷な笑みを浮かべた。
「お前の『首』を綺麗に箱に詰めて王都に送れば、こちらの意思は充分すぎるほど伝わるだろう?」
その言葉が決定打となった。かつてレンを散々痛めつけていた男のプライドは完全に粉砕され、己の死を察した男は涙と鼻水を撒き散らしながら絶叫した。
「や、やめてくれ! 頼む、助けてくれえええ! 悪かった、俺が全部悪かった! た、助けてくれ! 頼むから見逃してくれえええええ!!!」
かつてのいじめっ子の無様な命乞いが謁見の間に虚しく響き渡る中、レンは冷淡にドライへと視線を送るのだった。




