065 天下布武の幕開け! 「朝焼けの光」が率いる、世界最強のモフモフ四国騎士団誕生!
電撃的な超スピードで辺境の街を制圧したレンだったが、血の気が引いた領主の館の玉座に腰掛け、ふぅと小さくため息をついた。
「はぁ……制圧したは良いけど、本当に大変なのは、ここから先の戦後処理と領地経営なんだよなぁ」
「そう言ったでしょ? どうすんのよ、これ。私は今の開拓村の管理だけで正直手一杯よ。この大きな街の面倒まで見きれないわ。あんた自身だって、増え続けるコボルトたちの統率で頭が回らないでしょうに」
レンから「大至急、街の領主館へ来て!」と手紙を持たせたコボルト経由で呼び出されたヘレナが、呆れ顔で腰に手を当てて言った。
「だよねぇ……。ヘレナは元々この街に住んでたんだし、誰か臨時の領主代行(代官)をやれそうな、信頼できる優秀な人材に心当たりはない?」
「う〜ん、そうねぇ。私より、元々この街で大きな組織のトップをしてたジュリアさんのほうが遥かに顔が広かったわよ。色んな職人のツテもあるし」
「そうかぁ! よし、じゃあ街の民政はジュリアさんに一任しちゃおうかな!」
「まあ、内情をよく知ってる身内に丸投げするのが一番手っ取り早いし確実ね」
「よし、そうしよう!」
レンは即座に決断すると、開拓村から元錬金術ギルドマスターのジュリアと、商会の辣腕会頭イアンを大至急呼び寄せ、今後の街の統治についての緊急トップ会談を行った。
その結果、街の民政やインフラ構築はジュリアの広い人脈から推薦された信頼できる人間に代官を任せ、金の管理や利権の監査、ギルドへの牽制といった裏のチェック役は、商人であるイアンが徹底的に睨みを利かせるという鉄壁の二頭体制が敷かれることになった。
しかし、一番の問題は「治安維持」だった。前領主の無謀な進軍のせいで、街の正規騎士や衛兵の9割以上が死亡、あるいは全滅してしまっていたのだ。
「だったら、街の防衛も警備も、全部うちのコボルト騎士たちに任せちゃえばいいよね」
というレンの鶴の一声により、街の治安維持部隊の総入れ替えが決定した。
翌日から、漆黒のアーマーに身を包み、鋭いマチェットを腰に下げた屈強なコボルト騎士たちが、ズシッ、ズシッと規則正しい足音を立てて街中を巡回し、巨大な城門の門番を務めることになった。
もちろん、コボルトたちは言葉を話せないため、入国審査や職務質問の対応は人間が行い、背後に立つコボルトたちが圧倒的な武力による「抑止力」として睨みを利かせるという共同スタイルが採用された。
また、ボロボロになった領主の館には、レンの【召喚】によって大工ギルドのバークに鍛えられた「大工コボルト職人部隊」が大量に投入され、凄まじい突貫工事で修繕されて実用的な空間へと生まれ変わった。
同時に、主を失った兵舎も大改築され、快適な犬舎……もといコボルト専用の近代的住居となり、200匹の精鋭コボルト騎士がこの街に常駐することになった。
レンは最初、「街の人たちが魔物に怯えて暴動でも起きるんじゃないか」とハラハラしていたが、蓋を開けてみれば結果は真逆だった。
クリーン魔法で常に毛並みがフカフカで無臭、おまけに人間の言葉を完全に理解してジェスチャーで意思疎通を図るコボルト騎士たちは、街の女性や子供たちに「かっこいい!」「可愛い!」と大人気に。
すんなりと街の日常に受け入れられていく様子を見て、レンはホッと胸を撫で下ろした。
――だが、本当の課題は別なところにあった。
「治安はなんとかなりそうだけど……やっぱり、軍事面で『絶対に裏切らない、信用のおける最高幹部の人材』が決定的に不足してるんだよなぁ」
レンがポツリと漏らすと、ヘレナも真剣な表情で頷いた。
「そうね。あんたのチート召喚が使えるとは言っても、今回みたいに毎回領主であるあんた自身が前線に突撃して戦いに行くのは、私は絶対に賛成できないわ。もし同時に二つ以上の戦場が生まれたら、それだけで詰み(アウト)だしね」
「そうだよねぇ……。どこかに居ないかねぇ。俺への信用が置けて、元々めちゃくちゃ強くて、コボルトたちとも大の仲良しになれて、軍隊の統率ができるような都合の良い人たち……」
そこまで言って、レンとヘレナはパッと顔を見合わせ、同時に叫んだ。
「「――『朝焼けの光』のみんなだ!!」」
◇◇
「……ははは、なるほどな。それで、俺たち元Aランク冒険者の元に直々に声が掛かったわけか。――『領主様』?」
領主館の豪奢な応接室。集まってくれた『朝焼けの光』のメンバーを前に、レンは照れくさそうに頭を掻いた。
「あはは、フェルダーさん、レンで良いよ。そんなニヤニヤしながら『領主様』なんて言われると、背中が痒くてこそばゆいよ」
「いやいや、一街の主、いや、二つの領地を支配する王族の主になったんだ。他の者の前で『さん付け』されるのは流石にマズいだろう。これからはフェルダーと呼び捨てにしてくれ。……それで、その大役、喜んで引き受けさせてもらうぜ!」
「えっ! 本当に引き受けてくれるんだね!?」
「ああ、うちのメンバーは全員、お前さんの熱狂的な大ファンだからな。ほら見ろよ」
「おう! 俺は迷わずフンフと一緒に前線で槍を振るうぜ! 元々、若い頃は一国の騎士になるのが夢だったからな。こんな最高な舞台、燃えないはずがねえ!」
槍術士のゲイルが、隣にいるハスキー風のフンフの頭をガシガシと撫でながら熱く応えた。
「ふふ、私はフィアちゃんと一緒に『魔法師団』の団長ね。女の子の身で魔法師団長になれるなんて、まるで物語の英雄みたいで夢のようだわ。ねー、フィアちゃん、可愛いわねぇ」
魔法使いのダリアが、すでにフラットコーテッド風のフィアを膝の上に乗せて限界までモフモフしている。
「それなら私は、ツヴァイと一緒に『弓術・斥候隊』の隊長かしら。レンのところなら、女性であっても実力さえあれば対等に役職を貰えるんでしょ?」
エリーもまた、ゴールデンレトリーバー風のツヴァイの顎の下を優しく撫でて極上の笑みを浮かべていた。
「もちろん! 性別や種族での差別なんて一切しないよ。実力第一、成果第一さ。現に、開拓村の領主代行はヘレナにお願いしているしね!」
レンがダリアとエリーに向かって力強く頷くと、彼女たちは嬉しそうに目を輝かせた。レンは改めて、頼もしい4人の冒険者の顔を見回した。
「みんな、本当にありがとう……! それではフェルダー、お前を我が軍の【総大将(将軍)】に任命する。兼務としてドライを副官につけるので、最強の『第一騎士団』の団長をお願いする!」
フェルダーは一瞬で冒険者の軽いノリを消し、騎士としての完璧な礼をとった。
「――謹んで拝命いたします、領主様」
「あはは、やっぱりレンで良いってば」
「ダメよ。他の領民や兵たちの目がある手前、呼び捨ては絶対に示しがつかないわ。……これからは『レン様』に統一しましょう」
ダリアがフィアを抱き上げたまま真面目な顔で提案し、全員が賛同したため、公の場では『レン様』と呼ばれることに決まった。
「分かったよ。……よし、ゲイルは槍兵主体の『第二騎士団』団長! ダリアはコボルトメイジを率いる『第三魔法師団』団長! エリーは弓術・隠密兼斥候の『第四騎士団』団長を任命する!」
「「「――拝命いたします、レン様!!」」」
頼もしい3人の咆哮が室内に響き渡る。
そんな中、総大将となったフェルダーが、ふと不敵な笑みを浮かべてレンに視線を戻した。
「ところで、レン様。お前さんの目的は、ただの領地防衛だけじゃねえだろ? 聞けば、開拓村のコボルトの数をさらに爆発的に増やし続けているらしいじゃないか。……もしかして、この大陸を揺るがす『国盗り(覇権争い)』に本格的に参戦する気か?」
「あら、レン様が次の国王になったら、私、宮廷筆頭魔道士か侯爵くらいにはしてもらえるかしら?」
ダリアが悪ノリするようにクスクスと笑う。しかし、レンの口から飛び出したのは、彼女たちの想像の遥か上を行く言葉だった。
「――甘い甘い。国王なんて小さな枠で収まる気はないよ。俺の目標は『世界制覇(世界統一)』さ」
レンが堂々と言い放つと、一瞬の静寂の後、フェルダーが豪快に笑い声を上げた。
「ははは! 随分と大きく出たな! だが、お前さんのあの化け物もふもふ軍団なら、冗談に聞こえねえのが恐ろしいところだぜ」
「じゃあ、レンは国王じゃなくて『皇帝』ね! 私たち、帝国騎士団の幹部ってわけだ。最高じゃない!」
ヘレナも楽しそうに話を乗せる。
「夢は大きく持たなきゃね!」
レンはそう言ってニヤリと笑った。
(――そう、世界制覇だ。だって俺は、気づいちゃったんだからね……!)
レンは、この世界が転生前に自分が狂ったようにやり込んでいた、あの伝説の超難関戦略シミュレーションゲームの世界と「全く同じマップ、全く同じ設定」であることに確信を持っていた。
序盤こそ最弱ハズレスキルと馬鹿にされたが、蓋を開けてみれば『無限増殖・超速レベリング』という最凶の絶対戦力を手に入れ、スタートダッシュとしてはこれ以上ないほどの完璧な基盤を構築できた。
世界を統べる無敵の「コボルト帝国」の建国へ向けて――。
最強の元Aランク冒険者たちと、日々一騎当千へと進化していく1,500匹以上の愛すべきもふもふ騎士たちを従え、10歳の少年領主レンの、痛快無比なる異世界征服への進撃が、今ここから本格的に幕を開けるのだった。




