063 お行儀の良すぎる襲撃者!? 電撃の街門突破と、爆走するモフモフ最速軍団!
ヒダ国の青空の下、砂煙を上げて爆走する一団があった。
レンはヘレナから借り受けた雄々しい騎竜ドラッヘの背に乗り、全速力で辺境の街へと急いでいた。その左右を寸分の乱れもなく並走するのは、漆黒の毛並みを靡かせるドーベルマン風のコボルト・ドライと、絹のような白い毛を翻すボルゾイ風のコボルト・ノイン。
最高速度のドラッヘに徒歩で追いつくだけでなく、涼しい顔で並んで走る二匹の身体能力はすでに完全にバグっていた。
電撃的な速度で進軍したレンたちは、何一つ障害にぶつかることなく、最速のタイムで辺境の街の巨大な城門へと到着した。
――が、そこでレンは、何を血迷ったか門の前にできている一般の入場待ちの行列の最後尾に、ごく自然に並んでしまった。
お利口にオスワリをして待つドライとノイン。周囲の商人が「な、何だあの綺麗な魔物は……?」とガタガタ震える中、レンはふと我に返ってガシガシと頭を掻いた。
(はぁ……俺ってば一体何をしてるんだろ。これから街を落としに(襲撃に)来たっていうのに、前世の日本人の悲しい性で、つい綺麗に行列に並んじゃうなんて……)
そんなレンの自問自答を置き去りに、列は進み、ついにレンの順番が来て門番に声を掛けられた。
「はい、次の人ー。身分証を出して。……って、おい、そこのデカいトカゲから降りて。あと、どんな用事でこの街に来たのかな?」
レンはドラッヘの上から、にこりと営業スマイルを浮かべた。
「あ〜、こんにちは。隣の開拓村の領主です。この街の領主さんにちょっと急ぎの用事(物理)で会いに来ました」
(うん、嘘は言っていない。間違ってはいないはずだ)
「な、……領主だと!? って、おい! 魔物だ!!」
「おい見ろ、コイツら凄く装備が綺麗だけど……コボルトじゃないか!?」
「コボルト……。ハッ、隣の村の、あのバケモノもふもふ軍団か!?」
レンの左右に控えるドライとノインの圧倒的な強者のオーラに気づき、門番たちが一斉に色めき立ち、腰の剣に手をかける。
「ち、ちょっと待ってくれ! 上に、領主に確認を取って来るからそこで待機してろ!」
慌てふためく門番の言葉を聞き、レンはすっと笑みを消し、冷徹な目を向けた。
「『ちょっと待ってくれ』? ……隣の村の領主(格上)に対して初対面なのに、随分と馴れ馴れしい口の利き方をするんだね」
「ひっ……! ま、待って、お、お待ちください……!」
騎竜ドラッヘの上から見下ろしてくるレンの、底知れない冷たい瞳に完全に呑まれた門番が、ガタガタと膝を震わせながら敬語を言い直した。
「悪いけど、領主への確認なんて行かせないよ。この街の領主が、アキツナを使って俺の領地に『宣戦布告』をしてきたからね。大人しく黙ってこの門を通すなら命だけは見逃してあげたんだけど……。あ、そこの一人、奥へ走って報告に行きやがった。――ノイン、斬ってきて」
「ウォン!(了解だワン!)」
レンの冷酷な命令が下った瞬間、ボルゾイ風のノインが白い閃光と化した。
ノインは呆然とする門番たちの間を文字通り一瞬で擦り抜け、領主館へ向かって必死に走っていた報告役の門番の背後に一歩で肉薄。その細長い前足から放たれたマチェットの一閃が、門番の首を綺麗に刈り取った。
「し、襲撃だあああああーーー!!!」
残された門番の一人が、顔を真っ白にして大声で叫びながら警報の鐘を鳴らす。周囲の兵たちが一斉に槍を構え、レンたちを包囲しようと詰め寄ってきた。
ドライが不敵な笑みを浮かべ、腰のマチェットをスラリと抜いて身構える。
「あ〜あ。まだ街の一般兵まではあまり殺したくなかったんだけど、仕方ないね。向こうが仕掛けてきた戦争中なんだから。……御免よ。恨むなら、こんな無謀な勝ち目のない戦争を始めた自分のところの領主を恨みな。――【召喚】!!」
レンがパチンと指を鳴らすと同時に、広大な門の敷地の《《内側(街の中)》》の空間が爆発するように歪んだ。
次の瞬間、光の奔流とともに、漆黒のフルプレートアーマーと特製マチェットを装備した300匹の精鋭コボルト騎士たちが、一斉に姿を現した。
「ガフガフ(待ってましたワン!)」
「バウバウ(暴れ放題だワン!)」
「アフアフ(マスターに武器を向ける不届き者は万死だワン!)」
ワイマラナー風のコボルト・アハト、シベリアンハスキー風のコボルト・フンフ、アイリッシュウルフハウンド風のコボルト・ゼクス。
巨体でありながら超高速で動く彼らは、出現するや否や、レンを取り囲んでいた門番たちを、自慢のマチェットで一瞬にして斬り刻み、重い盾と槍で紙切れのように突き飛ばして制圧した。
「武器を抜いて向かって来る奴ら(兵士)だけを倒せ! 一般市民には手を出すな。後は俺に付いてこい!」
レンが毅然とした声で指示を出すと、騎竜ドラッヘの腹を強く蹴った。ドラッヘが激しく咆哮し、騒然とする門を突破して、一気に街の中央へと走り出す。
「ウオォォォーーン!」
「ガウー!」
レンにピッタリと並走するドライとノイン。そして、その後ろを地響きを立てて追いかける300匹のフルクオリティなもふもふ騎士団。それは、辺境の街の住人たちがこれまで見たこともないような、圧倒的かつ奇妙に統率された「コボルトの超高速大進撃」だった。
「みんな、吠えろ! 敵の戦意を挫くぞ!」
レンの指示を受け、300匹のコボルトたちが一斉に思い思いの咆哮を轟かせた。
「ワオォォォーーーン!!」
「ウォーーーン!!」
「ガウーーー!!」
街中に響き渡る凄まじい遠吠えの合唱。何事かと家から顔を出した街の人々や、道を行き交っていた領民たちは、そのあまりの迫力に悲鳴を上げながら道の両脇へと蜘蛛の子を散らすように避けていく。
「なになに!? 何が起きてるの!?」
「きゃああああ! なにあのワンちゃんたち、めっちゃカッコよくて可愛い!!」
「えっ、何かのイベントの宣伝パレード!?」
中には状況が掴めずワタワタして避けきれなかった街の人もいたが、レンたちのコボルト軍団は超絶的な反射神経で、彼らに絶対にぶつからないよう綺麗にスルーしながら突き進む。コボルトの黒い波に飲み込まれながらも、傷一つ負わずにあたふたとする街の人々を置き去りに、レンは前方を睨み据えた。
「ここからはスピード勝負だ! 領主館の防備が固まる前に一気に行くぞ!」
「ウォーーーン!(スピード勝負なら、我が一族に任せてワン!)」
レンの声に応答し、ボルゾイ風のノインがさらに走る速度を跳ね上げる。すると、後ろの300匹の軍団の中から、自慢の俊足を誇る「最速部隊」のコボルトたちが一気に抜け出てきた。
「わんわん!(俺が一番乗りだワン!)」
驚異的な加速を見せたグレーハウンド風のコボルトが、瞬く間にノインをも追い抜いていく。
「わんわん!(俺だって負けずに速いワン!)」
「わんわん(俺が先頭を走るワン!)」
「わんわん(マスターの風になるワン!)」
「わんわんわん(ここが俺たちの最大の見せ所だワン!)」
「わんわん(やったるワン!)」
細身で流線型の美しい体躯を持つサルーキ風のコボルト、野生味溢れるスルーギ風のコボルト、水玉模様のダルメシアン風のコボルト、高貴な茶毛のビズラ風のコボルト、そして弾丸のようなスピードを誇るウィペット風のコボルトたちが、凄まじいドッグレースさながらのデッドヒートを繰り広げながらノインと並び、レンの走るドラッヘのさらに前方へと躍り出た。
領民たちが呆然と見守る中、最速の猟犬コボルトたちを先頭にした無敵の軍団は、標的である領主の館を目指し、文字通り嵐のような速度で街のメインストリートを駆け抜けていくのだった。




