057 誕生、五百超の精鋭「もふもふ騎士団」! 冒険者たちの驚愕と、ゲイルの熱血シゴキ訓練
「ゴブリンの穴を単独で制覇することは、真の戦士の証である」
レンが何気なく提案したソロクリアの試練は、いつしかコボルトたちの間でそんな風に尾ひれがつき、最高の名誉として瞬く間に広がっていった。
自慢の毛並みと腕っぷしに自信のあるコボルトたちは、我先にと果敢にダンジョンへ挑戦。お互いに切磋琢磨しながらめきめきと技量を上げ、その力を確固たるものにしていった。
まず最初に、レンが最初に直接テイムした最初の5匹――言わば伝説の最古参メンバーが、貫禄のソロ制覇を成し遂げた。
秋田犬風のアインス
ゴールデンレトリーバー風のツヴァイ
ドーベルマン風のドライ
フラットコーテッドレトリバー風のフィア
シベリアンハスキー風のフンフ
この見事な先陣を切った5匹である。
それに負けじと、次にテイムされた5匹の精鋭たちも、それぞれの特性を活かしてあっさりとゴブリンの穴を単独制覇してみせた。
アイリッシュウルフハウンド風のゼクス
グレートデン風のズィベン
ワイマラナー風のアハト
ボルゾイ風のノイン
チベタンマスティフ風のツェン
以上の合計10匹。開拓村のコボルトたちの頂点に君臨し、常に領主であるレンの周りを鉄壁の布陣で固める彼らは、畏敬の念を込めて【ナンバーズ】と呼ばれるようになっていった。
さらに、彼らの背中を追いかける直系の眷属35匹(ナンバーズの10匹を除いた25匹)も、全員が意地を見せて単独制覇を達成。
この25匹の中には、あのゲート前でレンに甘えていた筋骨隆々の土佐犬風コボルトや、アメリカン・ピットブル・テリア風のコボルトたちも含まれている。彼らには(レンのネーミングセンスの枯渇により)まだ個別の名前はなかったが、実力は本物だった。
その後も、ナンバーズたちの「孫テイム」によって従属したコボルトたちが続々とダンジョンをクリアし、猛者たちの数は増え続けていった。
その驚異的な合格率を聞いたレンは、「それなら」と、単独でゴブリンジェネラルを討ち取れる実力を持ったコボルトたちを、正式に『開拓村の騎士』として採用することにした。
――それから1年後。
ゴブリンの穴の試練を乗り越え、レンに忠誠を誓ったコボルト騎士の数は、なんと500匹を超えていた。一匹一匹がゴブリンの群れを一人で壊滅させられる、文字通り一騎当千の最強もふもふ騎士団である。この数は、年を追うごとにさらに膨れ上がっていくことだろう。
彼らは普段、コボルトたちの狩りのリーダーや、村の衛兵、門兵といった武力が必要な要職を担うとともに、ドライやツヴァイ、フィアなど、かつてレンを救ってくれた凄腕の元Aランク冒険者パーティー『朝焼けの光』から直々に指導を受けたナンバーズたちに訓練され、さらにその実力を爆発的に伸ばしていくのだった。
◇◇
「……すげぇな。この村は来るたびに防壁が分厚くなって城塞都市のようになっていくとは思っていたが、コボルトの騎士たちも、もう一端の規律正しい軍隊そのものじゃねえか」
久しぶりに開拓村へと顔を出した『朝焼けの光』のリーダーであり高名な剣士のフェルダーが、訓練場でドライたちが数百匹のコボルト騎士を統率して見事な模擬戦を行う様子を眺め、呆気にとられたように顎をさすっていた。
「でも、私たちが教えた戦い方って、あくまで少人数で効率よく魔物を仕留める『冒険者』の戦術だからね。レンの領地を守る正式な騎士としては、少し泥臭くて相応しくないかもしれないよ? 他の由緒ある領地から、人間の高名な騎士様でもお招きして指導してもらった方がいいんじゃないかしら」
『朝焼けの光』の優秀な弓術士であるエリーが、少し申し訳なさそうに控えめな提案をする。しかし、レンは即座に首を横に振って微笑んだ。
「いや、人間の重装騎士の戦い方が、必ずしも敏捷で柔軟なコボルトたちに適しているとは限らないと思うんだ。むしろ、個々の判断力と柔軟性を重視する冒険者の戦術の方が、身体能力の高いコボルトにはバッチリ合ってるんじゃないかな」
レンの信頼の詰まった言葉に、訓練を見ていたコボルトたちが「ワン!」と嬉しそうに尾を振る。
「それにしても驚いたわ。フィアちゃんが指導しているあの『魔法使いコボルト』たちの部隊、一斉に放つ呪文の精度も威力も、領都の宮廷魔道士団と比べても全く遜色ないレベルよ? 一体どうやって、こんな短期間にこれほど大量の魔法のスクロールを用意できたのよ」
そう言って驚愕の表情を見せたのは、『朝焼けの光』の才媛である魔法使いのダリアだった。彼女の視線の先では、フィアに率いられた数十匹のコボルトメイジたちが、一糸乱れぬタイミングで綺麗な火球や雷撃を木標へと叩き込んでいた。
「いやぁ、実はね、少し前に村のすぐ近くに天然のダンジョンを発見してさ。そのボス部屋の宝箱から、定期的に大量のクリーンや攻撃魔法のスクロールが手に入るんだよ。それをみんなで山分けして使ってるんだ」
レンは特に悪びれもせず、ダリアの問いに答える。
「「「ダンジョン!!?」」」
フェルダー、エリー、ダリアの3人が、冒険者の本能を刺激されたように色めき立ち、声を揃えてレンに詰め寄った。
「あっ、いや、期待させて悪いんだけど、コボルトが単独でも数十分でクリアできちゃうような、ゴブリンしか出ない地下5階層だけの小さくて可愛いミニダンジョンだからね? 『朝焼けの光』のみんなが潜って楽しめるようなスリルもレア素材もないよ」
「な〜んだ。最深部がゴブリンジェネラルじゃ、私たちの退屈しのぎにもならないわね。残念だわ」
ダリアはつまらなそうに肩をすくめ、フェルダーたちも苦笑いして肩の力を抜いた。
――ちなみに。
そんな会話の輪の中に、『朝焼けの光』の槍術士である肉体派のゲイルの姿だけが見当たらなかった。
彼は元Aランク冒険者としての熱い血が騒いで黙って見ていられなかったのか、シベリアンハスキー風のフンフと共に訓練場の中央へと乱入し、上半身裸になって巨大な槍を振り回していた。
「ほらほら! そこ! 足元がお留守だぞ! ゴブリンの突きをまともに食らう気か!」
「ウガウガッ!(そうだワン! 腹筋に力を入れるワン!)」
ゲイルはフンフと息の合ったコンビネーション(?)で、何百匹ものコボルト騎士たちを大声で怒鳴りつけながらガシガシと熱血シゴキ訓練を行っていた。コボルトたちも「ヘトヘトだけど元Aランク様に稽古をつけてもらえるワン!」と、目を輝かせて泥だらけになりながらゲイルに挑みかかっている。
「あはは……ゲイルさんは相変わらずだね」
「まぁ、あいつのあの熱量を受け止めきれるのは、体力無限のコボルト騎士たちくらいのものよ」
レンとフェルダーが笑い合う中、開拓村の「もふもふ軍隊」は、今日もまた一歩、世界最強の騎士団へと近付いていくのだった。




