054 ドライの優越感と、限界ワンオペ美少女(サブマス)が召喚した「意外な救世主」!
「ガフガフ(護衛の職務を何だと思ってるワン!)」
ドライが鋭い眼光で、浮き足立つアハトとノインをピシャリと睨みつけた。「マスターの傍を離れるなど言語道断ワン!」と言いたげな、絵に描いたような生真面目な堅物護衛犬である。
「ドライ、まあまあ、そう硬いことを言わないでさ。アハトもノインも、俺に良いところを見せて活躍したいんだよ。ほら、俺の目の前の護衛は、一番強いドライが居てくれればそれだけで充分だからさ。二匹とも、行ってきて良いぞ」
「ガフガフ!(やったーーー!ワン!)」
「ウォンウォン(マスター、大好きワン! ありがとうワン!)」
レンの許可が出るや否や、アハトとノインはお耳を飛行機のようになびかせて大喜び! 弾丸のような速度で通路の奥へと突撃していった。
そんな二匹の後ろ姿を、ドライはなおもハスキーな唸り声を上げながら忌々しげに睨みつけている。お留守番を仰せつかったツェンのように、自分もマスターの役に立ちたくてウズウズしているのだ。
「ドライ、いつも完璧な護衛をありがとう。君のその真っ直ぐな忠誠心は、本当にいつも心強いよ。……よし、これをご褒美にあげよう」
レンは先ほどジュリアから貰った超大型マジックバッグを取り出すと、今まで自分が使っていたお気に入りの『中型マジックバッグ』の中身を全て新しいバッグへと移し替え、空になった中型バッグをドライの前に差し出した。
「ガウガウッ!?(こ、これは……ありがたき幸せワン!!)」
ドライは驚きに目を丸くしたあと、まるで国宝でも扱うかのように前足で恭しくバッグを受け取った。そして、愛おしそうにクンクンと匂いを嗅いだあと、大事そうに自分の肩へと斜め掛けにする。
「ガウガウ(一生の宝物にするワン。誰にも触らせないワン)」
「よし、それじゃあ進むか」
レンたちがドライを連れてさらに奥へ進むと、通路の先から「ガフガフ!」「ウォン!」と賑やかな声が響いてきた。
「(マスター、見て見てー!)」
「(悪いゴブリン、一瞬でぶち倒したワン!)」
なんと、アハトとノインがそれぞれ2匹ずつのゴブリンの死骸を、自慢げに引き摺って戻ってきたのだ。
二匹はちぎれんばかりに尻尾を大きく振り、レンの体に「すりすり、ぐいぐい」と頭を擦り付けてくる。
「(すごいでしょワン! 褒めてワン! 撫でて褒めてワン!)」
「お、やったな! さすが俺の精鋭だ、強いぞ!」
レンが二匹の頭をわしゃわしゃと交互に撫でて褒めちぎると、二匹は嬉しさのあまりハァハァと息を荒くして目を輝かせた。
「よし、ドライ。そのゴブリン、お前のバッグに入れてやってくれ」
レンに指示されたドライは、ニヤリと下卑た……いや、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、わざとらしくアハトたちの前で自分の肩掛けバッグの口を広げた。そして、ゴブリンの死骸をズボズボと仕舞い込んでいく。
それを見たアハトとノインは、驚愕のあまり「えっ!?」とお耳をピキーンと直立させた。
「ガフガフ!?(それ……マスターのバッグワン!?)」
「ウォン……(ずるいワン、めちゃくちゃ羨ましいワン……)」
「ガウガウ(ふん、マスターの『真の護衛』だけが、直々に賜ることができる特権ワン)」
ドライはこれ以上ないほどにフンスと胸を張り、ドヤ顔をキメるのだった。
その後も、アハトとノインの近接コンビが俊足を生かしてゴブリンを瞬殺し、少し距離があればツヴァイの矢とフィアの雷魔法が容赦なく敵を消し飛ばしていく。あまりにもテンポが良すぎる、快適オートバトル状態である。
「うーん……。せっかく人生初のダンジョン(仮)に来たのに、何だかワクワクドキドキ感がまったくないなぁ」
レンが暇そうに頬を掻きむしる。
「そりゃそうでしょ。あんた、ただ後ろからコボルトたちの無双劇を眺めてるだけじゃない」
ヘレナが即座にツッコミを入れた。
「だよねぇ。やっぱり自分でもちょっとは戦わないと暇だよな。せっかくオリハルコンの剣も貰ったのに」
「戦わなくて良いわよ! 危ないからあんたは一生そこで見てなさい!」
そんな漫才のようなやり取りをしていた、その時――。
「ウォーンウォーン!!!(マスター! 何か、怪しくて凄いものを発見したワン!)」
通路の先から、ノインの美しい遠吠えが響き渡った。
「お、行ってみよう!」
レンたちが慌ててノインの元へと駆けつけると、行き止まりの小部屋の中央に、古めかしい木箱……いや、立派な『宝箱』がぽつんと鎮座していた。
「おおおっ! 宝箱! これぞダンジョンの醍醐味!」
興奮したレンが思わず手を伸ばして近づこうとした瞬間、ヘレナがその服の裾をグイッと力任せに引っ張って静止させた。
「ちょっと! 気安く触らないでよバカレン! もし矢が飛び出す罠とか、爆発する罠があったらどうするのよ!」
「あ、そっか……。でも、罠の見方なんて分からないし、どうするんだ?」
「ふふん、私に任せなさい」
ヘレナは不敵に笑うと、松明をドライに預け、真剣な面持ちでパッと両手を前に突き出した。そして、厳かに呪文を唱え始める。
「――我が呼び声に応え、影より出でよ! 【従魔召喚】!」
魔法陣が足元に広がり、淡い光が収束していく。
「えええっ!? ヘレナ、従魔召喚なんて高度な魔法使えるの!?」
「あったり前でしょ! これでも私は、あの歴史ある(?)テイマーズギルドの『サブマスター』よ?」
「あそこ、おじいさんとヘレナの二人しかいないギルドだよね」
「3人よ!! 祖父と私と、……あと、あんた(レン)がいるでしょ! 忘れないでよね!」
「あ、そうだった。あははは!」
そんな微笑ましい会話の最中、光の中から一匹の魔物が姿を現した。……が、召喚された従魔は、どこか眠たげで困ったような顔をしてヘレナを見上げている。
それは、つぶらな瞳をした、手のひらサイズの小さな【黒いネズミの魔物】だった。
「……ネズミだね。可愛いけど」
レンがまじまじと見つめる。
「ただのネズミじゃないわよ! スカウト系の魔物で、罠の感知と解除が特技なんだから。……さあ、お願いね。あの宝箱に罠があるか確認して、もしあれば解除して開けてちょうだい!」
ヘレナが指示を出すと、黒ネズミの魔物は「任せるチュー」とばかりに小さな目をピカッと赤く光らせた。
宝箱の周囲をトコトコと歩き回り、匂いを嗅いだあと、ヘレナを振り返る。
「チューチュー(罠はないチュー。安全だチュー)」
ネズミはそう鳴くと、自分の細長い尻尾を器用に動かした。すると、柔らかそうだった尻尾が、まるで「針金」のような硬さと細さに変形していく。それを宝箱の古びた鍵穴へとスッと差し込んだ。
カチャカチャ、カチャ……カチッ!
静かな部屋に小気味よい音が響き、宝箱の頑丈な蓋が、ゆっくりと自重で向こう側へと開いた。
「おおお……!」
中から漏れる微かな光に、レンとヘレナ、そして5匹のもふもふナンバーズたちは、一斉に身を乗り出して中を覗き込むのだった。




