053 王子の無自覚チートレベルアップと、もふもふ後衛陣のゴブリン狩り競争!
不気味な静寂が満ちるゴブリンの穴を、レンたちは順調に進んでいた。
先行するのは、それぞれ逆手にマチェットを構えた頼もしい前衛陣。ドーベルマン風のドライ、ワイマラナー風のアハト、そしてボルゾイ風のノインが、鋭い五感で周囲を警戒しながら歩く。
その後にレンとヘレナが続き、さらに後方からは、強弓を携えたゴールデンレトリーバー風のツヴァイと、肉球から魔力を漂わせるフラットコーテッドレトリバー風の魔法使い・フィアが、後衛として目を光らせていた。
ちなみに、愛馬ならぬ愛竜であるドラッヘは、穴の入り口が狭くてどうしても入れなかったため、入り口の外に待機させてある。
「なぁ、ヘレナ。ドラッヘは入り口に置いてきて大丈夫なのか? 逃げ出したり、入り口を警戒してくれてる土佐犬たちを襲ったりしないか、ちょっと心配なんだけど」
「は? なにが心配なのよ」
松明を掲げたヘレナが不思議そうに振り返る。
「いや、だってあんなに大きな魔物だしさ」
「ん、あの子ならちゃんとテイムしてあるから、そんな勝手なことするわけないじゃない」
「あれ、テイムしてたの!? いつから?」
「初めにこの村に来た時に決まってるでしょ。一瞬よ、一瞬」
「ああ、だからいつも妙に騎竜技術が高そうに見えたのかぁ……納得したよ」
「えへへ、今さら気づいたの? バレちゃったら仕方ないわね」
ヘレナは少し得意気に胸を張ったが、すぐに心配そうな顔でレンの顔を覗き込んだ。
「それより、レンは本当に大丈夫なの? 私、あんたが実際に武器を振って戦ってるところなんて、一度も見たいことないわよ?」
「いやぁ、それがさ……何だか最近、身体の調子がすこぶる良いんだよね。やけに身体が軽いっていうか、内側から力が湧き出るような気もするし。これならゴブリンの一匹や二匹、いける気がする!」
「はいはい、そんなの気のせいでしょ。あんたは私の後ろで大人しく守られてなさい」
レンとヘレナがそんな日常的な会話をしながらのんびり歩いている――その真横や背後では、ツヴァイとフィアによって、現れたゴブリンたちが「一瞬で間引かれる」という凄惨な瞬殺劇が繰り広げられていた。
実は、レンの身体の調子がすこぶる良いのは、気のせいなどではなく、文字通り凄まじい勢いでレベルアップしているからである。
狩りも訓練もしていない本人は1ミリも気づいていないが、この世界では、テイムしている魔物が敵を倒すと、その経験値の一部が主人にも自動的に割り振られる仕様になっていた。
しかし普通のテイマーは、衣食住の世話や魔力的な限界があるため、生涯でせいぜい2〜3匹しかテイムできない。そのため、主人のレベルが勝手に爆上がりすることなど有り得ないのだが……コボルトテイマーであるレンは違った。
レン自身は、直接テイムした最初の35匹しか把握していない。だが実際は、その35匹のリーダーたちに従属しているすべてのコボルト――総勢300匹以上の経験値が、「孫テイム」のパイプラインを通じて、毎日24時間ノンストップでレンの元へと流れ込み続けていたのだ。
つまり、レンは寝ているだけでも世界最高峰の効率で経験値を稼ぎ続ける「超弩級のチート不労所得者」と化していたのである。身体が軽くなるのも当然であった。
そんな主人のあずかり知らぬところで、後衛の二匹は完璧に「遊び感覚」でゴブリンの早撃ち競争を楽しんでいた。
通路の奥から「ギャギャッ!」とゴブリンが姿を現した――その刹那。
シュバッ! ドスッ!!
ゴブリンが声を上げる暇もなく、その額にはツヴァイが放った正確無比な矢が深く突き刺さっていた。
ツヴァイはドヤ顔で尻尾を小さく振る。
「ワンワン(どうよ、俺の勝ちだワン)」
「ワォン……!(くっ……反応が早すぎるワン! 次こそは絶対に私が倒すワン!)」
悔しそうにお耳をペタンと寝かせたフィアは、肉球の間にボウッと燃え盛る火球を浮かべ、今度はゴブリンが現れるのを先回りで待ち構えることにした。
それを見て、ツヴァイは横目でニヤリと不敵に笑う。
次にゴブリンが物陰から飛び出してきた瞬間、火球と矢が全く同時にゴブリンの肉体に炸裂した。
ドガァン! と激しい炎が上がる。
「ワンワン(あーあ、そんなに激しく燃やしたら、お肉が炭になって喰えなくなるワン)」
ツヴァイにジト目で突っ込まれ、フィアは「あ、しまっワン」と言いたげにハッとした。
「ワォ!(む、むぅ……! 次はもっと上手くやるワン!)」
名誉挽回とばかりに、次に気配がした瞬間、フィアは前足を高く掲げて新たな魔法を解き放った。
――ジジジ、バリバリッ!!!
放たれた眩い紫色の【雷魔法】は、音速を越える速度で通路を駆け抜け、ツヴァイの矢よりも遥かに速くゴブリンを黒焦げにして絶命させた。ツヴァイの矢は、すでに倒れかけているゴブリンの肩を虚しく掠めて後ろの壁に突き刺さる。
フィアはフサフサの尻尾を誇らしげにブンブンと振り回し、ツヴァイを見上げて勝ち誇った。
「ワォン!(雷なら、中まで程よくお肉が焼けて美味しく喰えるワン!)」
ツヴァイはちっと舌打ちをし、悔しそうにお耳を伏せるのだった。
「おおおっ!? 今の凄くないか!? フィア、いつの間に雷の魔法なんて使えるようになったんだ! 偉いぞ、凄いぞ!」
後ろを振り返ったレンが、きらきらと目を輝かせて大絶賛した。
大好きな主人にこれ以上ないほど褒められ、意気揚々となったフィアは、嬉しさを爆発させてレンの足元へトコトコと駆け寄った。そして、自慢の柔らかい頭をレンの太ももに「すりすり〜っ」と全力で擦り付ける。
「ワォンワォン(もっと褒めて! いっぱい撫でてワン!)」
「よしよし、フィアは天才だなあ! さすが俺の可愛い護衛だ」
レンに首元や顎の下を優しくガシガシと撫で回され、フィアは目を細めてふにゃりと蕩けたような幸せそうな顔(ご満悦)になる。
しかし、その様子を前衛のポジションからじっと見ていたアハト(ワイマラナー風)とノイン(ボルゾイ風)は、もう我慢の限界だった。
「ずるいワン……俺たちだってマスターに撫でてほしいワン!」と言いたげな上目遣いで、レンのことを健気に見つめてくる。
二匹はたまらずレンの前に歩み寄ると、前足を交互にパタパタさせながら、鼻先をくんくんと鳴らした。
「ガフガフ(マスター、俺たちもゴブリンをかっこよく倒したいワン!)」
「ウォンウォン?(あいつらのところまで、俺たちも倒しに行っていい?ワン?)」
前衛組の「僕たちも戦って活躍して褒められたい!」という切実なおねだりに、レンは苦笑しつつも、その可愛い頭を順番に撫でてあげるのだった。




