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【ブラッシュアップ版】史上最弱のコボルトテイマーが異世界を征服するらしいっす〜最弱スキルの犬たちは、最強の軍勢になりました〜  作者: ボルトコボルト


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005 最弱の魔物。腹ペコのコボルトと、初めての邂逅

 ミッキー侯爵領の領都をあとにしたレンは、ガタゴトと激しく揺れる八人乗りの乗り合い馬車に揺られていた。目指すは、遙か辺境の開拓村だ。


 この戦国乱世、都市を一歩外れれば無法地帯。街道の途中であっても魔物や盗賊が出ることは日常茶飯事であるため、馬車には防衛用の護衛として、ギルドに雇われた四人パーティの冒険者が同行していた。


 構成は男二人、女二人のバランスの取れたパーティのようだ。


 リーダーを務めるのは大剣を背負った体格の良い剣士の男で、ハキハキと喋り、いかにも「頼れる出来る男」といった雰囲気を醸し出している。


 もう一人の男は槍術士で、同じく体格は良いが、どちらかというと太めで寡黙な職人気質の男だ。この屈強な前衛の男二人は、それぞれ馬に跨がり、警戒を怠らずに馬車と並走している。


 一方、二人の女冒険者は馬車の中に同乗していた。一人は弓を持つスマートな狩人で、もう一人はローブを纏った魔法使い。二人とも細身で、今は戦闘の手間がないためか、暇を持て余して姦しい。若い女性らしく、男側の乗客が苦笑いするほど、どうでも良い世間話をノンストップで繰り広げていた。


 なお、この馬車に乗っているのはレンだけではない。丸々と太った商人の男と、そのお世話係らしき若い使用人の女。そして寄り添い合うように座る穏やかな老夫婦。


 レンを含めた七人の乗客に、御者席で手綱を握る男、そして護衛の四人を合わせると、この一行は総勢十人の大帯同となっていた。


  ◇◇


「――む、お喋りはここまで。魔物がくるわよ」

 それまで楽しそうに笑っていた魔法使いの女が、不意に真剣な表情になって声を鋭くした。魔力の探知能力、あるいは索敵の魔法でもあるのだろう。


 その言葉に、狩人の女も即座に無駄話を止め、鋭い目つきで馬車の扉を開けた。そして、並走する大剣のリーダーへ向けて身を乗り出す。


「リーダー! 前方から魔物接近!」

「了解! 任せとけ!」


 リーダーと槍術士の男は即座に愛馬に鞭を入れ、迎撃のために前方へと猛スピードで先行していった。


 凄まじい身のこなしで、狩人の女は走る馬車からひらりと身を踊らせると、そのまま馬車の屋根の上へと駆け上がっていく。上空からの視界を確保するためだ。


「――コボルトだ! 数はそれなりにいるよ!」

 屋根の上から降ってきた狩人の女の声に、レンの心臓がドクンと跳ね上がった。


「コボルト……!?」

 レンは思わず大声を出し、身を乗り出すようにして馬車の窓から外を覗き込もうとした。


「ちょっと、危ないから大人しくしておきな!」

 すかさず、魔法使いの女がレンの細い肩をガシッと掴み、強引に馬車の中へと引き戻す。そして代わりに自分が窓から身を乗り出し、木製の杖を外へと構えた。


(いよいよ、俺のスキルの対象……本物のコボルトとご対面か!)


 怒られたというのに、レンの胸はワクワクとした高鳴りでいっぱいだった。前世のゲーム知識はあれど、生まれてから一度も本物のコボルトを見たことがないのだ。実家では不遇な庶子として自由に出歩くことも許されず、正真正銘、これが初対面となる。


 実家の離れにはコボルトに関する本など一冊もなかったため、自分は「コボルトテイマー」でありながら、その生態を詳しくは何も知らない。


 レンは溢れる好奇心を抑えきれず、今度は魔法使いの女とは反対側の窓から、懲りずにまた身を乗り出した。


「あーあ、注意はしたからね。何があっても自己責任だよ、坊や」

 外を凝視したまま、魔法使いの女が呆れたように警告する。


「馬車を止めな!」

 屋根の上から狩人が叫ぶと、御者が慌てて手綱を引き、馬車は急ブレーキをかけて街道に停止した。


  ◇◇


「ワオオオオオオオン――!!!」

 不気味に響き渡る、犬の遠吠えのような鳴き声。


「ちっ! しまった、討ち漏らした数匹がそっちに向かうぞ!」

 前方からリーダーの焦ったような怒号が響く。前衛の防衛線をすり抜けたコボルトたちが、こちらの馬車に向かって一直線に走ってきているのだ。


「グルルルルル……!」

 鋭い歯を剥き出し、凄まじいスピードで駆けてくる魔物たち。


 その姿がレンの視界に飛び込んできた。


 身長は人間の小学生の子供くらい。狂ったような飢餓の目をギラつかせ、肋骨が浮き出るほどに痩せ細っている。口からはダラダラと涎を垂らし、全身は泥や土、そして血に濡れてひどく汚れていた。


(うわっ……! 正直、思ってたより気味悪いな……)


 前世のゲームのような可愛いグラフィックではない、生々しい野生のモンスターの姿に、レンはどこかテレビの画面でも見ているかのような、他人事のような感覚で圧倒されていた。これが世間でいう「最弱の腹ペコ魔物」のリアルな姿か。


 ヒュン、と風を裂く音がして、屋根の上の狩人が放った矢が一匹のコボルトの喉を正確に貫いた。激しく地面を転がる魔物。


 さらに、レンの顔のすぐ横から魔法使いの杖が突き出された。


「炎よ!――火球ファイアボール!」

 ボウッ!と放たれた炎の玉が、もう一匹のコボルトに直撃して爆発する。


「危ないって言ったろ! 邪魔だからそこを退きなさい!」

 魔法使いの女がレンの服を乱暴に引っ掴み、馬車の中に引き戻そうとする。だが、レンは本物のコボルトの動きを一瞬たりとも見逃したくなくて、窓枠にへばりついて離れない。


 それどころか、もっと間近でその生態を観察したいという衝動に駆られ、レンは混乱する馬車の扉を開け、外へと足を降り立たせてしまった。


「ちょっと! 何やってるの、戻りなさい! 狂ったの!?」

 後ろで魔法使いが絶叫する。


 だが、時すでに遅し。炎と矢をかいくぐった最後の一匹のコボルトが、濁った狂気の目をギラつかせ、目の前まで迫っていた。


 鋭い爪が、レンのすぐ目の前でぎらりと狂気に光る――。

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