048 もふもふ井戸端会議と、コボルトたちからの「過保護すぎるダメ出し」!?
「なぁ、この村って元々はゴブリンの群れに襲われて廃村になったんだよな。その後、街の冒険者ギルドでゴブリンの生態調査をしてるって聞いたんだが……実際の調査結果はどうだったんだ?」
レンは、新しく領専属のハンターとして雇い入れた元冒険者たちに、気になっていた疑問を尋ねてみた。
すると、元冒険者の一人は苦笑いを浮かべ、呆れたように肩をすくめた。
「いやぁ……ぶっちゃけ、あの豚ギルマスもギルドも、あんまり真面目に調査なんてやってなかったみたいですよ」
「はぁ? 一つの村が丸ごと壊滅させられた大事件なのにか?」
レンが眉をひそめると、別のハンターが大きく頷いて同意する。
「ええ。ギルマスお気に入りの例の『漆黒の翼』が、魔物狩りをしながら並行して調査してると触れ回ってましたが、どう考えてもあいつら、ただ普通に素材狩りをしてただけでしたね。挙句の果てに、ろくにやりもしない調査の『割増報酬』まで、ギルマスから裏でちゃっかり受け取ってたみたいです」
「ナニソレ……。そんな不届き者が調査費用をちょろまかしてたのか。……まぁいいや、だったらその『漆黒の翼』のメンバーを捕まえて、その割増分の働きとして調査を継続させよう」
レンが提案すると、ハンターたちは一瞬で真顔になり、気まずそうに視線をそらした。
「いや、領主様、そいつらはもう、この世にいませんよ……」
「え、なんで?」
「⋯⋯主要メンバーはコボルトに腕を斬られて再起不能ですし、残ったメンバーも、この前の城門前の戦闘で、コボルトたちの矢をたらふく受けて、真っ先に死にました。ギルマスの腰巾着として最後まで残ってた連中ですから」
「あぁ……あの、必死の脅しに加担してた奴らね。なるほどね、自業自得か」
レンは納得し、ふと足元で「ごろん」と大きな体を仰向けにして寝そべっている、ゴールデンレトリーバー風コボルトのツヴァイを見下ろした。お腹を丸出しにして「撫でて!」と言わんばかりに前足をせわしなくパタパタさせている。
「ツヴァイ、ちょっとお腹撫でるのをやめて聞いて。ツヴァイたちは毎日みんなで狩りに行ってるよね。この周辺で、ゴブリンの大きな群れとかって見たことある?」
レンが優しくお腹をさすってあげながら尋ねると、ツヴァイはうっとりと目を細め、尻尾を床に「トントン」と打ち付けながら答えた。
「ワン?(なにワン?)……ワンワワン(そんなの見たことないワン)」
現在、このもふもふ城塞都市では、コボルトたちの適性に応じた本格的な役割分担が始まっていた。
アインス(秋田犬風):元総ギルドマスター・アンナの元で、真面目にお薬の調合を勉強中。
フンフ(ハスキー風):イアンとカミラの商会へ出向。カミラの癒やし係 兼 看板犬。
ゼクス(アイリッシュウルフハウンド風)&ズィベン(グレートデン風):伝説の大工・バークの元で、誇らしげに職人の見習い中。
ツェン(ゴールデン風):元総ギルドマスター・ジュリアの元で、目を輝かせて錬金術を修行中。
そのため、最近レンと行動を共にしているのは、ツヴァイ(ゴールデン風)、ドライ(ドーベルマン風)、フィア(フラットコーテッドレトリバー風)、アハト(ワイマラナー風)、ノイン(ボルゾイ風)の5匹がメインだった。
領主の屋敷でも、この選りすぐりの5匹が護衛も兼ねて、レンと一緒に暮らしている。
「だよなぁ。ツヴァイたちが毎日パトロールしてて、もし異常事態があれば、すぐに俺に報告をくれるよなぁ」
すると、ツヴァイの横でキリッと座っていたフラットコーテッド風のフィアと、マチェットを抱えていたドーベルマン風のドライが、当然だと言わんばかりに胸を張った。
「ワォン!(そうだワン!)」
「ガウガウ(何かおかしな気配があれば、すぐにマスターに教えるワン)」
ドライは長い尻尾を「ブン!」と力強く振り、フィアは前足でレンの膝を「ぽすっ」と叩いてアピールする。
「ゴブリンは相変わらずそこら中に沢山出るけど、大体4〜5匹の小規模な群れがほとんどだし。この周辺で村を一瞬で壊滅させるほどの『大軍勢』なんて、やっぱり見たことないよなぁ」
レンが顎に手を当てて考え込むと、上品な長い毛並みを持つボルゾイ風のノインと、美しいグレーの毛並みを持つワイマラナー風のアハトが、そろって首を傾げた。
「ウォンウォン(見たことないワン)」
「ガフガフ(俺もそんなでかいのは見ないワン)」
――そんなレンとコボルトたちの、あまりにもナチュラルで濃厚な「もふもふ会話」を特等席で見せつけられていた元冒険者(現ハンター)たちは、何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。
「……なぁ、あの人、マジでコボルトの言葉を完璧に理解して会話してないか?」
「おいおい、俺たちの新領主様、もしかして、ちょっとスピリチュアルというか、アレな痛い人なんじゃ……」
ハンターたちの中には、レンの頭の心配をし始める者まで出る始末。コボルトたちの賢さをまだ深く知らない彼らにとっては、レンが一人で犬の鳴き声に相槌を打っているようにしか見えないのだ。
「まぁいいや。とりあえず、皆も狩りに行ったときに少しでも変わったことがあったら、すぐに俺に教えてくれ」
レンが話を締めくくると、護衛コボルトたちが一斉に返事をした。
「ガウ!(了解だワン!)」
「ワォンワォンワォン(他の300匹の仲間たちにも、しっかり伝えておくワン!)」
ドライとフィアが頼もしく吠え、ツヴァイもアハトもノインも、嬉しそうにお耳をパタパタさせて深く頷いていた。
◇◇
そんなもふもふ井戸端会議から、数日後のこと。
「ワンワン!」
バタバタと大きな足音を立てて、ツヴァイがレンの執務室へと飛び込んできた。その顔はどこか興奮している。
「ワンワン! ワンワンワン!(マスター! 仲間が外のパトロールで、何かおかしなものを見つけたワン!)」
執務室のデスクの左右で、大好きなレンを護衛していたフィアとノインが、すぐさまツヴァイの前に歩み寄って鼻をクンクンと鳴らした。
「ワォンワォン?(何かって何だワン。不審者かワン?)」
「ウォンウォン(それは……ズバリ、美味しく喰えるモノかワン?)」
「ワンワンワン(ううん、お肉じゃなくて『穴』だワン)」
「ワォン?(穴?)」
「ワンワンワンワンワン(その大きな穴の中に、緑色のゴブリンどもがいっぱい隠れて住んでたらしいワン!)」
「あ〜ちょっと待って! 俺が直接ツヴァイに詳しく聞くから、フィアもノインも一回静かにしてね! 執務室の中がワンワン煩くて耳がキーンってなるよ!」
レンが苦笑しながら両手を広げると、フィアとノインはシュンとしてお耳をペタンと寝かせ、静かにレンの足元へとお座りした。上目遣いで「ごめんなさい」と言いたげに見つめてくる仕草が反則的に可愛い。
「よし。……ゴブリンの隠れ家っぽい穴か。よし、ちょっと俺が直接、その穴の様子を見に行ってみようか?」
レンがイスから立ち上がり、調査のために執務室を出ようとした――その瞬間だった。
ツヴァイが血相を変えてレンの前に回り込み、大きな肉球でレンの太ももをガシッとホールドして引き止めた。
「ワンワンワンワンワンワンワンワン!!(ダメーーー! マスターがそんな危険なところに行くなんて絶対にダメだワン!!)」
さらに、足元で反省していたはずのフィアまでが、すっくと立ち上がってレンの服の裾を優しく甘噛みして引っ張る。
「ワォン!(マスターはすぐに無茶をするからダメだワン!)」
(……え?)
「ワォンワォン(それに、マスターは僕たちに比べて『圧倒的に弱い』からすぐ怪我しちゃうワン!)」
「ウォン……(ダメ?……みたいな空気だワン)」
どうしていいか分からない美犬のノインは、とりあえずレンの腰のあたりに細長いツンとした鼻先を「つんつん」と押し付けて、一緒になって通せんぼをし始める。
「ええええっ!? 『マスターは弱い』って、お前ら俺のことなんだと思ってるの!? ここは普通、主人公である俺が直接現地に向かうパターンだろ!」
レンが過保護すぎるもふもふ軍団に抗議するが、コボルトたちの「愛するマスターを危険な目に遭わせたくない」という固い決意は揺るがなかった。
「ワォンワォン!(マスターはここで大人しく待っててワン!)」
フィアはそう力強く一声吠えると、まるで「ここは私に任せて!」と言いたげな凛々しい顔つきで、疾風のごとく執務室を飛び出していった。
残されたレンは、ツヴァイとノインの二匹から、これでもかとばかりに顔をレロレロと舐め回され、フカフカの毛並みで物理的に拘束されながら、「主人公なのに置いていかれるの!?」と天井を仰ぐのだった。




