040 ようこそ、驚異の「人間6人」都市へ! 移住決定とカミラの叫び
イアンとカミラは豪華な応接室へと案内され、ふかふかのソファーに腰掛けた。
すぐに、可愛らしいフリルのエプロンを着けたトイプードルのコボルトメイドが、香気漂うお茶を淹れて運んでくる。
館の中を見回すと、トイプードルだけでなく、チワワやポメラニアン風のメイドコボルト、さらにはピシッと背筋を伸ばした柴犬やミニチュアダックスフンド風の執事(というか、清掃や片付けをメインにこなす使用人)コボルトたちが、実にてきぱきと働いていた。
「本当にここ、どこ!? って思うくらい変わったわね。領都と変わらないじゃない」
「あはは、門からこの領主の館までの間だけですよ。他はまだ建築中の家屋が多いですから」
カミラの驚きに、俺は照れ笑いで応える。
「しかし、誰がどうやってこの短期間でここまでの都市を作ったのか、商人として興味が尽きないですね」
イアンも感心したように笑顔で尋ねてきた。
「コボルトが建てたんですよ。あの三重の城壁も全部コボルトが作ったんです。彼らはとにかく数が多くて、仕事も早いですからね」
「コボルトが……あの巨大な城壁を……?」
イアンが呆然と呟く。
「ところで、イアンさん、カミラさん。今日はどんなご用件で? 定期的に行商に来てもらえると、村としてもすごく助かるのですが」
「そ、それは……」
二人が急に歯切れ悪く視線を交わした。すると、横からヘレナが不敵に微笑む。
「ああ、無理は言いませんよ。実は隣の街の商会が『ぜひ定期行商に行きたい』って言ってきているんですけど、レンが『イアンさんにお世話になったから』って義理立てして止めているんです。『うちじゃ無理です』って言ってくれたら、すぐにでも隣の街の商人を呼びますからね?」
「ヘレナ、そんなイアンさんを脅すようなこと言わないでよ。俺はイアンさんの準備ができるまで待ちますから」
「え、ああ……」
ヘレナの強烈なプレッシャーにイアンが冷や汗を流す中、カミラが意を決したように身を乗り出した。
「レンくん。実は、まさにその行商のことで話があったの」
「行商の話?」
「いや、商人ギルドから通達があったのよ。『レンの一味は凶悪な傷害事件の犯人だから、街全体で締め出すように』って。見つけたらすぐに冒険者ギルドに報告して捕縛する手筈になっているわ」
「ああ、あの冒険者ギルドねぇ……」
「身に覚えがあるの?」
「あるよ。大ありだ」
俺は、あの受付嬢と悪徳ギルマス、そして『漆黒の翼』が仕掛けてきた拉致未遂と、それをドライたちが返り討ちにした一部始終を話した。
「な、何ということだ……! 隣の領の領主様を盗人扱いするだけでなく、領主の私有物を強奪しようとするなんて、あのギルマスは何を考えているんだ。信じられん!」
イアンは頭を抱えて絶句した。
「そういうことだったのね! よし、行商行きます! イアンさんがしないと言っても、私が個人的にします! その代わり、フンフちゃんを私の護衛に貸してね!」
カミラが拳を握りしめて宣言する。
「カミラ、私はしないとは言っていないよ。言っていないけれど……あの街の商人ギルドに加盟している手前、立場というものがねぇ……う~ん、困った」
「だったら、私が商会を辞めて私一人で独立して行商するわよ。あの辺境の街で売買しなければ文句ないでしょ? 売買の許可はレンくんが出してくれるよね。領主様の許可さえあれば、隣の街と直接取引するわ!」
「許可を出すのは全然問題ないですよ。……っていうかカミラさん、いっそのことこの村に住みませんか? この村の専任商会になってもらえると、俺たちも大助かりなんですけど」
「えっ! 行く行く、住む住む! フンフちゃんと一緒に暮らしても良いかな!?」
「いいですよ。アンナさんもアインスと暮らしてますし、ジュリアさんもツェンや他のコボルト3匹と一緒に暮らしてますから。家も一軒、立派なやつを差し上げます!」
「やったーー! 移住決定ね!」
「ちょっと待ちちなさい、カミラ!」
大喜びするカミラを、イアンが慌てて制止する。
「待ちません! 今までお世話になりました、イアンさん! こんな素晴らしい街に住んで商売ができるなんて夢のようだわ!」
「いや、待てと言っているんだ! カミラではなく、私がこの街に移住して新しい商会を興す!」
「ええーーっ!? ちょっと、私のビッグチャンスを取らないでよおおおお!!」
「はぁ、カミラ、落ち着いて冷静になって考えてみなさい」
イアンは疲れたようにため息をつき、カミラを諭した。
「この村で成功する明確なビジョンがあるのかい? 周りを見てごらん。この村には、そもそも『人』が数人しかいない。コボルトたちは賢いが、通貨を持って商店で商品を購入するわけじゃない。一体誰に商品を売るつもりだい? このままだと、隣の街の老獪な商人に良いように転がされるだけだぞ」
イアンの極めて冷静な指摘に、カミラはハッと目を見開いた。
「え? 数人……? 嘘でしょ、こんなに立派で大きな村なのに、人が数人しかいないの!?」
「うん。現在、人間は俺を含めて5人。カミラさんが来たら6人目だね」
俺が笑顔で事実を告げる。
「えええええーーーっ!? レンくんに騙されたあああああ!!」
てっきり何千人も住んでいる大都市だと思い込んでいたカミラは、まさかの「総人口(人間)5人」という衝撃の事実に、応接室中に響き渡る大絶叫を上げるのだった。




