036 ギルドマスターの悪意と、待ち伏せる因縁の悪党たち
冒険者ギルドに入り、いつもの受付嬢に声をかけた。今は行列もなく、すんなりとカウンター前へ進む。
「こんにちは、買い取りをお願いします」
(あ、冒険者登録の時に対応した、あの感じの悪い受付嬢だ……。なんだか嫌な予感がするな。また面倒な絡まれ方をしなければいいが……)
レンが冒険者証とノズチの極上素材の皮をカウンターに置くと、彼女は一瞬で言葉を失い、信じられないものを見る目でその皮を凝視して固まった。
「えっ! 嘘でしょ……!? ナ、ナニコレ!?」
「ノズチの皮なんだけど。買い取りは可能かな?」
「……ちょっと、勝手に動かないで! そこで待ってて!」
受付嬢は慌ててその高価な皮をひったくるように掴むと、あろうことかカウンターから飛び出し、2階のギルドマスター室へと慌てて駆け上がっていった。あまりの剣幕に、周囲の冒険者たちも何事かと視線を向ける。
ギルドマスター室では、髭面の巨漢であるギルマスが窓の外を眺めながらふんぞり返っていた。そこへ、受付嬢が荒々しく扉を開けて飛び込んでくる。
「ギルマス! 大変です! あのFランクのガキが、信じられないものを持ってきました!」
「あぁ? 何が大変だ……って、大声出すな。……ん? なんだ、その見慣れない上質な素材は……って、ノズチ!? 本当か!」
「はい、これです! 間違いありません!」
ギルマスはガバッと立ち上がり、皮を広げると、卑しい欲望にまみれたニヤリと汚らしい笑みを浮かべた。
「間違いねえ、紛れもない最上位の魔獣ノズチだ……。これほどの素材なら、王都に流せばどれだけの金になるか……。おい、胃袋や食道はねえのか?」
「いえ、持ってきていたのは皮だけですね。他の部位は別で処分したのかも知れません」
「ふむ……Fランクだと? 登録データは本当か?」
「はい、冒険者登録は私が直接担当しましたから間違いありません。あいつはただのテイマーで、戦闘力なんて持ってないはずの底辺のガキですよ」
「くっくっく、俺にもようやく莫大な運が向いてきたな……」
ギルマスの頭の中には、ノズチの素材がもたらす一攫千金の莫大な富の算段しかなかった。さらに、この素材の隠し場所や出所を吐かせれば、自分たちのものにできるという邪悪な企みが広がる。
「そいつを裏の小部屋に連れ込んで捕まえ、ノズチの出所を完全に白状させろ。……『朝焼けの光』と仲が良いみたいだが、あいつらは例の遠征任務で当分この街には戻らねえ。やるなら今しかねえだろ!」
「さすがギルマス、抜け目がありませんね。……じゃあ、こういうギルドの汚れ仕事は、いつものアイツらに任せましょうか」
「おう、以前から目を付けていた『漆黒の翼』を呼んでこい。……お主も、成功した暁には相応のたっぷりとした分け前を期待していいぞ」
「ほほほ、ありがとうございます! すぐに手配しますね」
二人の醜悪な悪徳の密談が終わると、受付嬢はにんまりと笑い、密かに通信用魔道具を取り出して、街で裏稼業を請け負う『漆黒の翼』に直接連絡を入れた。
かつてレンの仲間を不当に襲い、圧倒的な実力でコテンパンに叩きのめされた因縁のワルいパーティ。彼らはその後、この悪徳ギルマスの直属の犬となって、数々の汚れ仕事を引き受けて私腹を及ぼしていたのだ。
「もしもし? ……今、ギルドにあの生意気なコボルトテイマーと変な犬が来てるのよ。すぐに取り押さえて情報を吐かせたいから、裏口に回り込んで、すぐに来てちょうだい」
「おう、了解したぜ! あの『朝焼けの光』がいねえ今なら絶好の好機だな。……あのコボルト野郎、前回のリベンジも含めて徹底的に返り討ちにしてやるよ。手に入った素材は俺たちがいただくし、あいつの連れている魔物も売っぱらって小銭稼ぎもさせてもらうぜ!」
「期待してるわよ。……じゃあ、裏で待ってるわね」
ギルドのカウンター前で、そんなドス黒い陰謀が巡らされていることなど露知らず、レンは直立不動のドライと、隙のない姿勢のアハトを従えて、のんびりと待機していた。
彼らの背後には、かつて因縁をつけた街で最も厄介な火種が、狂気的な笑みを浮かべながら着々と近づきつつあった――。




