037 逆恨みの代償! 圧倒的無双(マチェット一閃)、そして現れた諸悪の根源
(ったく、いつまで待たせるんだ……? 査定してさっさと買い取りのお金を貰って、買い物に行きたいんだけどな)
カウンターの前でポツンと待たされ、レンはいい加減イライラし始めていた。そこへ、ようやくあの感じの悪い受付嬢が戻ってくる。
「お待たせしました。ちょっとお伺いしたい事情があるので、奥の部屋まで来てください」
(はぁ……やっぱり、なんか面倒なことを言い出したぞ)
「あー、この後に用事があるのでお断りします。買い取り額をすぐに提示して、今ここで買い取ってください。すぐに査定できないなら、そのノズチの皮を今すぐ返してください」
「な、なんか怪しいわね! 何でそんなに急いでるのよ? さてはこれ、どこかから盗んできたんじゃないの!?」
(何で急いでるかって、今『用事がある』って言っただろ……)
「はぁ……盗んだという証拠でもあるのですか? 確証もないのに、ただ怪しいというだけで人を盗賊呼ばわりするとは、無礼にも程がありますよ」
「ぶ、無礼!? あんたねぇ、Fランクのひよっこ冒険者が、ノズチみたいなAランクの魔物を退治できるわけないでしょ! 盗んできたに決まってるわ。盗んでないって言うなら、どうやって退治したかここで証明してみなさいよ!」
「僕が自分で討伐したなんて、一言も言ってませんよ。腕の立つ強い人がノズチを退治して、僕に売買の代理を依頼したという可能性もあるでしょう? それは規約違反でも何でもないはずです。さらに、その退治した方法を僕が知っていたとしても、それをギルド側に一から十まで報告する義務はないはずですが!」
あまりの理不尽な難癖に、イライラが頂点に達したレンは、気づけば怒気を含んだ大声で正論をまくしたてていた。
「へ? ……っ」
受付嬢は完全に言葉に詰まり、黙り込んだ。
(正論すぎて言い返せない……! 確かにこの子が退治したんじゃないとしても、これを渡した『凄腕の誰か』がバックにいるってことじゃない。もしその人を敵に回したら、ノズチを倒せるAランク以上の化け物冒険者を怒らせることに……っ。ちっ、不味いかも……)
彼女が青ざめて硬直した、その時だった。
「おいおい、泥棒風情が大声出してんじゃねえよ。奥に来いって言われてんだから、大人しく従いやがれ!」
ギルドの重い扉を蹴り開けて、あの因縁のパーティ『漆黒の翼』がゾロゾロと入ってきた。
先頭の男がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、レンを力ずくで拘束しようと、その汚い手を肩へ伸ばした――瞬間。
「きゃあああああッ!?」
受付嬢の耳をつんざく悲鳴が響き渡り、続いて男の絶叫がギルド内に木霊した。
「ぎゃああああああああーーっ!?!?」
「ガウウゥゥ(マスターに気安く触るな、無礼者が。……細切れにするぞワン)」
レンの影から音もなく踏み出したドーベルマン風のコボルト・ドライの手には、ジュリアの工房で完成したばかりの、あの特製マチェットが握られていた。そして男の右腕は、肘から先が床にゴロリと転がっていた。
「う、うぐっ……ああああっ!」
男は噴き出す血を押さえ、床に蹲って激しくのたうち回る。
「て、てめえぇぇ!! ただで置くかよぉぉ!!」
『漆黒の翼』の残りのメンバーたちが一斉に顔を真っ赤にして激昂し、腰の武器を荒々しく引き抜いた。
「ガウガウ(マスターは俺たちが守るワン)」
「ガフガフ(マスターに刃を向ける不届き者め。一匹残らず骨を断つワン)」
ドライとワイマラナー風のアハトが、冷徹な目でマチェットを抜いて構える。
「ドライ、アハト。一応、殺すなよ」
「ガウガウ(了解だワン)」
「ガフガフ(手加減するワン)」
レンがため息混じりに命じた直後、修羅場は一瞬で終わった。
男が怒りに任せて振り下ろした大剣を、ドライは紙一重のステップで余裕しゃくしゃくに回避。すれ違いざま、容赦なくその男の両手首を文字通り『斬り落とした』。
さらにアハトが風のような速度で地を駆ける。あまりの速さに、襲いかかった男たちは目で追うことすらできない。気づいた時には、武器を持っていた手首が鮮やかに切断され、宙を舞っていた。
何が起きたのか理解できず、呆然と立ち尽くす最後の男たちの武器も、ドライとアハトの無慈悲な追撃によって手首ごと綺麗に消し飛ばされる。
仕上げとばかりに、2匹の強力な後ろ蹴りが男たちの胸板に炸裂し、彼らはギルドの壁までぶっ飛んでいった。
(な、何よこれ……何が起きてるのよ!? なんでCランクの有名パーティが、たった2匹の、それも短毛のコボルトに一瞬で完敗してんのよぉぉぉ!?)
「がああああああ!」
「手が、俺の手がああああ!」
「痛え、痛えよぉぉぉ!」
床は血の海と化し、手首を失った悪党たちが涙と鼻水に塗れて泣き叫ぶ。ギルド内にいた他の冒険者たちは、そのあまりの圧倒的な無双劇に、生唾を飲み込んでただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「そこまでだ! 小僧ぉぉ!!」
静まり返ったギルドに、重苦しい怒号が響く。2階の階段から、これ見よがしに威圧感を放ちながら、髭面のギルドマスターがゆっくりと降りてきた。
「ギルド内での殺傷沙汰は重罪だ! 貴様、自分の従魔が仕でかしたことの責任は、当然取れるんだろうなァ!?」
すべてをレンのせいにして叩き潰そうと、ギルマスは醜悪な笑みを噛み殺しながら、上から目線で睨みつけるのだった。




