023 怒涛の質問攻めと、戦慄のゴブリン解体! 新顔「超大型もふもふ」ドイツ語シリーズ命名式
「ちょっとレンくん!! 何なの、今の子たちは!?」
ゴブリンの殲滅が完了するや否や、ヘレナは馬車の屋根から軽やかに飛び降り、レンの元へと猛ダッシュで駆け寄ってきた。そして、昨日テイマーズギルドで見せたあのマシンガントークの堰を、再び全力で切って落とした。
「信じられないんだけど! ゴブリンより強いコボルトなんて私、生まれて初めて見たわよ! 馬の突撃に追いつきそうになるくらい速く走るし、弓や槍や大剣まで使えて、というか完全に使いこなしてるじゃないの! 本当にコボルト? おかしいよね、中に人間が入ってたりしないわよね!? それから、さっきの生活魔法の光は何!? これが、昨日から気になってた『綺麗で臭わないもふもふコボルト』の秘密ね!? まさか、魔物にスクロール(魔法スクロール)を使ったの? 魔物ってスクロールを使えるの!? もし使えるなら他の攻撃魔法も――」
「ストップ! ヘレナさん、一回そのくらいにしてくれ!」
耳元で鳴り響く止まらない大音量トークに辟易したレンは、両手を前に出してヘレナの言葉を遮った。
「ほら、あっちで後片付けが始まってるからさ。俺、手伝ってくるから! じゃあ!」
それだけ言い残すと、レンは逃げるようにしてゴブリンの解体作業をしているコボルトたちの元へと走り去った。後ろでヘレナが「あ、待ちなさいよー!」と叫んでいるが、今は聞こえないフリをする。
戦場の一角では、アインスが飢えて腹ペコだった新入りの野生コボルト5匹を並べ、マイ鉄板でいつもの「焼き謎肉」と「謎ホルモン焼き」を振る舞っていた。
「ワフワフワフー、ワフフワフワフ!」(肉はこの、表面をちょっと炙った程度のレアが一番美味いんだワン!)
アインスは一心不乱に肉を貪る新入りたちに向かって、我が物顔で焼き加減のレクチャーを施している。
「ワフワフ」(ちなみにホルモンは、しっかりウェルダンに焼いたほうが甘みが出て良いワン)
新入りコボルトたちは「クフン、クフン!」と激しく同意しながら、涙目で肉を口に放り込んでいた。
「うへぇ……お前ら、ゴブリンまで解体して喰うのかよ……」
一方、人間にとっては「不味くてとても喰えたもんじゃない」とされるゴブリンの死体を、再利用(食用)のために慣れた手つきで捌き始めたコボルトたちを見て、フェルダーが盛大に顔を顰めながらドライに尋ねていた。
「ガウガウ!」(リーダー、ゴブリンも血抜きをちゃんとして、この内臓の脂のところを焼くと割と美味しいワン!)
ドライはマチェットを片手に、とっつぁん直伝の手際でゴブリンを解体していく。
ツヴァイ、ドライ、フィア、フンフの4匹は、もはや解体職人のような無駄のない動きで作業をこなしていた。ゲイル、エリー、ダリアの3人は、自分たちでゴブリンの魔石だけを素早くくり抜くと、あとは感心したようにコボルトたちの見事なナイフ捌きを眺めている。
レンが近づいてくるのに気づき、エリーが立ち上がって声をかけた。
「あ、レン。ちょうど良かったわ。あの子たちにも、早く名前を付けるでしょ?」
「そうだね。これからはうちの家族だし、名前をつけないとね」
レンは、アインスの横でそれぞれ異なる行動をとっている個性豊かな5匹の新入りコボルトたちを見つめた。
「ん〜、そうだな。……こっちをじっと見てるのがゼクス。満腹になって寝そべってるのがズィベン。まだ夢中で食べてるのがアハト。アインスと楽しそうに話しているのがノイン。辺りの臭いをクンクン嗅ぎ回っているのがツェンだな!」
【レンの脳内ネーミングメモ】
先輩たちが1(アインス)から5(フンフ)だから、名前を考えるのが面倒だし「ドイツ語数字シリーズ」を続投しよう。
6がゼクス、7がズィーベン、8がアハト、9がノイン、10がツェンだったはず。ズィーベンはちょっと呼びにくいから、これからは『ズィベン』でいこう。
しかし、名前は安直な数字シリーズであるものの、今回の新入りコボルトたちの元となった犬種のプロポーションは、これまでの5匹を凌駕するほどの「超大型もふもふ軍団」だった。
■新メンバーの「もふもふ」ラインナップ
ゼクス(6):アイリッシュウルフハウンド型
元は狼を狩っていたとされる、世界最大の体高を誇る超大型犬種の姿。毛色はシブいグレー。立ち上がると人間を軽く見下ろすほどの巨躯だが、大人しくレンをじっと見つめている。
ズィベン(7):グレートデン型
アイリッシュウルフハウンドに次ぐ大型の犬種。垂れ耳で、美しく引き締まった短毛が特徴。毛色は「フォーン」と呼ばれる、子鹿のようなやや明るめの綺麗なブラウン。お腹がいっぱいになったのか、すでに地面で大物らしく寝入っている。
アハト(8):ワイマラナー型
ドイツ原産の気品溢れる狩猟犬の姿。なめらかな短毛は、太陽の光を浴びて光り輝く美しいシルバーグレー。精悍な顔立ちで、今もなおスタイリッシュに謎肉を咀嚼している。
ノイン(9):ボルゾイ型
ロシアの貴族に愛された、狼狩りの超大型高脚犬の姿。ロシア語で「俊敏」を意味する名の通り、四肢がスラリと長くて走るのが滅法速い。
絹のように細くウェーブがかったオーバーコートと、防寒用のアンダーコートのダブルコートを持ち、その毛並みは極上。毛色は黒みがかった渋いグレーである「ブルー」。モフモフファンにはたまらない高貴な佇まいで、アインスと談笑している。
ツェン(10):チベタンマスティフ型
「東方神犬」の異名を持つ、超巨大なダブルコートの被毛に包まれた希少種。ツェンは特に首周りの毛が長くふさふさとした「獅子型」で、その威風堂々とした風貌は一見すると完全にライオンである。
圧倒的なボリュームを誇る漆黒の毛並みは、世界中のモフモフフリークが垂涎する最高峰の仕上がり。本能のままに地面の臭いを嗅ぎ回っている。
「……ねえ、フェルダー。レンのコボルトたちって、新入りも含めて全員、普通のコボルトの枠を完全に超えてない?」
新メンバーのあまりの巨躯と神々しい毛並みに、ダリアが頬を引きつらせながら呟く。
「ああ。全くだ。特にあのライオンみたいな奴と、馬並みにでかい奴……。あいつらが武器持って突撃してきたら、ゴブリンどころか大抵の魔物は泣いて逃げ出すぞ」
フェルダーは大剣を肩に担ぎ直し、頼もしすぎる「10匹のもふもふ大家族」となったレンのパーティを見つめて苦笑するのだった。




