022 ゴブリン掃討の電撃戦! 絶妙な連携と、もふもふ新メンバーの緊急テイム
辺境の開拓村を目指し、平原の街道をひた走る一台の大きな馬車があった。馬車の左右には、馬に跨がったフェルダーとゲイルが鋭い視線で周囲の森や草むらを警戒し、御者台ではエリーとゴールデンレトリーバー風のツヴァイが並んで器用に手綱を握っている。
揺れる馬車の荷台には、レン、ダリア、ヘレナの3人と、アインス、ドライ、フィア、フンフの4匹のコボルトたちがひしめき合っていた。道中、アンナに教わった通りに貴重な薬草を見つけては採取し、飛び出してきた野ウサギなどを狩りながら、一行は比較的のんびりとした行程で旅を続けていた。
そうして野営を挟んだ、次の日の昼下がりのことである。
その日の御者番はダリアと、フラットコーテッドレトリバー風のフィアが務めていた。
「ワォン!」(……変な匂いだワン! コボルトが獰猛な魔物に追われてこっちに来るワン!)
フィアが突然、前方をキッと睨みつけて警戒の声を上げた。
「フィア、どうしたの? 魔物!? ――『サーチ(索敵)』! ……本当だわ、コボルトの集団が前方からこっちに走ってくる!」
ダリアが即座に探索魔法を放って確認すると同時に、馬車の荷台でもコボルトたちが一斉に窓へと鼻を押し付け、激しくフンフンと臭いを嗅ぎながらレンに状況を伝え始めた。
「ワフワフワフ!」(マスター! 野生のコボルト5匹が、後ろから10匹のゴブリンに追われてるワン!)
「ワンワンワン!」(同じコボルトとして見捨てられないワン! 助けてあげたいワン!)
「ガウガウガウ!」(汚いゴブリンめ、俺たちがコテンパンにやっつけてやるワン!)
「バウバウバウ?」(マスター、武器を持って飛び出して良いワン!?)
コボルトたちの熱い意思を受け取ったレンは、御者台のダリアに向かって大声で叫んだ。
「ダリアさん、馬車を停めてください! 前方で野生のコボルトがゴブリンの群れに追われているみたいです! うちの子たちが、どうしても助けたいって言ってます!」
「分かったわ! ――リーダー、ゲイル! 前方に敵影! コボルトがゴブリンに追われてる、救助を優先して迎撃に行くわよ!」
ダリアが勢いよく手綱を引いて馬車を急停車させ、自身もフィアと共に地面へと鮮やかに飛び降りた。
「了解した! 行くぞゲイル!」
馬車と並走していたフェルダーとゲイルは、即座に愛馬の腹を蹴り、強烈な速度で前方へと突撃を開始する。
レンも荷台の扉を蹴り開け、武器を手にしたコボルトたちを引き連れて外へと飛び出した。
「よし、俺が逃げてきたコボルトたちを順番にテイム(従魔化)する! アインスは俺の横について、マジックバッグの回復薬で傷ついたコボルトたちを治療してくれ! ――アインス以外は前衛のサポートだ、戦ってこい!」
レンの的確な指示を受け、戦闘班のコボルトたちが一斉に地面を蹴る。
一方、後方支援に回ったエリーとツヴァイは、まるで息の合った双子のように並んで馬車の屋根へと軽々と飛び乗り、それぞれ愛用の弓を構えて矢を番えた。ダリアとヘレナもそれに続いて屋根へと駆け上がる。
「カァー♪」
すると、上空からヘレナの従魔である三本足の八咫烏、ヤタが大きな羽音を立てて降りてきた。
「ヤタ! 状況確認、上空からの監視をお願い!」
「カー、カー!」
ヘレナがゴブリンたちのいる方向をビシッと指差すと、ヤタは鋭い声を上げて再び飛翔。ゴブリンたちの頭上を旋回しながら、完璧な空中偵察の陣を敷いた。
戦場では、馬を駆るフェルダーとゲイルが、必死に逃げてくるボロボロの野生コボルト5匹を綺麗に迂回し、その後方をニタニタと笑いながら追っていたゴブリンの集団へと肉薄する。
その間を縫うようにして、ドライ、フィア、フンフの3匹が、逃げてくる同族を安心させるように真っ直ぐ向かっていく。
「ガウー!」(もう大丈夫だワン! 助けに来たワン!)
ドーベルマン風コボルト・ドライがマチェットを掲げて吠える。
「ワォーン!」(あとは俺たちに任せろワン!)
「バウバウバウ」(後ろは全員味方だ、そのまま真っ直ぐ走るんだワン)
野生のコボルトたちが驚いて顔を上げた瞬間、彼らの頭上を、凄まじい風切り音と共にエリーとツヴァイが放った一対の矢が通り過ぎた。
シュパァン!と小気味良い音が響き、追従していたゴブリン二匹の額を正確無比に貫く。
間髪入れず、屋根の上のダリアが杖を掲げた。
「焼き尽くしなさい! 『ファイアボール』!」
放たれた火球がさらに一匹のゴブリンの胸元で炸裂し、激しい炎を巻き上げる。
「グゲエエエエ!?」
一瞬にして三匹が物言わぬ肉塊と化し、激しく燃えて転がる仲間を見たゴブリンたちは、想定外の強襲にパニックを起こしてその場に立ち止まり、狼狽えながら辺りを見回した。
だが、Bランクパーティと訓練されたコボルトたちの猛攻は、彼らに立ち直る時間など微塵も与えない。
横から回り込んだフェルダーの鋭い大剣がゴブリンの胴体を両断し、ゲイルの流れるような槍捌きがもう一匹の心臓を正確に穿つ。
さらに突撃したドライが身の丈ほどもあるマチェットで別のゴブリンの首を鮮やかに跳ね飛ばし、フンフが訓練通りの鋭い突進で槍を突き刺し、フィアが魔力を込めた杖の先端でゴブリンの喉元を一撃で突き砕いた。
「グ、グゲェ……ッ」
ものの数十秒で大半が殲滅され、残った二匹のゴブリンが恐怖に顔を歪めて慌てて森へ逃げようと背を向けた。しかし、その背中に向かって、馬車の屋根からエリーとツヴァイが放った二の矢が容赦なく襲いかかる。
ドスッ、ドスッ、と鈍い音がして、矢は二匹の後頭部へと深く突き刺さり、ゴブリンたちはそのまま前のめりに倒れ伏して二度と動かなくなった。完全なる圧勝、電撃戦の終結だった。
一方、安全な馬車の前では、逃げ切ってへたり込んでいたボロボロの野生コボルト5匹に対し、レンが素早くテイムの光を放っていた。
「よし、テイム完了! ――アインス、お願い!」
「ワフワフ!」(了解だワン!)
アインスは首から下げたマジックバッグからアンナ特製の回復薬を器用に取り出すと、怯える新しい仲間たちの口元へ持っていき、優しく飲ませてあげる。さらにフンフたちから教わった生活魔法『クリーン』をパパッと全員に掛け流した。
さっきまで泥と血に塗れて死にかけていた野生のコボルト5匹は、ポーションの劇的な効果で傷が癒え、クリーンの光によって一瞬でピカピカのふかふか姿へと生まれ変わる。
命を救われ、さらに自分たちと同じように立派な武器を持ち、ツヤツヤの毛並みをしたアインスたちの姿を見た新入りコボルトたちは、レンの足元にひれ伏し、感謝と忠誠を込めて「クゥーン、クゥーン」と嬉しそうに鳴き声を上げるのだった。




