021 いざ、壊滅した開拓村へ! 新たな仲間ヘレナの従魔と、戦力過剰な護衛パーティ結成
アンナたちの家を出て、約束通り冒険者ギルドの前へと戻ってきたレンとコボルトたち。平日の午前中とはいえ、ギルド前を行き交う女性冒険者たちが「キャー、今日ももふもふがいるわ……」「可愛い……」と遠目から熱い視線を送り、ヒソヒソと呟いている。
(うう、やっぱりめちゃくちゃ注目されてるなぁ。隠密行動なんて最初から無理だったんだ)
レンが内心で苦笑していると、ギルドの馬車留めの方から鋭い声が響いた。
「ツヴァイ!」
「フィア!」
手を振っているのは、エリーとダリアだ。
「ワン!」「ワオン!」
ゴールデンレトリーバー風のツヴァイはエリーの元へ、フラットコーテッドレトリバー風のフィアはダリアの元へと嬉しそうに駆け出していき、それぞれの師匠に勢いよく飛び着いた。
「やっと来たわね。待ちくたびれちゃったわよ」
大荷物を抱えたヘレナが、すでにギルド前でスタンバイしていた。
「おう、ヘレナも無事に間に合ったようだね。約束の2時間にはまだ少し余裕があるけど?」
「ええ、あの後に猛スピードで荷物をまとめてギルドに鍵をかけてきたわ! ……ところでレンくん、この人たちが君の言っていた知り合いの冒険者? ねえ、紹介してよ」
ヘレナが興味津々にフェルダーたちを見つめる。
「ああ、フェルダーさん。彼女はテイマーズギルドのヘレナさんです。色々と事情がありまして、今回の辺境の開拓村に同行(引っ越し)することになりましたので、よろしくお願いします」
「テイマーズギルドの……。なるほど、あの高名な『プロフェッサー(魔物博士)』の孫娘のヘレナさんだね。俺たちはBランクパーティの『朝焼けの光』だ。道中、レンの従魔たちの師匠をやっていてね。レンたちのことが心配だから、今回は村まで護衛をすることにした。俺がリーダーのフェルダーだ。よろしく」
「あら、偏屈な祖父のことまで知っているのね。流石はBランクパーティ、街のトップランカーだけのことはあるわね。レンくん、随分と頼もしい知り合いがいるじゃない」
ヘレナは感心したようにフェルダーを見つめ、好意的な笑みを浮かべた。
「俺はゲイル」
相変わらず無口なゲイルは、挨拶もそこそこに、すでに自分の足元でお座りしているシベリアンハスキー風のフンフの頭を嬉しそうに撫で撫でしている。
「私はエリーよ、よろしくね」
「ダリアよ。可愛いツヴァイたちの同行者なら歓迎するわ」
エリーとダリアも、ツヴァイとフィアを盛大にモフりながら自己紹介を済ませた。
「エリーさん、ダリアさん、これ。さっきイアンさんの商会で買った、街で流行りの饅頭です。アンナさんの家で一緒に食べたらすごく美味しかったですよ」
レンは持っていた高級感のある菓子折りの箱をエリーへと手渡す。
「あら! 流行りの甘味じゃない! 気が利くわねぇ、有難う、道中のおやつにみんなでいただきましょう」
エリーが嬉しそうに目を細める。
「フェルダーさん。では、出発の前に私が冒険者ギルドの窓口で『指名依頼』の体裁で書類を出してきます。クエストとして正式に受注契約をしてから出発しましょう」
「お、そうだな。ギルドの手続きを通しておいた方が後々トラブルにならなくて済む。宜しく頼むぜ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ワン!」「ガウ!」
アインスとドライも、主に同意するように短く吠えた。
「ゲイル、今のうちに馬車の準備をしておいてくれ」
「……あ(了解)」
フェルダーの指示を受け、ゲイルがすぐにフンフの顔を見下ろす。
「フンフ、手伝え」
「バウ!」(了解だワン!)
ゲイルとフンフの一人と一匹は、息の合った様子で馬車の準備をしに裏手へと回り始めた。
「ねえ、あの大きな馬車って『朝焼けの光』の自前なの?」
ヘレナが不思議そうにエリーたちに尋ねる。
「そんな訳無いでしょ。私たちは普段前衛で戦うパーティだから、こんな大きな荷馬車は持っていないわ。ギルドから格安で借りたのよ」
「牽いている馬は私たちの自前だけどね」
ヘレナの問いに、エリーとダリアが交互に応える。
「そりゃそうか。じゃあ、御者はどうするの? 結構な長旅になりそうだけど」
「フェルダーとゲイルは警戒のために馬に乗って同行するから、馬車の御者は私とエリーが交代でやるわ。……もちろん、フィアとツヴァイにも、この旅の間に馬車の御者のやり方を覚えてもらう予定よ♪」
「ワン♪」(お馬さんの操縦、頑張るワン!)
「ワオン♪」(エリーに褒めてもらうワン!)
二匹は嬉しそうに尻尾を振っている。
「へ、ヘレナもテイマーと言うことは、何か戦える従魔がいるんでしょ? 今回みたいな危険な地域に行くんだから」
ダリアが尋ねると、ヘレナは不敵な笑みを浮かべた。
「ふふん、もちろんいるわよ! でも、私、大きい魔物は顔が怖くて苦手だから、小さくて可愛い魔物だけだけどね。――おいで、ヤタ!」
ヘレナが口笛を短く吹くと、どこからともなく一羽の漆黒の鳥が飛来した。そして、ヘレナの肩へと器用に留まる。その鳥の足は、なんと『三本』あった。
「カー♫」
「へぇ、まさか『八咫烏』か! 随分とレアで賢い従魔を連れているじゃない。これなら偵察も自衛ぐらいも余裕で出来そうね」
エリーが目を丸くして驚く。
「楽勝よ! ……と言いたい所だけど、流石に本職のBランクパーティの前ででかい顔はできないわよ」
「ふふ、でも当てにしてるわよ。なんたってレンはまだまだ弱っちいからね。もし接敵した時は、ヘレナがレンを守ってくれるだけで私たちは御の字よ」
ダリアがくすくすと笑う。
「そうよ、接敵してもヘレナが数分時間を稼いでくれるだけで良いわ。私たちが絶対にゴブリンをぶっ飛ばして助けに行くからね」
「それくらいならお安い御用よ。レンくんは我がテイマーズギルドの超貴重なメンバー(唯一の顧客)だから、言われなくても死守するつもりでいたわ。ぶっちゃけ、弱っちい新米冒険者の護衛だったら、おじいちゃんの残していった凶悪な従魔たちを総動員して行く気だったけど……あなた達トップランカーが護衛ならその必要もなさそうね。ヤタが居なくても戦力オーバー(過剰)は確実だもの」
「へぇ、プロフェッサーの孫娘の実力、ちょっと見てみたいんだけどなぁ? その総動員とやらを」
エリーがニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
「あら、乙女は誰しも秘密を隠し持っているものよ。そうでしょ?」
ヘレナはパチンとウインクをして見せた。
「ふふ、まあそういう事にしておきましょうか。さあ、レンたちが戻ってきたら出発よ!」
レンがギルドの中で正式な指名依頼の契約を済ませ、アインスとドライを連れて戻ってくると、一行は大きな荷馬車に乗り込み、ついにゴブリンに襲撃されたという因縁の辺境開拓村を目指して、街の大きな城門を出発するのだった。




