019 商会を揺るがすもふもふ旋風! フンフへの愛が止まらないカミラと、大人の知恵
テイマーズギルドを出たレンたちは、まずはカミラのいる商会へと向かうことにした。
クンクン、クンクン……。
「バウバウ!」(こっちだワン! 懐かしい匂いがするワン!)
シベリアンハスキー風のコボルト・フンフが、ピンと尻尾を立てて先頭を歩き、迷いのない足取りで街の通りを案内していく。
(そういえは昨日、カミラにどこに住んでるのか、どこに行けば会えるのかって聞いたら、『フンフに聞けば一発よ!』って言ってたけど……本当に匂いだけで分かるんだな。コボルトの嗅覚、恐るべしだ)
フンフの完璧なナビゲートにより、レンたちは街でも一際大きくて立派な商会の建屋へと到着した。
ちょうど朝の開店準備の真っ最中らしく、慌ただしく荷物を運んだり棚を整えたりしている店員たちを横目に、「失礼します」と挨拶しながら奥へと進んでいく。
「おや? これはレン様と、フンフたちじゃないですか!」
奥から現れたのは、昨日まで一緒に馬車に揺られていた、あの恰幅の良い商人だった。
「お早う御座います。今日、午前中のうちに開拓村に向かうことになったので、出発前にカミラさんに挨拶しに来ました。それと、ついでにこの後アンナさんの家にも寄るので、何か手土産に菓子折りでも買おうと思ってたんですけど……まだ開店前みたいですね」
「ああ、菓子折りですか! それなら、いま当店にちょうど良い『饅頭』があるのです。甘すぎない極上の餡子が上品だと、いまこの街の貴族や商人の間で大流行していましてね。よし、すぐに一箱持ってこさせましょう。レン様にはこれまでのよしみもありますし、サービスして格安にしておきますよ!」
「本当ですか? 有難うございます。それじゃあ、挨拶用と自分たちの分で……1つ、いや、2つもらおうかな」
「毎度あり!」
商人が商売人らしいいい笑顔を浮かべた、その時だった。
「フンフー!! 私に会いに来てくれたのねーーっ!?」
ドタドタドタと通路の奥から凄まじい足音が響いたかと思うと、カミラが文字通り飛んできて、フンフの首に思いきり抱き着いた。
「おう、カミラ、ちょうどいいところに。レン様がその流行りの饅頭を二箱御所望だ。奥から持ってきてくれ」
「分かったわ! ――ほらフンフ、一緒に行くよ!」
カミラはフンフをがっしりと抱きかかえたまま、愛おしそうに頬ずりしながら再び奥の倉庫へと戻っていった。
(おいおい、フンフを拉致して連れて行くなよ……)
レンは引きつった笑みを浮かべるしかない。
数分後、カミラは約束の菓子折りの箱を小脇に抱え、しっかりとフンフの手を引いて戻ってきた。
「はい、お待たせ! 御所望の菓子折り二箱よ」
カミラはレンに高級感のある菓子折りを二箱手渡すと、まるで磁石のように、またしてもフンフにがばりと抱き着いた。
「フンフ、急にいなくなっちゃって寂しかったでしょ? 遠慮しないで、ずっとここに居ても良いんだよ?」
言いながら、フカフカの毛並みをこれでもかとモフモフしている。
「きゃあああ! 何々、この子すっごく可愛い!」
「カミラ、何そのワンちゃん、新種?」
「イアンさん、この可愛い子たちどうしたんですか?」
「ずるいカミラ! 私にもモフモフさせてよ!」
カミラの騒ぎを聞きつけたのか、開店準備をしていた女性の店員たちが、仕事を一時中断してワラワラと集まってきた。アインスやツヴァイたちも含めたもふもふ軍団の破壊力は、お年頃の女性陣には刺激が強すぎたらしい。
「駄目よ! フンフは私が特別に可愛がってるワンちゃんなんだから、皆はあっち行って!」
カミラがフンフを隠すように抱きしめて威嚇している。
(へぇ、あの商人の名前は『イアン』って言うらしいな。……いや、この世界のカタカナの名前、全然覚えきれねえや)
レンは心の中でそんな風にぼやきながら、目の前で繰り広げられるもふもふ争奪戦をボーっと眺めていた。
ちなみに当のコボルトたちは、容赦なく伸びてくる女性店員たちの白い手から、流れるような身のこなしで「スン……」と躱しつつ、困り顔で(マスター、早く帰ろうワン……)とレンに助けを求める視線を送っている。
「じゃあ、そろそろ時間もあれなので行きますね。イアンさん、カミラさん、また会いましょう」
「あ、ちょっと待ってレンくん! 近いうちに開拓村の方へ私が行商に行くから、首を長くして待っててよね! その時は、フンフに村の案内と私の護衛を頼むわ!」
(行商の帰りの護衛はいいとして……行き(ここから村まで)の護衛はどうするんだろう?)
レンの脳裏にそんな素朴な疑問が浮かんだが、そこは修羅場をくぐり抜けてきた(?)大人の判断が働いた。ここで突っ込んではいけない。
「はは、楽しみに待ってますよ。――よし、みんな行くよー」
レンが声をかけると、コボルトたちは待ってましたとばかりに一斉に動き出す。
(だって、『行きはどうするの?』なんて下手に聞いたら、絶対に『じゃあフンフをここに置いていきなさいよ!』って言われるに決まってるしね)
「フンフ〜! またねー!」というカミラの熱い見送りの声と、女性店員たちの執拗なモフモフ攻撃の手を、華麗なステップで躱し続けながら、コボルトたちは嬉しそうにレンの後を追って商会をあとにするのだった。




